グリフィス・エイブリー・ハーシーとチェイスの実験 生物基礎
16分47秒
説明
【 note: https://note.com/yaguchihappy 】
「遺伝子の本体はDNAである」ということが証明されるまでに行われた実験(グリフィスの実験・エイブリー[アベリー]の実験・ハーシーとチェイスの実験)について講義します。
*申し訳ありません。一昨年upした動画の修正版です。
noteには簡単なイラストもあります↓
https://note.com/yaguchihappy/n/n57f5a5b38f78
問題:グリフィスは、R型の肺炎双球菌が、S型に( )転換することを発見した。空欄に漢字2字を入れよ。
答え:形質
問題:アベリーは、形質転換の原因物質が( )であることを示した。空欄に入るのはDNAか、タンパク質か。
答え:DNA
問題:T2ファージが大腸菌に注入するのはDNA?タンパク質?
答え:DNA
●タンパク質は、20種類のアミノ酸からなり、生物ごとに多様な種類が存在する。立体構造・機能も非常に多様で複雑である。一方、DNAに含まれる塩基はたった4種類である。当時の多くの生物学者が「タンパク質こそ遺伝子の本体であり、DNAは、タンパク質をまとめている物質に過ぎない」と考えていたのも無理はない。
●スイスの生理化学者ミーシャーは、膿の細胞核中からヌクレインという新物質を発見した(のちに、核に多く存在する酸性物質という意味で核酸と名付けられた)。
*ミーシャーは、白血球の残骸である膿から細胞核成分を取り出し、ヌクレインと名付けた。この報告は1871年に発表された。その後、ヌクレインは核酸と改名され(1889年)、アデニン、チミン、シトシン、グアニンという化合物を含んでいることが示された(1905年)。さらに糖とリン酸が含まれていることがわかった。そして、1929年、糖がデオキシリボースであることが明らかになった。そこでこの物質がデオキシリボ核酸(DNA)であることが確定した。
●細菌学者グリフィスは、肺炎双球菌(はいえんそうきゅうきん、原核生物)とマウスを使って、形質転換(DNAを取り込み、形質を変化させること)を発見した(1928年)。
●肺炎双球菌には2つの型がある。S型菌(なめらかsmoothなコロニーを形成する)には病原性がある。もう一方のR型菌(コロニーはざらざらroughしている)には病原性はない(R型菌はS型菌の突然変異によって生じる)。
語呂「ドSのS型(S型菌は病原性があり危険である。マウスに生きた肺炎双球菌のS型菌を注入すると、マウスは肺炎を起こして死んでしまう)」
●S型菌は莢膜(きょうまく)という鎧のような構造を持ち、白血球から逃れる。よって、S型菌はマウスに肺炎を起こす。対してR型菌は莢膜を持たず、肺炎を起こす能力はない(マウスの白血球に排除されてしまう)。
●グリフィスの実験
①生きたR型菌(病原性なし)をマウスに注射→マウスは生存。
②生きたS型菌(病原性あり)をマウスに注射→マウスは死亡。
③加熱殺菌したS型菌(病原性なし)をマウスに注射→マウスは生存。
④(生きたR型菌+加熱殺菌したS型菌)をマウスに注射→マウスは死亡。
④で死んだマウスから生きたS型菌が検出された。
●生きたR型菌と熱で殺菌したS型菌を混ぜてマウスに注射すると(上記④の実験)、マウスが死んでしまうことをグリフィスは発見した。彼を驚かせたのは、死んだマウスから「生きたS型菌」が検出されたことであった。R型菌がS型菌のDNAを取り込み形質転換していたのである。
*R型菌からS型菌への形質転換は他の研究室でも追試・確認されたが、細菌の間で遺伝情報が伝達するという概念はなかなか受け入れられなかった。
*死んだS型菌から放出されるDNA断片の種類は多く、ほとんどのR型菌は別のDNA断片を受け取るので、特定の遺伝子に関する形質転換効率は通常1%以下である(ただし、グリフィスの行った上記④のような実験では、形質転換できなかったR型菌はマウスの白血球によって排除されている)。
