【政治経済】金融政策決定会合てなに?
2024年1月22日,23日に金融政策の方針について審議・決定する「金融政策決定会合」という会合が開かれ,世間の注目を集めていました.
ただ,いきなり「金融政策決定会合」という名前だけ聞いても,なんだか小難しそうで,興味も持ちにくいですよね.筆者も,高校生の時は金融にあまり興味がなかったことから,「金融政策決定会合」の名前すら知りませんでした.
しかし,大学等で金融政策について学んで気づいたのは,金融政策は結構面白いということです!
加えて,高校生の方々がこの先株式投資をしたり社会に出ることを考えると,金融政策について少し知っておくとは,良いことなんじゃないかなぁとも思います.
そこで,金融政策について深ぼる前段階として,金融政策決定会合について簡単にまとめてみたいと思います.今回の記事では,サクッと金融政策について触れて,その後金融政策決定会合の詳細についてまとていきます.
後編では,1月23日に発表された「当面の金融政策運営について」という資料をもとに,現在運営されている金融政策について簡単に説明してみたいと思います.
前編と後編を通して,日本銀行が行っている金融政策に関する理解が深まり,少しでも金融政策等に興味を持っていただければ幸いです.
内容
- 金融政策とは,経済や物価を安定させるための政策!
- 金融政策決定会合とは?
金融政策については「iPhoneの価格の背景に金融政策がある」の記事でも触れているのでチェックしてみてください!
金融政策とは,経済や物価を安定させるための政策!
最初に,金融政策についておさらいしていきます.
日本銀行法によると,金融政策というのは,
「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資すること」
を目的とした日本銀行による政策です.
言い換えると,日本銀行が「物価の安定」を目標にして「金融政策」を行い,「物価の安定」により「国民経済の健全な発展」を実現させたいという感じでしょうか?
一旦,この金融政策の目的に焦点を当てて,一つ一つ丁寧に見ていきます.
なんで物価を安定させたいの?
最初に,なぜ物価を安定させたいのかを考えていきます.答えは,物価が大きく動くと困るからです.めちゃくちゃ困ります.
なぜ困るのかを,実際にドイツで起こった事例で見ていきます.
1923年のドイツは物価が急激に上昇するような状態,ハイパーインフレーションと呼ばれる状態でした.一体どれだけ急激に上昇するかというと,数分単位で物価が上昇するような感じです.
例えば,レストランに行ってビールを頼むと,1杯目より2杯目のビールの値段が高くなっているほどです.
これは,困りますよね.
想像してみてください.500円でビールが飲めると思ってレストランに行ったら,1杯目は500円で飲めたけど,2杯目は1500円だった,ていう感じです.お会計する際に,「え!?手元にそんなお金ないよ〜」,といったことにもなりそうですよね.
物価が急激に上がっている状態では,計画的にお金を使うのが難しそうですね.
意外と気づきにくいですが,計画的にお金を使うためには,物価が安定しているという条件が必要です.
上の例は,個人の例ですが,企業も同じです.企業も「どれくらい投資しようかな」「どれくらい社員を雇おうかな」といった感じに,計画を立てています.しかし,物価が安定していないと,計画の立案が難しなります.
例えば,どこかに工場を作ろうと思い,工場の建設に必要な予算を組んでいたとします.しかし,工場を作るのに必要な資材の価格が急激に上昇したりすると,予算通りに工場を建設することはできなさそうですよね.
つまり,個人や企業の健全な経済活動をするには,物価の安定が非常に重要であるということです.
どんな感じに物価を安定させたいの? 2%!!
では,どんな感じに安定させたいかというと,日本銀行は2%の物価上昇を目標としています.つまり,毎年持続的に物価が2%上がるような状態を目指しています.
さらに,単に物価が2%上昇していくのではなく,賃金も2%かそれ以上上昇する形での物価上昇を目指しています.賃金も上がるのが大事なんです.
賃金の上昇を伴う必要がある理由を例を用いながら見ていきます.
例えば,今年のお米の値段が100円で,賃金も100円だとします.物価上昇率2%が達成し,翌年のお米の値段が102円になりました.ただ,賃金は1%しか上昇しなく,翌年の賃金は101円でした.このように,物価上昇率より賃金の上昇率が小さい場合,お米が買えなくなっちゃいます.
