iPhoneの価格の背景に金融政策がある
前半では,iPhone15の価格を用いながら円安や円高,為替レートについて説明してきました.それを通して,日本のiPhoneの価格上昇の背景には円安が関係していることをお伝えしました.円安が関係しています!と言われら,やはり,なぜ円安になっているのかが気になりますよね.
しかし,円安等の為替レートの決定要因は複数あり,何が原因かを厳密に答えるのはなかなか難しいです.ただ,その中でも円安に大きな影響を与えているのは「日米金利差の拡大」だとされています.
今回の記事では,円安の一因だとされている金利差の拡大について説明した後,金利差の拡大を引き起こしている日本と米国の金融政策について説明していきます.多くの人が理解できるように,例を使いながら説明しているので,円安の原因や各国の金融政策について理解が深まるかと思います.また,金融政策というトピックは経済学部でも学ぶので,学部選びをしている方や経済学部に少し興味がある方必見です!
前編
·iPhoneの価格の確認 ~日本のiPhoneの価格が上昇している!~
·iPhoneの価格の上昇の原因 ~円安の説明~
後編
·円安の原因 ~金利差拡大の説明~
·金利差拡大の原因 ~金融政策の説明~
金利差の拡大 〜なぜ円安に〜
前半では,ドル高円安になっている現状と為替レートには各通貨の相対的な人気度(価値)が関係していることを説明しましたよね.
一旦整理すると,現在円安になっているということは,,,
日本の円と米国のドルを比較した際に,ドルの方が人気!ということです.
では,なぜドルの方が人気なのでしょうか?100ドル札のベンジャミン·フランクリンの方が1万円札の福沢諭吉よりかっこいいから?いやいや,福沢諭吉も負けてはいません.
円安ドル高には,米国と日本の金利差が影響していると言われています.具体的にいうと,米国の金利が高くなっている.一方で,日本の金利が極めて低い状態になっている.その結果,米国の金利と日本の金利の差が拡大し,円安ドル高の一因になっているということです.
まず最初に,金利とは何なのかを説明し,金利の差が拡大している状況で何が起こるのかを説明していきます.
100ドル札,肖像画はアメリカ合衆国建国の父と呼ばれるベンジャミン・フランクリン
金利とはお金を貸すことへのお礼
金利と聞いて真っ先に思いつくのは,銀行の預金金利ではないでしょうか.
銀行にお金を預けたことがある人は,預金金利に馴染みがありますよね.銀行にお金を預けた後,そのお金を引き出そうとすると,預けた額よりも大きな額を受け取れますよね.それには,金利が関係しています.
銀行にお金を預けるという行為は,言わば銀行にお金を貸してあげてる状態です.銀行がそのお金を返す際に,銀行は「お金を貸してくれたお礼」として,少しお金を足して返します.その少し足されるお金の割合のことを金利といいます.例えば,金利10%の場合で10,000円預けると,10,000円の10%である1,000円が加わった11,000円が返ってきます.この,追加の1,000円のことを利息といいます.
補足 〜国債にも金利がある〜
補足になりますが,金利というのは銀行の預金金利以外にも存在します.銀行預金以外のお金の貸し借りや借金を考えてみてください.色々ありますが,イメージしやすいのが国債です.国債とは,国がお金を必要としているときに発行するもので,「〇〇年後に〇〇円払い戻します」という約束をするものです.簡単にイメージすると下のような感じです.〇〇年後に〇〇円払うことを約束する国債を,銀行や一般の人に買ってもらうわけです.
では,どういったときに国は国債を発行するのでしょう.日本は災害が多い国なので大きな地震があった場合で考えてみましょう.
地震が起きたとします.そうすると,橋が崩壊したりしますよね.橋は人々の移動を可能にする重要なインフラなので,直す必要があります.直すのに必要なものは何でしょう?当たり前ですが,橋を直してくれる人や重機が必要です.そして,もう一つ必要なのがお金です.橋を直す人も無料で働いてくれるわけではないので,その人たちへのお金が必要です.
しかし,急に発生した地震.その地震による被害のためのお金が準備できていない!ってこともありそうですよね.そんな時に活躍するのが国債です.
国は「〇〇年後に〇〇円返します」とお金の返済を約束する国債を発行します.例えば,「1年後に110万円返すから,今100万円ください」というような感じです.将来返ってくるお金が大きいため「国債を買ってもいいよ〜」という銀行や一般の人が現れ,その国債を購入します.そうすると,国にはお金が集まり,そのお金で橋を直せるわけです.
