世界一の経営者が秋葉原のAKB劇場に通っていた。そう聞くと、皆さんはどう感じるでしょうか。「趣味なんだね」「まあ、楽しむのも大切だし」と軽く受け止める人が多いはずです。
しかし実は、この経営者がAKB劇場に通った理由はそんな軽いものではありませんでした。世間を知ること、お客様の興味関心、そして“等身大の社会”を知るために必要だからこそ取った行動だったのです。
今回は世界一の経営者がAKB劇場に通った本当の理由について解説していきます。
世界一の経営者がAKB劇場に通った訳
今回取り上げる世界一の経営者とは、ズバリ、トヨタ自動車株式会社の会長・豊田章男(※モリゾウ)さんです。
彼はリーマンショックの煽りを受け創業以来初の赤字となった2009年に社長へ就任し、そこから約15年間トヨタの社長として、現在は会長として自動車産業を牽引してきた存在です。
そんな豊田さんの考え方がよく現れているエピソードが、豊田章男さんの元広報業務秘書として豊田章男さんを支え、現在はトヨタ自動車フェローとして活躍している藤井英樹さんの著書『上司 豊田章男 トヨタらしさを取り戻す闘い 5012日の全記録』に書かれており、その中で特に印象的に感じたエピソードがありました。
※モリゾウとは、豊田章男さんがレースに出場する際に名乗る名前。ここでは、著書からの引用部分は豊田さん、それ以外はモリゾウさんと呼ばせて頂きます。

(トヨタ自動車の豊田章男会長)
(提供 トヨタ自動車)
『出た!トヨタのエリート』豊田さんがそう語った真意とは
時は今から約14年前の2011年6月10日、AKBがまさに全盛期だった頃、モリゾウさんは出社するなり広報業務秘書の藤井さんに『藤井くん見た?昨日の前田敦子さんのスピーチ。良かったよね』と話しかけたそうです。
しかし当時の藤井さんは、何のことだか、さっぱりわかりませんでした。実はその前日、AKB48の「総選挙」と言われるイベントが行われ、ファン投票で1位に返り咲いた前田敦子さんが『1つだけお願いがあります。私のことは嫌いでもAKBのことは嫌いにならないでください』と涙ながらに訴えたのが世間では話題になっていました。
ところが当時の藤井さんはAKB総選挙に興味がなく、話題のスピーチのことも全く知らず答えられなかったのです。
その様子を見たモリゾウさんは藤井さんに笑いながら『出た!トヨタのエリート社員。自分は忙しいからAKBの総選挙なんか見ていません。経済ニュースは知っているけど、芸能ニュースは興味ありません。そう思っているでしょ』と言われ藤井さんは図星でした。
なぜなら、『新聞の一面記事を知らないのは恥ずかしいけれど、AKBの総選挙や前田敦子さんのスピーチは知らなくても恥ずかしいことじゃない』、当時の藤井さんはそう考えていたからです。
しかし、そこから続いたモリゾウさんの言葉こそが核心でした。『世の中の人たちが興味を持っていること、面白いと言っていることには、興味を持たないとダメだよ。皆、トヨタのクルマを買ってくださるお客様なんだから』。藤井さんも著書の中で語っていますが、モリゾウさんは、人はもちろんどんな出来事にも、“上下関係”をつけない方です。
私は藤井さんに比べると、モリゾウさんの所作行動を知っているわけではありませんが、モリゾウさんの日々の行動、私に掛けてくれる言葉などを見ていても、どんな出来事にも“上とか下”を付けず偏見なく興味を持つ人だと実感しています。
つまり、経済や業界のニュースだけが“知るべき情報”ではなく、社会で本当に人々が心を動かしているものを理解しなければ、“もっといいクルマづくり”も、“幸せの量産”もできないということです。
そして著書の中には、AKBが全盛期だった頃、実際に秋葉原のAKB劇場に足を運んでいたという記述もあります。『世間が面白いという「AKB」も現地現物で確認しに行く。』それが豊田章男という経営者の姿勢。
なぜなら、そこに集まっている若い人たち、その熱気そのものが“お客様のリアル”だからです。
ご存知の通りトヨタ自動車は世界中にお客様がいる企業です。そしてトヨタのクルマを買うのは、経済ニュースだけを追っている人だけはなく、アイドルが好きな人、ゲームが好きな人、YouTubeを見る人も、SNSで推し活する人も、あらゆる価値観を持つ人たちです。“現場で何が起きているか”を肌で理解することは、経営者にとって必要不可欠なのです。
ここまで言っても「経営と関係あるように見えない」そう思っている方に、著書の中でも触れられている具体的なエピソードを一つ紹介させてください。