*グリフィスは、ある日、数匹のマウスにR型菌と加熱殺菌したS型菌の両方を注射した(上記④の実験)。これはコントロール実験(対照実験)であったが、このマウスは急性肺炎を起こした。そして、死んだマウスからS型菌が検出された。グリフィスは非常に驚いた。もしこの結果が正しいなら、殺されたS型菌の持っていた遺伝物質は、熱によって損傷を受けないばかりか、殺された細胞から抜け出し、生きた別の細胞の細胞壁を通って、その細胞の遺伝物質と遺伝的組換えを起こしたことになる。多くの生物学者がこの結果を拒絶した。免疫学者エイブリーも、はじめは、この結果を信じなかった(エイブリーは非常に慎重な性格で、同僚の話によると、ひとつひとつの文章・言葉すら、慎重に考慮していたという)。しかし、やがて彼は、このことが重大な発見であると考え始めた。
●免疫学者エイブリー(アベリー)は、加熱殺菌したS型菌の抽出物からDNAを単離し、そのDNAを用いてR型菌をS型菌に形質転換させた。
●エイブリーは、形質転換を起こさせる物質は(タンパク質ではなく)DNAであることを示した(S型菌抽出物をタンパク質を分解する酵素で処理してR型菌に与えたところ、形質転換は観察されたが、DNAを分解する酵素で処理してR型菌に与えたところ、形質転換は観察されなかった)。
●エイブリーは、実際は、以下のような実験を行った(1944年)。
①RNA分解酵素(文字通りRNAを分解する酵素)や様々なタンパク質分解酵素を加えても、形質転換活性に影響はなかった([RNAやタンパク質ではなく]DNAが形質転換を起こす原因となる物質なので、当然である)。
②DNA分解酵素(文字通りDNAを分解する酵素)によってDNAを分解すると、形質転換は起きなくなった(DNAが形質転換を起こす原因となる物質なので当然である)。
→形質転換の原因物質は(タンパク質ではなく)DNAであることが証明された。
*DNA分解酵素(デオキシリボヌクレアーゼ)は当時発見されたばかりであった。
*エイブリーは、精製した形質転換因子(この因子こそDNAである)が、冷やしたアルコール溶液の中で、ガラス棒に白っぽい繊維状の物質として絡みつくことを確認している(高校のDNA抽出実験で見ることのできるような白い繊維状の物質を、エイブリーも見たのである)。
*エイブリーの説明に富んだ論文にもかかわらず、多くの科学者はDNAが遺伝子の本体であることを認めなかった。多くの科学者は「微量に存在するタンパク質が原因となって形質転換を起こしたのである」などと主張した。
*エイブリーにノーベル賞を与えるべきであったという声も多い。彼の実験は非常にスマートである。「エイブリーがDNAが遺伝子の本体であることを証明した」とする本もたくさんある。
*「もしわれわれの結果が正しいとすれば――もちろん、ほんとうにもしも、もしもだけど――R細胞をそうさせた刺激の化学的性質がわかり、生じた物質の化学構造もわかることになるわけです。・・・今の時点でみんなに納得させるには、確かな証拠がたくさん必要で、われわれが今、一生懸命見つけようとしているのはそれなんです。シャボン玉遊びはとても楽しいけど、だれかが突っついて割る前に自分で割らなくちゃつまらないですからね。」1943年5月に書かれたエイブリーから兄弟への手紙(ストライヤーら『ストライヤー生化学第4版』より)
●分子生物学者ハーシーとチェイスは、T2ファージを用いて、DNAが遺伝子の本体であることを証明した(1952年)。
*T2ファージ:バクテリオファージ(細菌を宿主とするウイルス)というグループに属するウイルス。大腸菌に感染する。
●バクテリオファージは自身のDNAのみを大腸菌内に注入する。大腸菌内でファージ由来の遺伝子が発現し、大量の子ファージが(大腸菌内の物質を使って)つくられる。
●タンパク質は大腸菌内に注入されない=(タンパク質ではなく)「DNAが遺伝子の本体であること」が示された。
語呂「チェイスとハーシー!ティーツーファージ!(実験者と材料の語感が似ている)」
*なお、ファージのタンパク質の殻は、ミキサー等で攪拌(かくはん。かきまぜること)することで大腸菌から剥がすことができる。ハーシーとチェイスは、家庭用のミキサーを使って培養液を攪拌し、ファージのタンパク質の殻を大腸菌から分離させた。
