『精選短編アンソロジー 予感』寄稿者様と作品の紹介
みなさんこんにちは。涼椎街です。
今回は、前回紹介させていただいた、文学フリマ東京40で販売予定の本:『精選短編アンソロジー 予感』にご寄稿くださった方々と、寄稿作品のあらすじ・魅力を紹介していきます。
実は、まだ公式アカウントでも情報が出ていない作品ばかりなので、これを読んでくださっている方のみ先行公開ということになります(だからどうしたって感じかもしれませんが……)。
1人目:しがないさん
経歴:カクヨム甲子園2021大賞、同大会2022大賞・奨励賞、他多数
びっくりしましたか? 私もびっくりしています。なんと、前に記事にさせていただいた、しがないさんにご寄稿いただけることになりました。幸せすぎます……。
若い男女の交流を主軸に、ライトノベル的な風合いに満ちた淡い青春を描かれる方です。高校生同士の恋愛小説は初々しさもあって惹きつけられます。
実際、高校生に光を当てた作品が多いですが、大学生や大人を先鋭な角度から捉えた小説も沢山書かれています。卒業して、風貌や考え方もいささか落ち着いてきた、そんな時期の男女もしがないさんの手にかかればあら不思議。青春とは高校卒業後も続いていくものなのだということを実感させられます。
少し本筋からずれますが、高校生の小説コンテストで優勝することがどんなことなのかピンと来ない、という方もいらっしゃるかと存じますので、個人的な印象を少し述べたいと思います。
個人的には、高校生の小説コンテストは、どれだけ自分と向き合ってきたか、あるいはどれだけ小説と向き合ってきたかの勝負だと考察しています。Xで受賞者たちの投稿を見ると、魂を込めて書かれているのが伝わってきて、このどちらかの要素を強く持っている方が多いと感じました。
「どちらか」というのは、たとえば、後者を自ら否定している方も多いんです。小説を読むことはすきではない、と。それでも、「原稿用紙1枚以上という募集なら、書けるかもしれない」「文章なら、苦しかったことを創作として昇華できるかもしれない」、そんな想いで勝ち獲った方が一定数いらっしゃいます。
また、技術についてですが、それはもちろん必要ではあるでしょう。しかし受賞作を読む限り熱量が何よりも必要なのだろうなと察しました。
つらつらと書きましたが、これはあくまで私の考えであり、誤っている可能性もあります。そして、私なんかが語るよりも実際に優勝された方の言葉を読むほうが感覚も掴めるかと思いますので、参考程度に2連覇直後のしがないさんのインタビューを載せておきます。よろしければ読んでみてくださいね。
「カクヨム甲子園2022大賞受賞者インタビュー しがないさん(ロングストーリー部門『クレーのいた冬』)」株式会社KADOKAWA、2023年
寄稿作品
「グッドバイ言わないで」
未来を予感できる先輩が、世界の終わりを告げた。限りある時間の中で、相模は先輩とやり残したことを実行していく。そんな中、先輩を殺すよう訴える女が現れて──。
終末を目前に、相模は何を見つけるのか。重厚な会話劇が2人だけの冬を創る、圧巻のセカイ系小説。
作品へのコメント
自分の世界が正されていく感覚に見舞われました。元々歪んでいたとかそういうのを言いたいわけではありませんが、この表現が最も合っている気がするんです。相模の考え方から吸収できるものが確実にありました。
世界の終わりという題材も新鮮で、どうしようもない不条理に挑む2人の葛藤に終始惹きつけられました。
2人目:昼川伊澄さん
経歴:第一回ひなた短編文学賞ティーンズ賞
2人目は昼川伊澄さんです。
昼川さんは小説はもちろん、詩も高頻度で書かれていますね。内容としてはすごく高度なことをやられている印象で、とても私が太刀打ちできるような詩ではありません。
そのような創作姿勢が小説にも影響しているのか、昼川さんが書かれる小説はかなり純文学的に窺えます。とにかく技術がヤバすぎる感じはありますね。
詩の技法のひとつに「行と行を飛んでいく書き方」があると思うのですが、それを小説でも自然な形で実践されているように感じます。直截的な言い方を避け、修辞を凝らした文を重ねることで「小説」という形式に仕上げているような……。