この例で見たように,国債を購入した場合,将来返ってくるお金の方が大きいことがほとんどです.つまり,利息がついているんですね.
上の例の場合,金利が10%です.このように,お金の貸し借りには金利というものが存在します.金利がないと,誰もお金を貸してくれないですよね.今回は,国債の例を出しましたが,他にも会社がお金が必要な時に発行する社債等にも金利がつきます.そういった,金利がついたもので,銀行や人々はお金を運用しているわけですね.
金利の大小は人気に影響する
ここで,金利が低い銀行と金利が高い銀行がある場合を考えてみます.みなさんなら,どちらにお金を預けたいですか?つまり,どちらの銀行でお金を運用したいですか?おそらく,金利の高い銀行に預けたい方が多いのではないでしょうか.やっぱり,多く返ってきた方が嬉しいですもんね.つまり,金利が高い銀行にお金が集まるようになります.
同じようなことが日本と米国の間でも発生しています.
現在,日本の金利は限りなく低い一方で,米国の金利は高くなっています.このような状況では,何が起こると思いますか?上の例と同じように,金利の高い米国でお金を運用する人が多くなります.つまり,米国ドルの需要が高まるということです.需要が高まるということは,人気が高いということですから,円安ドル高になります.
このような金利差の拡大が,円安ドル高の一因だとされています.実際に,日米の金利の推移を見てみましょう.下のグラフの金利は,政策金利と呼ばれる,各国の中央銀行が設定する金利のことです.政策金利は少し複雑なものなので,ここでの詳細な説明は避けます.
上のグラフを見るとわかるように,米国の金利は急激に上昇しているのに対して,日本の金利は極めて低いことがわかります.金利差が徐々に拡大してますよね.この金利差の拡大が,円安ドル高の1つの要因になっているわけです.
それでは,どうして金利差は拡大しているのでしょうか?
次に,なぜ日本では金利が低く米国では高いのかを,金融政策に着目して考えていきます.
金融政策と金利
そもそも,金融政策とは何でしょう?一旦,カチッとした定義を見てみます.金融政策とは各国の中央銀行が実施するものなので,日本の中央銀行である「日本銀行」のHPから金融政策の説明文と理念をとってきてみました.
「金融政策とは、公開市場操作(オペレーション)などの手段を用いて、金融市場における金利の形成に影響を及ぼし、通貨および金融の調節を行うことです。」
「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資すること」
https://www.boj.or.jp/mopo/outline/index.htm
なんだか難しそうなことが書いてあります.
私なりに極限まで簡単化すると,「経済がいい感じになるように,金利を上げ下げするのが金融政策です.」という感じです.注意して欲しいのが,これが金融政策の全てではないということです.ただ,簡単化のためにこの記事では上のような説明で進めていきます.
経済状況と金利の関係
上の説明から,金融政策の目的は「経済をいい感じにすること」で,その手段が「金利を上げ下げすること」ということがわかりました.そうすると,経済の状況と金利の高低の関係が気になりますよね.
順序立てて説明するために,はじめに経済の良し悪しについて説明し,その後経済の良し悪しと金利の上げ下げの関係を説明していきます.
経済の状況を説明するにあたって,簡単化のために,経済状態を炎で例えてみます.
一番いい状態が真ん中の状態だと仮定します.左のどんど焼き状態の炎は,経済が加熱している状態でよくない状態です.一方で,右の消えそうな炎は,経済が低迷していてよくない状態です.
金融政策の目的を炎を使って説明し直してみます.
- 1つ目は,加熱している状態の炎を,いい感じの状態の炎にすることです.
- 2つ目は,低迷している状態の炎を.いい感じの状態の炎にすることです.
そして,目的を達成するための手段が「金利の上げ下げ」だとします.金利と経済状態の関係を簡単にまとめると,金利を上げると経済は落ち着き,金利を下げると経済は加熱するといった関係があります.そして,金利を上げることを「金融引き締め」,金利を下げることを「金融緩和」といったりします.
この関係を,先ほどの炎の例を使って説明していきます.炎の例において,中央銀行は「油が出る蛇口」だと思ってください.そして,金融政策の具体的な手段は「蛇口を締めること」と「蛇口を緩めること」だとします.
金融緩和 〜油を注ぐ〜
最初に,経済が低迷していてよくない経済状態における金融政策を見ていきます.先ほど述べたように,経済が低迷している状態では,金利を下げます.つまり,金融緩和ですね.炎の例を使うと,小さい炎を大きくするために油が出る蛇口を緩めるということです.金融"緩和"だから,蛇口を"緩める"というイメージです.