*ファージは大腸菌に感染するウイルスである。ファージのDNAの指令に基づいて、大腸菌内でファージのタンパク質が合成される。ファージのDNAやタンパク質の合成には大腸菌の細胞内の成分が使われる。大腸菌は破裂して、中から子ファージが大量に放出される。
*ファージの遺伝子には、宿主のDNAを破壊するタンパク質を産生する指令が含まれている。
*たとえるなら、ウイルスは、そっと偽の命令文を細胞に忍び込ませているようなものである。あなたがレシピを見ながら料理をしている時に、偽のレシピがそっと差し込まれるようなものである。あなたはカレーを作っているつもりで、チャーハンを作ってしまう。
●ハーシーとチェイスの実験の詳細
・ハーシーとチェイスは、(放射能をもつ)放射性同位体を用いてDNAとタンパク質の識別を行った。
*P(リン)の放射性同位体である32P、S(硫黄)の放射性同位体である35Sを用いた。
・P(リン)は、DNAにはあってタンパク質にはない。S(硫黄)は、タンパク質にはあってDNAにはない。
タンパク質の構成元素:C,H,O,N,S
DNAの構成:C,H,O,N,P
*ハーシーとチェイスは、放射性同位体である32Pと35Sを、それぞれDNAとタンパク質の標識に用いた。
*知らなくてよいが、たとえば、バクテリオファージのDNAを32Pで標識したいと思ったら、まず、32Pを含む培地で大腸菌を培養する。そして、それらの大腸菌にバクテリオファージを感染させればよい(ファージの体は、大腸菌内の材料を使って作られる)。
①まず放射性の32Pをもつバクテリオファージを大腸菌に感染させた。結果、「大腸菌の内部」に放射性の32Pが検出された(=ファージのDNAが細菌の細胞内に入っていた)。
*大腸菌の外についたタンパク質の殻は、攪拌によって大腸菌から剥がすことができる。ハーシーとチェイスは培養液を家庭用のミキサーで攪拌し、大腸菌の外にくっ付いた物(今ではそれがタンパク質でできた殻だとわかっている。当時は、それがDNAで、DNAが細菌の中に入らないという説が残っていた)を振り落とした。その後、ハーシーとチェイスは、遠心分離(試験管をぐるぐる高速で回す)を行うことにより、大腸菌を試験管の底に落とした。結果、試験管の底から放射性の32Pが検出された→大腸菌の中にバクテリオファージのDNAが注入されていたとわかった。
②次に、放射性の35Sをもつバクテリオファージを大腸菌に感染させた。そして上と同様の手順で実験した結果、「大腸菌の外」の、ウイルスの殻があるであろう場所(試験管の上澄み)から放射性の35Sが検出された。よってファージのタンパク質は大腸菌の中に入っていないことが分かった。
→子ファージは大腸菌の中に作られる(ファージの遺伝情報をもとに作られる)のだから、DNAこそ遺伝子の本体であったことになる。
*ハーシーとチェイスは家庭用のミキサーを使って大腸菌とファージのタンパク質の殻を剥がした。なのでこの実験はブレンダー(ミキサーのこと)実験と呼ばれる。
*ハーシーとチェイスはノーベル賞を受賞した。
●1953年、ワトソンとクリックはDNAの二重らせん構造を発見した。
#生物
#遺伝子
#DNA
0:00 DNAとタンパク質
0:51 グリフィスの実験
5:24 エイブリー(アベリー)の実験
8:41 ハーシーとチェイスの実験
「遺伝子の本体はDNAである」ということが証明されるまでに行われた実験(グリフィスの実験・エイブリー[アベリー]の実験・ハーシーとチェイスの実験)について講義します。
*申し訳ありません。一昨年upした動画の修正版です。
noteには簡単なイラストもあります↓
https://note.com/yaguchihappy/n/n57f5a5b38f78
問題:グリフィスは、R型の肺炎双球菌が、S型に( )転換することを発見した。空欄に漢字2字を入れよ。
答え:形質
問題:アベリーは、形質転換の原因物質が( )であることを示した。空欄に入るのはDNAか、タンパク質か。
答え:DNA
問題:T2ファージが大腸菌に注入するのはDNA?タンパク質?
