皆さん、「水素」と聞くと「環境にやさしい燃料」や「未来のエネルギー源」と明るいイメージがある一方、やはり「水素爆発」や「水素＝危険」といったネガティブなイメージをお持ちの方も一定数おられると思います。
そこで今回は水素を始めとする様々なガスを扱っている「岩谷産業」で、特に水素のスペシャリストとして活躍をする、玉谷さんと林さんに、皆さんが水素に関して疑問に思っていることを聞いてきました！
ぜひ最後までご覧ください。
(右から岩谷産業の玉谷さんと林さん)
水素のスペシャリストに聞く水素の安全性
著者)
水素に対して「水素爆発」とかネガティブなイメージを持たれている高校生は一定数いますが、実際に水素は危険なのでしょうか？
林さん)
確かに、「水素爆発」とかで「水素＝危険」のようにネガティブなイメージをお持ちの方は一定数いますけど、水素を漏らさなければ良い話なんです。
そもそも、水素が爆発する条件を説明すると、可燃性ガス(水素)、支燃性ガス(酸素等)、着火源(火気、静電気、高温熱源等)からなる、3つの条件が揃って初めて爆発することができます。
今、走っている液体水素エンジンGRカローラも、ガソリンエンジンと同じことを起こして走行していますから、水素は爆発します。
ただ、エンジン内で適切に爆発することは、どのエネルギー源でも行っていることです。
なので、少し前の話に戻りますが、水素を漏らさない限り、皆さんが想像するような水素爆発は発生しません。
そして仮に水素漏れが発生したとしても、水素爆発が起きない様に対策が行われています。
(水素エンジン車を自ら運転するトヨタ自動車の豊田章男会長)
著者)
では、水素漏れが起きた際の具体的な対策とは、どのようなものなのでしょうか？
林さん)
それは、水素を滞留させないことです。そもそも水素って漏れたとしても空気より軽いので、基本的には滞留すること無く空気中に散らばっていきます。
しかし、室内や車内等の密閉空間においては水素が滞留する可能性があります。
そのため、リアルタイムで水素濃度を測定する機器はもちろん、ファンやホースを設置し、素早く室外(車外)に気化した水素を放出することで水素が室内や車内に滞留しない対策をしています。
さらに、着火源を排除することや、水素の供給を即座に遮断できる仕組みなど、万が一の事態にも備えた多重の安全対策が講じられています。
このような対策を水素を扱う現場では行なっているので、水素爆発のリスクは殆どなく、安全に水素を活用できるわけです。
(気化した水素を空気中に逃がしている装置。なおこの白い煙は液体水素と空気の温度差で発生している物であり、水素ではありません)
爆発のリスクは水素だけでは無いこと
著者)
よく水素は水素漏れや水素爆発がピックアップされますが、それに関しては、他のガスにも同じことが言える気がしますが。
林さん)
よく水素ばかりピックアップされますが、実は他の燃料やガスにも同じことが言えますし、むしろ条件によっては他のガスの方が危険なんです！
例えば、皆さんお家のクルマにガソリンを入れることありますよね？
実は、給油口を開けた瞬間から気化したガソリンが「メラメラ」と漏れているんですよ。
ガソリンスタンド特有の匂いなんて気化したガソリンそのものです。
著者)
もしかしてですが、給油口を開けた時に「プシュー」という音はガソリンが漏れている音ですか？
林さん)
そうです。気化したガソリンが漏れている音です。
もちろん、ガソリンスタンドは屋外にあるので、漏れたガソリンはすぐ空気中に拡散され、爆発はしません。
そう言った意味では水素もガソリンもリスクは同じですし、ガソリンは水素よりも爆発する温度が低いので、条件によっては水素よりもガソリンなどの他のガスの方が危険ってこともお伝えしたいですね。
著者)
確かに…。むしろ「水素は危険だー！」と言うなら他のガスなんか絶対に使えないですね！
広がる水素社会の輪
著者)
今、岩谷産業は液体水素をこの液体水素エンジンGRカローラに供給をしていますが、将来的にはどのような場所での活用を目指されていますか？
また高校生の身近で、水素の活用を目指している物があれば教えてください。
林さん)
たくさんありますよ！
既に燃料電池車のミライや、燃料電池車のバスが走っていますよね。
そして、このレースの現場で実験をしている液体水素を、街中を走っている燃料電池車に搭載して航続距離を伸ばすってこともありえます。
もっと言えばこの液体水素は様々なモビリティでの活用を目指していますので、例えば「水素エンジン×液体水素」で飛行機での活用も将来的には可能かもしれません。
また「大阪・関西万博」で展示をしている岩谷産業の燃料電池船も、将来的には液体水素を使う可能性はあります。なので本当に多くのモビリティでの活用を目指していますね。
(岩谷産業が供給をする液体水素で走る液体水素エンジンGRカローラ)
(富士スピードウェイにて著者が撮影)
著者)
例えばですが、多くの高校生が使っている電動アシスト自転車の様なモビリティも、将来的には水素を使うこともあり得るということでしょうか？
林さん)
やろうと思えばすぐに出来ますよ！
ただ、大きな課題があって、実用化には進めていません。
著者)
その課題というのは？
玉谷さん)
それはコストですね。技術的に可能でもやはり、とんでも無いコストが掛かってしまいます。わざわざ高いお金を払って、水素化するのか？って話ですね。
水素のコストを下げる鍵
著者)
先ほどのお話でも出ましたが、やはり水素社会の実現には水素のコストを下げる必要があると思います。
そして先日、トヨタ自動車の佐藤恒治社長が「水素社会の実現に向けて水素のコストを下げることが大切。その為に商業利用も含めてコストを下げる努力をしていく」趣旨のお話もありました。
今後、岩谷産業として、水素の普及に向け、水素のコストを下げていく、何か取り組みがあれば教えてください。
林さん)
難しい質問ですね(笑)
日本にも(水素社会を実現に向けた)技術力は沢山あると思います。例えば、水素エンジンの開発や燃料電池の性能を上げる取り組みは皆さんやっています。
その取り組みを更に加速させる為には、今おっしゃっていた「水素のコストダウン」や「やっぱり水素って他のエネルギーよりも有利だよね！」と思っていただける様な環境を作らないといけません。
そして、こうした環境整備が進めば、裾野が広がり、水素社会の実現に向けた取り組みもさらに広がるはずです。
著者)
お忙しい中、ありがとうございました！
[余談]水素の最前線で活躍する女性エンジニア
今回お話を伺った玉谷さんと林さんの内、林さんは、女性エンジニアとして水素の現場で第一線にて活躍をされています。
モノづくり分野ではまだまだ「男性の仕事」というイメージを持たれることもありますが、林さんのように、自分の好きなことに挑戦をし、未来に向けた取り組みの第一線で挑戦を続ける姿はとても印象的でした。
この記事を読んでいる皆さんの中に、もし「女性だから」「男性だから」といった理由で夢を諦めかけている方がいれば、ぜひ林さんのように、自分の気持ちに正直に挑戦してほしいと思います。
