【 note : https://note.com/yaguchihappy 】
呼吸の電子伝達系について講義します。
語呂「デンデンムシが山荘の水へ(電子伝達系、酸素は水へ)」
●この動画で見たように、電子がミトコンドリア内膜を伝わり酸素に受け渡される際にH+の濃度勾配が形成され、その濃度勾配を利用してATPが生成される反応を『酸化的リン酸化』という。有機物の『酸化』により取り出したエネルギーを用いたADPの『リン酸化』という意味である。
●電子伝達系
①NADHやFADH2から電子が放出される(この電子は、有機物由来の、高いエネルギーを持った電子である)。
②電子が内膜を伝わる。その時、電子のエネルギーを用いて、H+が膜間腔(ミトコンドリア内膜と外膜の間の空間)に能動輸送される(H+が濃度勾配に逆らって輸送される)。
結果、膜間腔が高いH+濃度に維持される(もともと食べ物が持っていた化学エネルギーが、H+の濃度勾配に変換される)。
③電子は、最終的に、酸素とH+と結合して、水が生じる(酸素は電子が行き着く終点である。電子は、エネルギー的な下り坂を落ちていき、酸素に行き着く。結果、水が生じる)。
④H+が、ATP合成酵素を通って、膜間腔からマトリックスに流れ出る(このH+の移動は濃度勾配に従った移動である)。このとき、ATPが合成される。
グルコース1分子あたり、最大34ATPが生成する。
●酸素がないと、電子伝達系だけでなく、クエン酸回路も停止する。クエン酸回路の反応には直接酸素が必要ないのに、どうしてだろう?
クエン酸回路の進行には、大量の酸化型補酵素(NAD+やFADのこと)が必要である。しかし、酸素がないと、還元型補酵素(NADHやFADH2のこと)が電子伝達系で酸化されなくなり、酸化型補酵素に戻れなくなる。その結果、クエン酸回路の進行に必要な酸化型補酵素が不足してしまい、クエン酸回路は停止するのである。
● このようなATP合成の仕組みを、『酸化的リン酸化』という(有機物を、酸素によって「酸化」して得たエネルギーを用いて、ADPを「リン酸化」し、ATPを合成する)。
●かつて、呼吸を行うある種の細菌(ミトコンドリアの起源となった好気性細菌)は、ある膜タンパク質(ATP合成酵素の起源)を用いて、ATPをADPとリン酸に分解し、放出されるエネルギーでH+を細胞膜外に排出し細胞内のpHを一定に保っていたらしい。いつしか、細菌はこの膜タンパク質を『逆向き』に働かせ、『H+の移動に伴ってADPとリン酸からATPを合成』するようになったと考えられている。呼吸の電子伝達系の起源である。
問題:真核生物の行う呼吸において、電子伝達系(NADHやFADH2によって運ばれた電子が放出され、最終的に酸素と結合し水が生じる反応)はどこで起こるか?選べ。
①ミトコンドリアの外 ②ミトコンドリアのマトリックス ③ミトコンドリアの内膜
答え:③
問題:H+の移動と共に(H+の濃度勾配を利用して)ATPを合成する酵素を何というか。
答え:ATP合成酵素
(このようにATPが生成される反応[電子がミトコンドリア内膜を伝わり酸素に受け渡される際にH+の濃度勾配が形成され、その濃度勾配を利用してATPが生成される反応]を『酸化的リン酸化』という。たまに問われる)
<Q.内膜とクリステって何が違うの?…内膜が内部に向かって突出した部分(内膜が内側に折れ込んでいる部分)をクリステという。クリステはミトコンドリアの長軸に直角に突出することが多い。クリステのもともとの語源は「櫛」(櫛を意味するラテン語がcrista。その複数形がcristae)。>
●化学浸透圧説:電子伝達系で放出されるエネルギーが、H+の濃度差という形態で蓄えられた後、ATP合成酵素によってATP合成が起こるという説を、化学浸透圧説という。
●1962年、イギリスのエジンバラ大学動物学科のミッチェルは化学浸透圧説を提唱したが、誰にも認められなかった。そこでミッチェルは、私邸を改造して研究所を設立し、1名の助手とともにミトコンドリアの酸化的リン酸化の研究に没頭した。しだいに化学浸透圧説を支持する実験事実が増加し、1978年、ノーベル賞を受賞した。粗末な実験室で簡単な実験をするという研究生活は、巨大な設備と人員を誇る多くの大学の研究室の在り方に、一つの反省をもたらすものとなった。
●ミトコンドリアを酸性溶液(H+濃度が高い溶液)に浸す(膜間腔の水素イオン濃度が高くなる)と、基質を加えなくてもATPの生成が見られる(この結果は、水素イオンの濃度勾配がATP合成を起こさせるという化学浸透圧説の考え方を支持する。マトリックスの外にたくさんあるH+が、ATP合成酵素を通りマトリックス側に流れ込むことで、ATPが合成されたのである)。
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