【 note : https://note.com/yaguchihappy 】
HIV(ヒト免疫不全ウイルス)について講義します。
例題:HIV(ヒト免疫不全ウイルス)のようなウイルスはレトロウイルスと呼ばれる。レトロウイルスは一般にDNAではなく(①)をゲノムとしてもつ。また、(②)酵素をもち、それにより、感染した細胞内で、(①)を鋳型としてDNAを合成する。この現象は(②)と呼ばれる。空欄を埋めよ。
答え:①RNA②逆転写
● HIV(ヒト免疫不全ウイルス)はヘルパーT細胞に感染してこれを破壊するため、細胞性免疫や体液性免疫のはたらきが低下し、通常感染しないような弱い病原体にも感染してしまう(日和見感染という)。このような疾患をエイズ(AIDS[後天性免疫不全症候群:こうてんせいめんえきふぜんしょうこうぐん])という。
● HIVとエイズを混同しないように。
ウイルス名:HIV(Vはウイルスの頭文字)…正式名称はヒト免疫不全ウイルス
疾患名:エイズ(AIDS)…正式名称は後天性免疫不全症候群
*後天性免疫不全症候群は単語を分けて考えると覚えやすい。
「後天性(後から備わってしまった)」「免疫不全(免疫のしくみがうまく働かなくなる)」症候群
● 実際は、HIVはヘルパーT細胞だけでなく、樹状細胞あるいはマクロファージにも感染する(HIVは、CD4というヘルパーT細胞がもつ細胞表面分子に高い親和性をもって結合する。このCD4は、樹状細胞やマクロファージでも若干発現している。したがって、HIVは樹状細胞やマクロファージにも結合する。ただし、高校生は、テストで「HIVが感染する細胞は?」と聞かれたら教科書にあわせて「ヘルパーT細胞」と答えよう。
● HIVは、感染の過程で、ゲノムとしてもっているRNAを、逆転写酵素により感染細胞で二本鎖DNAに転換し宿主細胞のDNAに組み込む。このように、RNAゲノムをDNAに逆転写(reverse transcription)して宿主細胞のDNAに挿入することにより複製するウイルスをレトロウイルスと呼ぶ(「レトロ」には「逆行」と言う意味がある)。
● カプシド:ウイルスのゲノム核酸などを包むタンパク質の外殻。
● エンベロープ:ウイルス膜。カプシドをとりまく脂質二重層を基本とする膜構造。
*エンベロープの脂質膜は宿主由来である
● HIVが増殖するしくみは以下の通り。
①ウイルスが宿主細胞(ヘルパーT細胞)の細胞膜と融合する。ウイルスのRNAとタンパク質が放出される。
②逆転写酵素(RNA依存性DNA合成酵素)によりRNAがDNAに変換される(逆転写酵素に触媒され、まずRNAと相補的な1本鎖DNAが合成される。さらに逆転写酵素に触媒され、2本鎖DNAが生じる)。
*逆転写の過程では、読み違え(変異)が起きやすい。これがHIVに有効なワクチンが作りにくい原因の一つになっている。
③ウイルスが持ち込んだインテグラーゼという酵素(スライドには描いていない)によって、ウイルスの2本鎖DNAが宿主のDNAに組込まれる。
④転写(宿主のRNAポリメラーゼによる)によって、ウイルスのタンパク質をコードするmRNAや、ウイルスのゲノムとなるRNAが生成する。
⑤ウイルスゲノムやタンパク質を取り囲むカプシドが組み立てられる(スライドには描いていないが、エンベロープの糖タンパク質は小胞体で合成された後、細胞膜に輸送される)。
⑥新たなウイルスが宿主細胞から出芽する。
*なお、現在治療薬として用いられている抗ウイルス剤には、逆転写酵素を阻害するものなどがある。
#生物基礎
#免疫
#高校生物