答え:DNA
●タンパク質は、20種類のアミノ酸からなり、生物ごとに多様な種類が存在する。立体構造・機能も非常に多様で複雑である。一方、DNAに含まれる塩基はたった4種類である。当時の多くの生物学者が「タンパク質こそ遺伝子の本体であり、DNAは、タンパク質をまとめている物質に過ぎない」と考えていたのも無理はない。
●スイスの生理化学者ミーシャーは、膿の細胞核中からヌクレインという新物質を発見した(のちに、核に多く存在する酸性物質という意味で核酸と名付けられた)。
*ミーシャーは、白血球の残骸である膿から細胞核成分を取り出し、ヌクレインと名付けた。この報告は1871年に発表された。その後、ヌクレインは核酸と改名され(1889年)、アデニン、チミン、シトシン、グアニンという化合物を含んでいることが示された(1905年)。さらに糖とリン酸が含まれていることがわかった。そして、1929年、糖がデオキシリボースであることが明らかになった。そこでこの物質がデオキシリボ核酸(DNA)であることが確定した。
●細菌学者グリフィスは、肺炎双球菌(はいえんそうきゅうきん、原核生物)とマウスを使って、形質転換(DNAを取り込み、形質を変化させること)を発見した(1928年)。
●肺炎双球菌には2つの型がある。S型菌(なめらかsmoothなコロニーを形成する)には病原性がある。もう一方のR型菌(コロニーはざらざらroughしている)には病原性はない(R型菌はS型菌の突然変異によって生じる)。
語呂「ドSのS型(S型菌は病原性があり危険である。マウスに生きた肺炎双球菌のS型菌を注入すると、マウスは肺炎を起こして死んでしまう)」
●S型菌は莢膜(きょうまく)という鎧のような構造を持ち、白血球から逃れる。よって、S型菌はマウスに肺炎を起こす。対してR型菌は莢膜を持たず、肺炎を起こす能力はない(マウスの白血球に排除されてしまう)。
●グリフィスの実験
①生きたR型菌(病原性なし)をマウスに注射→マウスは生存。
②生きたS型菌(病原性あり)をマウスに注射→マウスは死亡。
③加熱殺菌したS型菌(病原性なし)をマウスに注射→マウスは生存。
④(生きたR型菌+加熱殺菌したS型菌)をマウスに注射→マウスは死亡。
④で死んだマウスから生きたS型菌が検出された。
●生きたR型菌と熱で殺菌したS型菌を混ぜてマウスに注射すると(上記④の実験)、マウスが死んでしまうことをグリフィスは発見した。彼を驚かせたのは、死んだマウスから「生きたS型菌」が検出されたことであった。R型菌がS型菌のDNAを取り込み形質転換していたのである。
*R型菌からS型菌への形質転換は他の研究室でも追試・確認されたが、細菌の間で遺伝情報が伝達するという概念はなかなか受け入れられなかった。
*死んだS型菌から放出されるDNA断片の種類は多く、ほとんどのR型菌は別のDNA断片を受け取るので、特定の遺伝子に関する形質転換効率は通常1%以下である(ただし、グリフィスの行った上記④のような実験では、形質転換できなかったR型菌はマウスの白血球によって排除されている)。
*グリフィスは、ある日、数匹のマウスにR型菌と加熱殺菌したS型菌の両方を注射した(上記④の実験)。これはコントロール実験(対照実験)であったが、このマウスは急性肺炎を起こした。そして、死んだマウスからS型菌が検出された。グリフィスは非常に驚いた。もしこの結果が正しいなら、殺されたS型菌の持っていた遺伝物質は、熱によって損傷を受けないばかりか、殺された細胞から抜け出し、生きた別の細胞の細胞壁を通って、その細胞の遺伝物質と遺伝的組換えを起こしたことになる。多くの生物学者がこの結果を拒絶した。免疫学者エイブリーも、はじめは、この結果を信じなかった(エイブリーは非常に慎重な性格で、同僚の話によると、ひとつひとつの文章・言葉すら、慎重に考慮していたという)。しかし、やがて彼は、このことが重大な発見であると考え始めた。