でも「読みにくい」とか「意味不明」とかは全くないんです。小説では明確なストーリーが用意されていますから。
さらに、モラトリアムに居る人々が主人公であることが多く、軽やかな文体なので、私はいつも「力みすぎない純文学」として楽しませていただいています。
寄稿作品
「開花予報」
常にパソコンで何かを創り続けていた友人の和矢は、一緒に受けた検定に難なく合格したらしい。テレビから開花予報が流れると、演技っぽく顔を上げ、まだ咲かないかなと聞いてきた。
まもなく20歳の青年が隠し持つ羨望と愛憎を、緊張感あふれる文体で兆した、静かな事件の誕生。
作品へのコメント
すごく美的で、粗筋を説明するのを拒むような展開が魅力的でした。
私がちょうど主人公と同じくらいの年齢のためか、友人との距離感の難しさに肯くことがありました。ただ、モラトリアムらしい劣等感にはどこか懐かしさもあり、周囲と比べることしかできなかったあの頃を思い出しながら読み進めることになりました。
青春の裏側に迫った作品です。
3人目:陽子さん
経歴:第2回高校生のための小説甲子園関東ブロック代表、カクヨム甲子園2021奨励賞
お次は陽子さん。当時、関東ブロックの激戦を勝ち抜いて集英社が主催した小説甲子園の決勝に進出した方です。
カクヨム甲子園でも高校1年時から名を馳せており、2019年・2020年・2021年に三年連続で最終選考へと進まれました。異世界的・中華的な世界観を高校生離れした観察眼で丁寧に組み立てていくその強豪ぶりは、他の応募者たちや選考委員一同からの大きな注目を浴びました。
じわりと、何かが内側に染み込んでいくようなホラーを書かれています。ミステリーが主題の小説(「なぜ〇〇が起こったのか?」「誰が〇〇をしたのか?」など)はあまり見かけないですが、ミステリーの技法自体は随所で用いられているイメージがあり、予想できないところで私たちの体温を急激に下げてくれます。確実に夏でも冷えますよ。
寄稿作品
「ナイト・オン・ザ・デッドタウン」
ゾンビを捕まえてその肉を売ることを仕事にしている俺は、あるアパートでサダと名乗る男と出会う。2階にはサダの恋人が住んでいるらしく、サダは第六感で恋人の消灯時刻を当ててみせた。毎晩、毎晩……。
手に汗握る展開から目が離せない戦慄のゾンビ×ホラー。
作品へのコメント
物腰が柔らかい一方、どこか不気味な雰囲気的も醸し出しているサダさんの行動は全く読めなくて、冷や汗が止まりませんでした……。
多くの人が出歩くのを避けている夜の街で、ひたすらゾンビを狩り続ける主人公も、わけがありそうですよね。
こんな読書体験は久しぶりでした。読み終えたときに思わず「やば」と呟いてしまいました。
4人目:雨虹みかんさん
経歴:第7回角川つばさ文庫小説賞こども部門入賞、カクヨム甲子園2022奨励賞、他多数
4人目は雨虹みかんさんです。創作の幅が多岐にわたっており、俳句・短歌・絵・詩・作詞・エッセイなど、小説以外のジャンルにも積極的に取り組まれています。雨虹さんが刊行された本の表紙は、自分で描かれた絵らしいです。また、俳句や短歌の実績も多いですね。ただ、経歴の欄に書き切れないので大変恐縮ですが今回は省略させていただきます。
小説では、叙情的な言葉を駆使して、時にかわいらしく、時におしゃれに文章を組み立てていく方です。児童文学的な物語で清涼感を放つ作風が評価されてきました。
一貫して、葛藤を抱える少年少女(著名な例としては同性愛)をヤングアダルト層に向けて切なく爽やかに描かれてきた印象ですが、最近は大人向きのビターな学園ミステリーも手掛けているそうです……すごすぎます。
寄稿作品
「微檸檬」
君の笑顔は小さな爆発だ。
体育終わりの教室で、私と君はお揃いのレモンの香りを纏う。現代文で、ある小説が取り上げられる。2人は帰り道を歩き自分にとっての檸檬を探し合う。
高校1年生の夏の始まりを、微炭酸と檸檬の融合によって甘酸っぱく爽やかに紡いだ、奇跡の未満小説。
作品へのコメント
まさか檸檬系(?)の作品が寄稿されるとは思っていなかったです。びっくり……。
