【 note : https://note.com/yaguchihappy 】
ヒルの実験とヒル反応について講義します。
● ヒル(イギリスの生理学者)は、包膜の失われた葉緑体が、光のもとで電子受容体(生理条件下では補酵素であるNADP+が電子受容体として働いている)を還元すること、その時CO2は使われず、一定量の酸素を発生することを発見した。これはヒル反応として知られている(一般に、ヒル反応と言えば、光化学的な酸素発生反応を指す)。ヒルは、この実験により、酸素の由来が二酸化炭素ではないということを示した。
● ヒルは、葉緑体懸濁液にシュウ酸鉄(Ⅲ)(電子を受け取りやすい物質[還元されやすい物質、Hを受け取りやすい物質、酸化剤])を加え、光を当てることで酸素を発生させた(試験管の中で、光合成における「水の分解(酸素の発生)」を再現して見せた)。
● ヒルの実験から、光合成において、以下のような反応が起こるということが示された(Aは電子を受け取りやすい物質である)。
H2O + A → 1/2O2 + AH2
この反応をヒル反応という。
● 入試では、以下のように考えて問題を解く場合もある。
「CO2がない条件で実験をしているのでカルビン・ベンソン回路は動かず、NADPHはNADP+に戻ることができない。本来電子を受け取ってくれるはずのNADP+がないので、代わりに電子を受け取ってくれる、電子受容体のシュウ酸鉄(Ⅲ)が必要になる。」
*実際は、光合成の反応は複雑なので、上記を証明するのは難しい。しかし、実際に、CO2が不足した状態で葉に光を当てると、一時的にNADP+の濃度が低下し、酸素の発生が抑制されることがある。
*なお、知らなくてよいが、シュウ酸鉄(Ⅲ)(Fe3+:黄褐色)が電子を受け取るとシュウ酸鉄(Ⅱ)(Fe2+:淡緑色)になる。
● NADP(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)は、NADにさらにリン酸が結合した補酵素の一種である。
● NADP+がなくても、NADP+の代わりとなる電子受容体(たとえばシュウ酸鉄(Ⅲ)など)があれば、電子が流れ、水の分解(酸素の発生)が起こる(電子伝達のどの段階で電子受容体が電子を受け取るかは、使用する電子受容体によって様々である)。
● ヒルが行った実験では、葉緑体の外膜、内膜は壊れていた(すなわち、ヒルが光を当てていたのは、無傷の葉緑体ではなく、葉緑体の中身[チラコイド膜]であった。なお、後に、イエンセンとバッシャムがCO2固定能力を持つ無傷の葉緑体を調製することに成功している)。カルビン・ベンソン回路の酵素やNADP+は、周囲の溶液に拡散し失われてしまっていた。
この場合、NADP+の代わりとなる(シュウ酸鉄(Ⅲ)などの)電子受容体を加えれば、電子が流れ、(水の分解が起こり)酸素が発生する。
ただし、無傷の葉緑体を用いた場合でも、CO2がなければ、NADPHがNADP+に戻ることができず、水の分解(酸素の発生)は起きないと考えることができる。
● ヒルの実験によって、重大な事実がいくつか明らかになった。
①CO2の存在なしに酸素が発生することで、酸素は二酸化炭素由来ではなく水由来であることが明らかになった。
②単離した葉緑体でも、光合成の重要な部分反応を行えることが明らかになった。
③光合成の反応において、ある物質から別の物質への電子の伝達が光エネルギーによって駆動されることが明らかにされた。
その後、ルーベンらは、酸素の同位体である18Oを用いた実験を行った。18Oを含む水の中でクロレラに光合成を行わせたところ、発生した酸素の中には18Oが含まれていた(水の分解によって酸素が発生する[酸素は水由来である]ことが明確に証明された)。
● ルーベンは、第二次世界大戦中、化学兵器の研究中に事故により死亡した。まだ29歳の青年であった。世界大戦の中で、純粋科学の研究の支援は後回しにされていた。
● 動画では、光化学系Ⅰ、Ⅱが順番に駆動されるような言い方をしているが、光化学系Ⅰ、Ⅱは、連動して働く。以下に詳細を記す。
・光は電磁波なので、電子を揺さぶる。光化学系の反応中心にあるクロロフィルaの電子が光によって揺さぶられ、十分なエネルギーを得ると、クロロフィルaから電子が飛び出す。
・光化学系Ⅱから飛び出た電子は電子伝達系を伝わる。その際、電子のエネルギーがH+のチラコイド内腔への能動輸送に使われる。電子は最終的に光化学系Ⅰに渡される(光化学系Ⅰが失った電子の穴を埋める)。
・電子を失った光化学系Ⅱのクロロフィルaは、水から電子を受け取る(水の電子を奪い取る)。
・光化学系Ⅰでは、飛び出た電子はNADP+に渡され、NADPHが生じる。
・電子を失った光化学系Ⅰのクロロフィルaは、電子伝達系を伝わってきた電子を受け取る。
・光化学系とは、「光化学反応を起こすのに必要な(色素などを含む)システム全体」を指す(植物の光化学系の反応中心には、特別なクロロフィルaの分子対が存在する)。
*色素が光エネルギーを吸収して化学反応を起こすことを総称して光化学反応(こうかがくはんのう)という。
・光化学系Ⅰ、Ⅱは起こる順番とは関係ない。Ⅰ、Ⅱの順に解明されたというだけ。
・光合成での電子伝達系によるATP生成のしくみを光リン酸化(こうりんさんか)という(「光」エネルギーでADPを「リン酸化」)。
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