●免疫学者エイブリー(アベリー)は、加熱殺菌したS型菌の抽出物からDNAを単離し、そのDNAを用いてR型菌をS型菌に形質転換させた。
●エイブリーは、形質転換を起こさせる物質は(タンパク質ではなく)DNAであることを示した(S型菌抽出物をタンパク質を分解する酵素で処理してR型菌に与えたところ、形質転換は観察されたが、DNAを分解する酵素で処理してR型菌に与えたところ、形質転換は観察されなかった)。
●エイブリーは、実際は、以下のような実験を行った(1944年)。
①RNA分解酵素(文字通りRNAを分解する酵素)や様々なタンパク質分解酵素を加えても、形質転換活性に影響はなかった([RNAやタンパク質ではなく]DNAが形質転換を起こす原因となる物質なので、当然である)。
②DNA分解酵素(文字通りDNAを分解する酵素)によってDNAを分解すると、形質転換は起きなくなった(DNAが形質転換を起こす原因となる物質なので当然である)。
→形質転換の原因物質は(タンパク質ではなく)DNAであることが証明された。
*DNA分解酵素(デオキシリボヌクレアーゼ)は当時発見されたばかりであった。
*エイブリーは、精製した形質転換因子(この因子こそDNAである)が、冷やしたアルコール溶液の中で、ガラス棒に白っぽい繊維状の物質として絡みつくことを確認している(高校のDNA抽出実験で見ることのできるような白い繊維状の物質を、エイブリーも見たのである)。
*エイブリーの説明に富んだ論文にもかかわらず、多くの科学者はDNAが遺伝子の本体であることを認めなかった。多くの科学者は「微量に存在するタンパク質が原因となって形質転換を起こしたのである」などと主張した。
*エイブリーにノーベル賞を与えるべきであったという声も多い。彼の実験は非常にスマートである。「エイブリーがDNAが遺伝子の本体であることを証明した」とする本もたくさんある。
*「もしわれわれの結果が正しいとすれば――もちろん、ほんとうにもしも、もしもだけど――R細胞をそうさせた刺激の化学的性質がわかり、生じた物質の化学構造もわかることになるわけです。・・・今の時点でみんなに納得させるには、確かな証拠がたくさん必要で、われわれが今、一生懸命見つけようとしているのはそれなんです。シャボン玉遊びはとても楽しいけど、だれかが突っついて割る前に自分で割らなくちゃつまらないですからね。」1943年5月に書かれたエイブリーから兄弟への手紙(ストライヤーら『ストライヤー生化学第4版』より)
●分子生物学者ハーシーとチェイスは、T2ファージを用いて、DNAが遺伝子の本体であることを証明した(1952年)。
*T2ファージ:バクテリオファージ(細菌を宿主とするウイルス)というグループに属するウイルス。大腸菌に感染する。
●バクテリオファージは自身のDNAのみを大腸菌内に注入する。大腸菌内でファージ由来の遺伝子が発現し、大量の子ファージが(大腸菌内の物質を使って)つくられる。
●タンパク質は大腸菌内に注入されない=(タンパク質ではなく)「DNAが遺伝子の本体であること」が示された。
語呂「チェイスとハーシー!ティーツーファージ!(実験者と材料の語感が似ている)」