(普通のクルマ好きおじさんとして、クルマ好きの皆さんと一緒に、クルマを楽しむ豊田章男会長)
(スーパー耐久オートポリス大会にて筆者が撮影)
トヨタはB to Cの会社
よくモリゾウさんは『トヨタはB to Cの会社』だと口にします。最近で言えばカーボンニュートラルに関して世間は“電気自動車”だけが正解のような風潮の中、モリゾウさんは一貫して『敵は炭素。内燃機関ではない。選ぶのはお客様。その選択肢を狭めないでほしい』と言い続けました。
今でこそ、世間から理解されて来ていますが、当時は『電気自動車反対派』と誤解され“誹謗中傷”紛いの批判に晒されました。それでもモリゾウさんが批判に怯まず言い続けられたのは『世界のすべての国にトヨタのお客様がいる』そして『市場をつくるのも、市場に変化を起こすのもお客様』といった強い信念があったからです。
そして、その信念の底には、かつてAKB劇場に通ったように『「そこに集まっている人」=「トヨタのクルマを買ってくれているお客様」』そして世間の興味関心を『現地現物』で確認しに行き感じたものがあるのだと思います。

(だからこそ、世界中のお客様に好かれるクルマを創れるのだろう)
(提供 トヨタ自動車)
この記事を執筆した本当の狙い
ここで皆さんに一つ質問したいと思います。皆さん、受験に向けて勉強に励んでいるはずですが、当時の藤井さんと同じことを思っていませんか?
受験に目掛けて学習に励む身として「受験のことを知らないのは恥ずかしい」「勉強が分からないのは恥ずかしい」でも、「世間の流行り?知らなくていい」「最近のドラマ?知らなくていい」「流行ってる音楽?別に知らなくていい」そんなふうに感じているのではないのでしょうか。
今回この記事を執筆したのは、まさにこの点にあります。
もちろん受験は大切で、必死に頑張っているのも分かります。ただ、人生は受験だけではありません。
世間が面白いと言っているもの、関心を寄せているものに、ほんの少しでいいので触れてほしいのです。
それは人とのコミュニケーションにも役立ち、価値観の理解にもつながり、物事を考えるときの深さにも影響します。
また、受験にも世間の流行が影響することがあります。
例えば、時事ネタや世の中の興味関心が小論文で問われることもありますし、英語などでも世の中の関心が扱われることがよくあります。
つまり、世間を見ることは遠回りのようでいて、受験においても決して無駄ではありません。
モリゾウさんは世界中を飛び回り、多くの人と会い、数多くの重要な判断をし、そして一人のクルマ好きとしてクルマの開発にも関わっています。その超多忙な人が、世の中を知るためにAKB劇場へ足を運んでいたのです。
もちろんお金が絡むことですので皆さんに「現地に行け」と言うつもりはありません。ただ、手に持っているスマホで調べる、少し見てみる、その程度ならほとんど時間もお金を使うことなく、誰でもできます。
世界一の経営者が実践した“姿勢”は、人生にも受験にも必ず良い影響を与えます。ぜひ今回の話を、自分自身の視野を広げるきっかけにしてもらえたら嬉しいです。
また、今回引用させて頂いた『上司 豊田章男 トヨタらしさを取り戻す闘い 5012日の全記録(著者 藤井英樹)』もぜひ手に取って学んでみてください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

(『上司 豊田章男 トヨタらしさを取り戻す闘い 5012日の全記録(著者 藤井英樹)』)
(筆者が撮影)