このように賃金の上昇が伴わない場合,なんだか困っちゃいますよね.モノの価格が上がるのに,賃金が上がらないと,私たちはモノをたくさん買うことができなくなってしまいます.
そのため,賃金の上昇が伴う物価の上昇を目指しているんです.
なぜ2%なの?
また,ここで疑問に思うのが「なぜ2%なの?」ということですよね.
例えば,物価上昇率0%も物価が安定している状態ではありますが,複数の理由から0%より少し高い2%が目標にされています.
理由として,金利を引き下げる余地を保つため,他の国も2%としているためといったことが挙げられますが,今回の記事の主題とは逸れるためその詳細はまた別の機会にお届けできたらと思います.
気になった方は,こちらから確認してみてください.
どうやって物価を安定させるの?
物価を安定させたい理由は分かりましたが,では,どうやって安定させるのでしょうか?その方法が,金融政策です!
金融政策にもいろいろありますが,大きく伝統的金融政策と非伝統的金融政策という枠組みがあります.これら2つについては,後編で深掘りしていきます!
日本も昔は伝統的金融政策を行なっていましたが,1990年代後半から伝統的金融政策を行うことが難しくなってしまったため,非伝統的金融政策を運営し始めました.つまり,伝統的な方法が通用しなくなったから,非伝統的な方法を生み出して,運営している感じです.2024年1月時点でも,非伝統的金融政策の運営を続けています.
伝統的金融政策と非伝統的金融政策では性質が異なりますが,共通しているのが金融政策で「金利」に影響を与えるを通じて,物価を安定させようとしている点です.
そのため,最初に金利と物価の関係を簡単におさらいしていきます.金利と物価については,こちらの記事でも説明しているのでぜひご覧いただければと思います.
金利と物価の関係
まず,景気が悪かったり,物価が下がっている状況を想定します.この際には,お金を貸し借りする際の金利が低くなるような金融政策を行います.金利が低くなることで,企業はお金を借りやすくなり,そのお金で事業を拡大することができます.その結果,経済活動が盛んになり,消費活動が活発になるため,物価が下がりにくくなります.
このような,金利が低くなるようにする金融政策を「金融緩和(利下げ)」と言います.
次に,景気が良く,物価が上がっている状況を想定します.この際には,お金を貸し借りする際の金利を上げるような金融政策を行います.金利が高くなることで,企業はお金を借りづらくなり,事業を拡大しにくくなります.その結果,経済活動が抑制され,消費活動も抑制されるため,物価が上がりにくくなります.
このような,金利が高くなるようにする金融政策を「金融引き締め(利上げ)」と言います.
上のような例の感じで,日本銀行は物価を安定させ,いい感じの経済の状態になることを目標として金融政策を行っています.
現在日銀は,持続的な物価上昇率2%を目標に,非伝統的金融政策を運営している感じです.
金融政策と物価の現実
教科書的には上のような関係があると言われていますが,実際のところはどうなんでしょう?
下のグラフは,1998年から2022年の日本の消費者物価指数の上昇率の推移を表したグラフです.消費者物価指数というのは,人々が日常生活で購入する商品やサービスの価格の変動を表す指標です.
日本銀行は1998年以降,非伝統的金融政策によって金利を限りなく低くしてきましたが,2%を超えたのは,2014年と2022年だけです.
2014年に2%を超えたのは,消費税の増税の影響だと思われます.消費者物価指数は消費税分も含めた消費者が支払う価格を用いて作成されます.そのため,消費税が上がればその分消費者物価指数も上がることになります.
次に,2022年に2%を超えた理由としては,パンデミックによる人々の行動変容や戦争によって資源価格が上昇したことが主な理由だと考えられています.
物価上昇率が2%を超えたいずれの年も,金融政策以外にも物価を上昇させる要因があったんですね.
このことから,実際の経済は「金融政策によって金利が下がれば物価が上がる」というような単純なものではないことがわかります.
金融政策が経済に与える影響は確かに大きいですが,金融政策は完璧に経済や物価をコントロールできるわけではないということです.
金融政策決定会合
金融政策について簡単に説明してきましたが,その金融政策の運営方法を決める場が日本銀行の政策委員会の「金融政策決定会合」なんです!
まず,金融政策決定会合について,簡単にまとめてみます↓
金融政策決定会合てなに?