過去形がほとんど出てこなくて、真新しい比喩も沢山あり、言語の実験みたいなことをやっている印象がありました。同じ漢字を開いたり閉じたりしている意図についても考えさせられました。
爽快感100%な私と君の軌跡をノンストップで追いかけました。
ちなみに未満小説という言葉は私の自作です。雨虹さんに気に入っていただけて、すごく嬉しかった……。
5人目:青葉寄さん
経歴:カクヨム甲子園2022ポカリスエット賞、第18回小学館ライトノベル大賞・大賞
まさかの青葉寄さんが参戦です。去年、小学館ライトノベル大賞で史上最年少の18歳で大賞を受賞された、ライトノベル作家さんです。
高校生の男女を主人公に置いた、瑞々しくもダークな物語が得意な方です。青葉寄さんに殺害、死体、逃避行のどれかをテーマとして渡せば鬼に金棒と言われています。
青春という概念を最も内包しているのは、実は「部活動」や「放課後」ではなく「逃避行」だったりしますが、青葉寄さんはそれを非常に鋭い感性で小説に起こしているなあと思います。
寄稿作品
「少女七瀬の殺戮以外のすべて」
落合は、七瀬に恋をしている。七瀬は普通の女子高生だ。それなのに、動物園やペットショップの前を通ると、彼女から小動物への強い殺戮衝動を感じて仕方ない。
落合の予感は当たっているのだろうか。七瀬との運命は──? 恐るべき衝撃が走る青春サスペンス。
作品へのコメント
落合と七瀬が辿る歪なひと夏に自身も吸い込まれていくようです。
2人とも、どこか常軌を逸脱してしまった少年少女みたいな危うさを帯びているけれど、七瀬は仕草ひとつひとつが可愛いし、落合は接し方が優しくて好青年感がすごい……。
スリルとドキドキを同時に味わえました。グサッと突き刺されるような猟奇的な夏が最高でした。
6人目:筆入優さん
経歴:カクヨム甲子園2023・2024中間選考突破
最後に紹介させていただくのは筆入優さん。実に幅広い作風の方です。SFやファンタジーのイメージが強いですが、ショートショートを書かれても一流で、短篇ならではのどんでん返しが最高ですね。
一貫している雰囲気としては、どのジャンルを扱っても感傷的な読み味を備えていることが挙げられると思います。
めちゃくちゃ面白いストーリーを構築しながら、文章まですごく綺麗な方です。内容がエンタメである一方、その書き出し方は純文学に近いかもしれません。ライトさを保ちながらも格調高い表現を連発していく文章は、常に独特のリズムを生んでいて、変な言い方ですけどすごく肌に馴染みます。
寄稿作品
「春の核」
高校生の御堂は、深夜の公園で桜を食べる少女、魚上燕(うおがみつばめ)と出会う。見張り役を任され、毎晩彼女に会いに行く。やがて二人は互いをたった一人の友達として意識し始めるが、魚上家には奇妙な伝統があって──。
桜を求め続けた先に切ない春の予感が満ちる、傑作のボーイ・ミーツ・ガール。
作品へのコメント
素直じゃない御堂と、ツンツンしながらも時折見せる悪戯っぽさがキュートな燕ちゃんのやり取りに、胸がときめきました。
でも、それだけでは終わらせない物語の陰影も、民俗学的な要素を含んでいて、惹きつけられます。
「友達」を探し続けた孤独な2人の、透き通った冒険譚です。
まとめ
いかがだったでしょうか。豪華すぎる顔ぶれを前に、私も未だに夢を見ているかのような心地ですが、少しでも面白そうだと感じていただけたら幸いです。
本アンソロジーの魅力として、セカイ系、純文学、ホラー、青春、サスペンス、ファンタジーなど、様々な予感に彩られたジャンルが揃っていることが挙げられるかと思います。
数年前、高校生のトップを競い合った人たちは、やはり作品の面白さも超一流。もし興味を持っていただけて、5月11日に東京ビッグサイトに来てくださる方がいらっしゃいましたら、私はこれ以上にないくらい幸せです。
でも買わなくても全然大丈夫です。むしろ、涼椎街ってどんな奴やねん! って感じで、ちらっと寄ってお話だけでも超嬉しいです。もっと記事書けよ涼椎街~、とかなんでもどうぞ。雑談しましょう。
ブース場所(=席)が確定したら、何かの記事の中でついでにお伝えしますね。
2回にわたって私の文フリ記事を読んでいただき、本当にありがとうございました。