【 note : https://note.com/yaguchihappy 】
コムギの進化(パンコムギの誕生、倍数化による種分化)について解説します。
● コムギは、世界で最も多く栽培されている作物の一つであり、一年中世界のどこかで収穫されている。
● パンコムギは、単に「コムギ」とも呼ばれる。世界で広く栽培され、パン、めん、菓子など、様々な食物の原料になっている。世界のコムギ栽培面積の9割はパンコムギである。
● コムギ属は、一粒系コムギ(1穎花だけが稔る)、二粒系コムギ(2穎花が稔る)、普通系コムギ(3~4穎花が稔る)に分けられる。
*穎花:「えいか」と読む。イネ科植物の花。
● 現在主に栽培されているのは、二粒系コムギ(デュラムコムギ[マカロニコムギ]。マカロニやスパゲティに適する)と普通系コムギ(パンコムギ、クラブコムギ)である。
● AやBやDはそれぞれ、小麦の祖先種のゲノム(染色体のセット)を表している。動画ではこれらは全然別物のように説明しているが、ゲノム中の遺伝子、遺伝子間配列には似ているところも多くある。
● コムギの起源となる種は、野生型の一粒系コムギ(AA)であると考えられている。これが、未確定のコムギ(おそらく野生していたクサビコムギ[BB]。クサビコムギは今も雑草として見られる)と交雑して、野生型の二粒系コムギ(AABB)が誕生した。
二粒系コムギは栽培型の二粒系コムギであるエンマコムギ(AABB)へと発達した(エンマコムギからやがてデュラムコムギ[マカロニコムギ]などの二粒系コムギが発達していった)。
そして、エンマコムギが雑草であったタルホコムギ(DD)と交雑し、普通系コムギ(AABBDD)が誕生したと考えられている(この普通系コムギからパンコムギが発達した)。
*タルホコムギのゲノムを表す記号がDなのは、「普通系」をドイツ語で「Dinkelreihe」と書くことから(Dゲノムは普通系コムギ特有のゲノムとして研究されてきた。木原均はその由来を突き止めたのである)。
● 「パンコムギは6倍体である」と言うことがある(覚えなくてよいが、今回のように、1そろいの染色体の組を、近縁ではあるが別種の2種以上の生物から受け継いだ雑種を、特に『異質倍数体』という)。x=7を基本的な数として、パンコムギのゲノム(AABBDD)を2n=6x=42と表現することがある(この表現のほうがよくゲノムの構成をよく表している)。
● 木原均は、動画のような仮説を立証した。様々な種を集め、交雑させ、染色体が対合するかどうかを分析することでパンコムギの祖先を突き止めた。この方法はゲノム分析と呼ばれる。
*AとA、BとB、DとDが対合する。
たとえば、DDのゲノムをもつタルホコムギを持ってきて、パンコムギ(AABBDD)と交配させ、ABDDの個体を作るとする。すると、減数分裂時にDとDが対合するので、DDのタルホコムギはパンコムギの祖先の1つであるとわかる。木原は、染色体が対合するかしないかを調べ、パンコムギのゲノムの祖先を突き止めたのである。
● 木原均は、パンコムギ(AABBDD:このゲノムの由来は当時不明であった)と、二粒系コムギ(AABB)を交配し、その雑種(F1)植物(AABBD)の減数分裂において、14対の二価染色体(AとAが、BとBが二価染色体を形成した)と、7個の一価染色体を観察した。このことから、二粒系コムギ(AABB)はパンコムギの祖先のひとつだとわかった。その後、パンコムギ(AABBDD)とタルホコムギ(DD)を交配して得たF1植物の減数分裂での染色体の対合を調べたところ、7対の二価染色体(DとD同士が対合した)と14個の一価染色体が観察された。このことから、パンコムギのゲノムDは、タルホコムギ(DD)に由来すると判断した。
さらに、二粒系コムギ(AABB)とタルホコムギ(DD)を交配し、作成したF1植物(ABD)を用いて染色体倍加実験を行い、AABBDDのゲノムを持つ植物を作成した。この植物は普通系コムギにきわめて類似していた。
● 木原均は、ゲノムを「生活機能の調和を保つうえで欠くことのできない染色体の一組」と見なし、現代的なゲノムの概念を確立させた。
「ゲノム分析による小麦属の分類が完成した事から見て小麦の研究は一先づ一段落ついたと見る事も出来るが、ゲノムの研究は之から初まるのである。」木原均『小麦の研究』より
「地球の歴史は地層に、生物の歴史は染色体に書いてある。」木原均『小麦の祖先』より
● タルホコムギ(DD)は乾燥に耐性があり、その性質がパンコムギに引き継がれたと考えられている(パンコムギは半乾燥地域でも栽培可能である)。
*対合は「ついごう」とも「たいごう」とも読みます。
*染色体の形を特徴付けて描いていますが、それは今回の授業のためだけにそう描いているだけです。タルホコムギの染色体は皆「く」の字に曲がっている、などと思わないように。念のため。
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