ここで一旦,日本銀行のHPに載っている金融政策決定会合の説明を見ていきたいと思います.
金融政策決定会合では、年に8回、2日間かけて集中的に審議を行い、金融政策の方針を決定しています。議決は9名の政策委員(総裁、2名の副総裁、6名の審議委員)による多数決によって行います。
出典:日本銀行,金融政策の概要https://www.boj.or.jp/mopo/outline/index.htm#:~:text=金融政策とは、公開,会合で決定します。
つまり,経済や金融情勢の変化に合わせて,定期的に金融政策の方針を決めるための会議なんですね.
次に,日本銀行が1月23日に公表した「当面の金融政策運営について」という資料の参考部分を見ていきたいと思います.
上の説明と資料からもわかるように,金融政策決定会合の1日目は午後に開催され,2日目は午前から開催されます.そして,2日目の会合が終わり次第,金融政策の方針が対外に向けて発表され,その後,日銀総裁の記者会見が始まります.
(日銀の記者会見はオンラインで配信されているので,興味がある方はぜひ探してみてみてください!1月23日の記者会見の内容のpdfはこちら)
金融政策決定会合1日目
金融政策決定会合の1日目では,上で紹介した政策委員会のメンバー(総裁1名,副総裁2名,審議委員6名)に加えて,政府関係者や日本銀行の執行部の方が集まり,経済の状況や金融情勢について議論します.
また,政策委員会のメンバーは内閣が任命することになっており,多様な人材が登用されています.2024年時点のメンバーに関しては,学者出身の方もいれば,金融機関やメーカー出身の方もいます.ただ,出身学部に関しては経済学部と法学部が多数派ですね.
日本銀行の仕事は金融政策を運営することだけではなく,経済や金融について調査・分析することも含まれています.金融政策決定会合では,日本銀行の執行部の方がその調査・分析を報告し,意見交換をしながら,国内外の経済・金融情勢について議論していきます.
公表されている最近の金融政策決定会合の議事録によれば,1日目では以下のようなことに関して日銀執行部から報告を受け,その内容について議論するそうです.
- 金融調節、金融・為替市場動向に関する報告
- 海外経済情勢に関する報告
- 国内経済情勢に関する報告
- 金融環境に関する報告
2日目に,金融政策の方針を決めるためにも,上のような内容について議論をする感じですね.
金融政策決定会合2日目
金融政策決定会合の2日目では,最近の金融経済情勢と今後の金融政策の運営方針について,政策委員の方々が意見を出し合い,議論します.
具体的には,それぞれの政策委員の方が5分以内で最近の金融経済情勢と今後の金融政策の運営方針に対する意見を出し,出てきた意見に対し議論するという形になっています.
議論がなされたのち,これまでの金融政策を維持するのか変更するのかの採決を多数決で決めていきます.また,例に用いた金融政策決定会合の議事録にもあるように,他の政策委員から別の議案が提出されることもあり,それについての採決も行います.
この多数決によって,今後の金融政策をどうするかを決めるわけですね.
日本銀行の発言は影響力大!だからこそ慎重に
2日目の議論では,対外に向けて公表する文章の一言一句まで突き詰めて議論しています.というのも,日本銀行が公表する文章は,株式市場等のマーケットに大きく影響するからなんです!
例えば,1月23日に発表された対外向けの資料には,物価安定の目標について「実現する確度は引き続き、少しずつ高まっている」といった文言がありました.この文言に加え植田総裁の記者会見での発言もあり,株式市場では銀行の株価が急上昇する一方,不動産の株価が大幅に下落するといったことがありました.
つまり,日本銀行が発信した情報をもとに,資産を大きく増やした人・組織もあれば,減らした人・組織もいるという感じです.
日本銀行の発言はマーケットに大きな影響を与えかねないため,その発言については慎重に議論しているんだと思います.
また,日本銀行の発言によって得したり損したりする可能性があるため,マーケットに関係している個人や組織も,日本銀行の発言に注目しているんですね.
いかがでしたでしょうか?
高校の授業でも「金融政策」という言葉を耳にしたことはあるとは思いますが,今回の記事でその「金融政策」がどのようなプロセスで決定されているのかを知ることができたかと思います.
後編では,現在行われている金融政策がどのようなものなのかを,めちゃくちゃ簡単にお届けできればと思っています.
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最後まで読んでいただきありがとうございます.
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