上の例のようなイメージで,金融緩和(金利を下げる)をすることにより,経済はいい感じの経済状態になります.
金融引き締め 〜油をとめる〜
次に,経済が加熱しすぎていてよくない経済状態における金融政策を見ていきます.先ほど述べたように,経済が加熱しすぎている状態では,金利を上げます.つまり,金融引き締めですね.炎の例を使うと,大きい炎を小さくするために油が出る蛇口を締めるということです.金融"引き締め"だから,蛇口を"締める"イメージです.
上の例のようなイメージで,金融引き締め(金利を上げる)をすることにより,経済はいい感じの状態になります.
日本と米国の経済状況
ここまで用いてきた炎の例で日本と米国の経済状況を表してみます.現在の米国経済は炎が大きくなりすぎた状態です.つまり,経済が加熱しすぎている状態です.一方で,日本は,金融緩和(金利の引き下げ)をしているにもかかわらず,ずっと炎が小さい状態です.つまり,炎が大きくなりすぎた米国は金融引き締め(金利を上げる)をしていて,日本はずっと金融緩和(金利の引き下げ)をしている状態なのです.
このように,米国と日本で実施している金融政策が異なるため,日本と米国の金利の差が拡大しているというわけです.
金利によって経済状況が変わるのはなぜ?
最後に,金利によって経済状況が変化するといわれている理由を簡単に紹介します.
一旦,企業側の視点に立ってみます.企業はモノやサービスを生産していますよね.例えば,食品メーカーのロッテは,クッキーやチョコレートというモノを作っていますよね.このような生産活動には,お金が必要です.ロッテで働く従業員に払うお金が必要で,クッキーやチョコレートを生産する機械にもお金が必要ですよね.
最初に,金利が低い場合を考えてみます.金利が低いということは,将来的に返す利息が少ないということです.そのため,金利が低い時には,企業は積極的にお金を借りて,モノやサービスを生産します.つまり,経済活動が活発になるわけです.
次に,金利が高い場合を考えてみます.金利が高いということは,将来的に返す利息が大きいということです.そうすると,企業はお金を借りにくいため,経済活動が落ち込みます.
これが,金利が経済の状態に影響するといわれている理由です.
おわり
これまで前編と後編に分けて,iPhoneの価格上昇の背景にある金融政策の仕組みを書いてきました.一言でまとめると,「日本と米国の金融政策の違いによって,金利差が拡大し,円安が進んでいるために,iPhone15の価格が高くなった」ということです.
ただ,ここまで読んでいただいて少し申し訳ないのですが,後編で紹介した「金利と経済状況の関係」があまり成立していない現実があります.具体的には,日本で金融緩和をしているのに経済状況が良くならないということが起こっています.これは,経済状態の背景には複数の要因があるからです.
例えば,上の炎の例で見ても,炎の大きさを左右するのは,燃料である油だけではないですよね.例えば,薪の量を増やしたら,炎は大きくなるかもしれないし,燃えやすい牛乳パックを入れたら,もっと炎は大きくなるかもしれません.またまた,雨が降っていたらいくら油を注いでも,炎は大きくならないかもですよね.つまり,油は炎の大きさに影響を与える1つの要因ではありますが,全てではないということです.
経済も同じで,いろいろな要因によって経済状態は決まってきます.経済は複雑で良くわからないことが多い分野なんですね.
また,今回紹介した金融政策はほんの一部です.現在,日本銀行が行っている金融政策は「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」と呼ばれる複雑なものになっています.
このように,現在の金融政策や経済はとても難解で複雑になっているのですが,そこがまた面白いところでもあります.
もし,金融政策や経済に興味を少しでも持ったら,色々と自分で探したり勉強してみたりしてください〜.最近は経済や金融政策について解説している人が増えてきているので,探すとすぐ出てきます.しかし,中には怪しい人もいたりするので,その点は注意してみてください〜.もちろん,自分の記事も疑って読んでみてください.笑
また,今回の記事は経済や金融政策をできるだけわかりやすく説明しようと書きました.そのため,かなり簡単化している点もあります.その点も,ご注意ください.
大学の経済学部の一部の授業では,「金利が下がるとどうして経済活動が活発になるのか」といったことを数式を使いながら考えていく授業もあるので,理系の人も楽しめる学問なのかなと思っています!
また、この記事も掲載されているokkeという勉強の大きな味方になってくれるアプリの方もぜひダウンロードよろしくお願いします!
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