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補酵素NAD(NAD+・NADH)と脱水素酵素のはたらきについて解説します。
●NADHは「還元型」などと言われることがある。「還元された」とは、「Hとくっ付いた」というようなイメージである。「NAD+にHがくっ付いている型」だからNADHは還元型と呼ばれる。
●NADPHは光合成のみで使われている物質ではない。我々動物においても使われている(たとえばコレステロール生合成に関わっている)。
●教科書の光合成のページに「還元力」という言葉が出てくる。「還元力」とは、「誰かに電子を押し付けようとする勢い」のようなイメージである。NADPHは高い還元力を持ち、高エネルギー電子を誰かに押し付けることができる。光合成では、その勢いを使って、カルビン・ベンソン回路によって高エネルギー(の電子)を持つ炭水化物が合成される。
解糖系の解説動画はこちらです。→ • 解糖系【呼吸①】 高校生物
●アポ酵素のアポは「~から離れて」という意味。ホロ酵素のホロは「完全な」という意味。
問題:NAD+は、( X )という酵素の補酵素である。( X )は、解糖系やクエン酸回路で水素を基質から脱離する反応を触媒する。空欄( X )を埋めよ。
答え:脱水素酵素
問題:脱水素酵素は、アポ酵素とよばれるタンパク質部分と、補酵素からなる。高温に弱いのは(①アポ酵素 ②補酵素)の方である。正しい番号を選べ。
答え:①アポ酵素(タンパク質は一般に高温で熱変性し失活するので、熱に弱い)
●ざっくり言えば、還元剤とは、電子を押し付ける奴という意味である。NADPHは、たとえば光合成で還元剤として使われる(NADPHの運んでいた高エネルギーの電子が炭水化物の合成に使われる)。酸化剤とは、電子を受け取る奴と言う意味である。たとえば呼吸で、NAD+は基質の持っていた電子(とH+)を受け取ってNADHになる(NADHの運ぶ電子のエネルギーは、たとえばミトコンドリアの電子伝達系で利用され、ATPの合成に使われる)。
●発酵で得られるATPが少ないのは、NADHの運命を見れば説明できる。
発酵では、結局、脱水素酵素により基質から奪われた高エネルギー電子は、再び基質由来の物質(ピルビン酸やアセトアルデヒド)に返却され、NADHが酸化的リン酸化に使われることはない。発酵では、基質は完全に分解されず(多くのエネルギーを保持したまま)乳酸やアルコールの形で捨てられる。
一方、呼吸では、脱水素酵素の働きによってどんどん基質から高エネルギー電子が奪われ、かなりの数のNADHが生じる。それらのNADHがもつ高エネルギー電子は、酸化的リン酸化のしくみにより、ATP合成のために有効活用される。
●NAD +とNADP+という別々の電子運搬体を使っているのは何故だろう?NAD +とNADP+は基本的に別々の代謝経路で使われる。NAD+は異化のための酸化剤に、NADPHは同化のための還元剤として使われる。細胞内では、NAD+はNADHより多く存在し、NADPHはNADP+より多く存在している。このように、ふたつの高エネルギー電子運搬体を使い分けることによって、別々の反応を効率よく推進することが可能になっている。
●NADは正式名称をニコチンアミドアデニンジヌクレオチドnicotinamide adenine dinucleotideといい(覚えなくて良いが、ニコチンアミドは窒素を含む塩基である。ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドは、ニコチンアミドが使われたヌクレオチドと、アデニンが使われたヌクレオチドが繋がったものである。ニコチンアミドはDNAやRNAには存在しない塩基である)、酸化型(NAD+)と還元型(NADH)の2種がある。
●呼吸において、脱水素酵素は基質からプロトンと電子を奪う。
●脱水素酵素はデヒドロゲナーゼともいう。
●NAD+は脱水素酵素のはたらきにより、基質からプロトン(H+)と電子を受け取る。
●NAD+は各種の脱水素酵素に共通する補酵素である。
●NADが使われることによって、基質が酸素によって酸化される経路を駆動させる仕組み(電子伝達系)は、好気的生物に見られる主要な異化反応の道筋である。
●動画中で、プロトンは重要ではないと言っているが、当然、電子伝達系を用いた酸化的リン酸化には、プロトンの運搬と濃度勾配の形成が必要である。念のため。
●FADも、NAD+と似た働きをするが、大きな違いは、FADはアポ酵素と強く結合していることである(たとえばコハク酸脱水素酵素からFADを取り外すことは普通出来ない。無理矢理取り外すとコハク酸脱水素酵素は働きを失う)。
簡単にアポ酵素から外れるものを補酵素と限定して言うこともあり、その場合は、アポ酵素と容易に分離できないFADは補欠分子族などと言う(特に区別せず、NAD+もFADも脱水素酵素の補酵素と呼ぶことが多い)。
●コハク酸脱水素酵素はミトコンドリアの内膜に埋め込まれている。その他のクエン酸回路の構成成分はマトリックスに溶け込んでいる。
●全ての種類の脱水素酵素の分子機構について、詳細がわかっているわけではない。今回はわかりやすさを優先し、ひとつのモデルを示した。
●補酵素の多くは『透析』という実験法によってアポ酵素と分離できる。
*透析:セロハン膜などの半透膜(低分子物質は通過できるが、高分子物質は通過できない膜)を利用して、高分子物質を含む溶液から、低分子物質を分離・除去する操作。今回の場合、高分子物質はアポ酵素(タンパク質)、低分子物質は補酵素である。
●一般に、補酵素は熱に強く、タンパク質部分であるアポ酵素は熱に弱い。
*タンパク質が熱に弱いのは不思議なことではない。レゴブロック一個は多少手荒に扱っても壊れないが、レゴブロックが長く繋がってできている大きな作品は、揺さぶっただけで壊れてしまうことがある。大雑把に言えば、タンパク質はアミノ酸が長く繋がり、特別な立体構造をとっている一つの作品である。アミノ酸一つがレゴブロック、タンパク質がレゴブロックでできた大きな作品である。
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