*なお、ファージのタンパク質の殻は、ミキサー等で攪拌(かくはん。かきまぜること)することで大腸菌から剥がすことができる。ハーシーとチェイスは、家庭用のミキサーを使って培養液を攪拌し、ファージのタンパク質の殻を大腸菌から分離させた。
*ファージは大腸菌に感染するウイルスである。ファージのDNAの指令に基づいて、大腸菌内でファージのタンパク質が合成される。ファージのDNAやタンパク質の合成には大腸菌の細胞内の成分が使われる。大腸菌は破裂して、中から子ファージが大量に放出される。
*ファージの遺伝子には、宿主のDNAを破壊するタンパク質を産生する指令が含まれている。
*たとえるなら、ウイルスは、そっと偽の命令文を細胞に忍び込ませているようなものである。あなたがレシピを見ながら料理をしている時に、偽のレシピがそっと差し込まれるようなものである。あなたはカレーを作っているつもりで、チャーハンを作ってしまう。
●ハーシーとチェイスの実験の詳細
・ハーシーとチェイスは、(放射能をもつ)放射性同位体を用いてDNAとタンパク質の識別を行った。
*P(リン)の放射性同位体である32P、S(硫黄)の放射性同位体である35Sを用いた。
・P(リン)は、DNAにはあってタンパク質にはない。S(硫黄)は、タンパク質にはあってDNAにはない。
タンパク質の構成元素:C,H,O,N,S
DNAの構成:C,H,O,N,P
*ハーシーとチェイスは、放射性同位体である32Pと35Sを、それぞれDNAとタンパク質の標識に用いた。
*知らなくてよいが、たとえば、バクテリオファージのDNAを32Pで標識したいと思ったら、まず、32Pを含む培地で大腸菌を培養する。そして、それらの大腸菌にバクテリオファージを感染させればよい(ファージの体は、大腸菌内の材料を使って作られる)。
①まず放射性の32Pをもつバクテリオファージを大腸菌に感染させた。結果、「大腸菌の内部」に放射性の32Pが検出された(=ファージのDNAが細菌の細胞内に入っていた)。
*大腸菌の外についたタンパク質の殻は、攪拌によって大腸菌から剥がすことができる。ハーシーとチェイスは培養液を家庭用のミキサーで攪拌し、大腸菌の外にくっ付いた物(今ではそれがタンパク質でできた殻だとわかっている。当時は、それがDNAで、DNAが細菌の中に入らないという説が残っていた)を振り落とした。その後、ハーシーとチェイスは、遠心分離(試験管をぐるぐる高速で回す)を行うことにより、大腸菌を試験管の底に落とした。結果、試験管の底から放射性の32Pが検出された→大腸菌の中にバクテリオファージのDNAが注入されていたとわかった。
②次に、放射性の35Sをもつバクテリオファージを大腸菌に感染させた。そして上と同様の手順で実験した結果、「大腸菌の外」の、ウイルスの殻があるであろう場所(試験管の上澄み)から放射性の35Sが検出された。よってファージのタンパク質は大腸菌の中に入っていないことが分かった。
→子ファージは大腸菌の中に作られる(ファージの遺伝情報をもとに作られる)のだから、DNAこそ遺伝子の本体であったことになる。
*ハーシーとチェイスは家庭用のミキサーを使って大腸菌とファージのタンパク質の殻を剥がした。なのでこの実験はブレンダー(ミキサーのこと)実験と呼ばれる。
*ハーシーとチェイスはノーベル賞を受賞した。
●1953年、ワトソンとクリックはDNAの二重らせん構造を発見した。
#生物
#遺伝子
#DNA
0:00 DNAとタンパク質
0:51 グリフィスの実験
5:24 エイブリー(アベリー)の実験
8:41 ハーシーとチェイスの実験
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