【 note : https://note.com/yaguchihappy 】
遺伝子組換えについて講義します。遺伝子組換え技術の発明は、生命科学・医学に起きた革命です。
覚え方「ウイルスのDNAを切断してその増殖を制限するから制限酵素。DNAリガーゼのリガーゼは、ligate連結するという意味)」
●遺伝子を運ぶもの(遺伝子部分のDNAを入れておくもの)をベクターという。ベクターにはプラスミドという細菌のもつ小さな環状DNAが使われることが多い(他にも、ウイルスがベクターとして使用されることも多い)。
*「ベクター」という語はもともと「運ぶもの」を意味する。数学・物理学の「ベクトル」も同じ語源である。
*厳密には、ベクターは「組換えDNA実験において制限酵素などにより切断したDNAの断片をつないで増幅させるために用いる小型の自律的増殖能力をもつDNA分子」のこと。
*細胞内で複製し、安定に娘細胞に分配されること、細胞内から容易に回収できることなどが良いベクターの条件である。
<Q.ベクター=プラスミドと思っていい?…厳密には、あまりよくない。ベクターは「遺伝子の乗り物」みたいなイメージ。ベクターには、プラスミド(原核細胞がもつ環状の小さなDNA)の他にも、ウイルスなどが使える。ベクターが「乗り物」、プラスミドが「自転車」みたいなイメージ。プラスミドの他にも、いろいろなベクターがある。>
●以下のような手順で大腸菌に生物Aの遺伝子Aを導入し、生物Aのタンパク質Aを大腸菌につくらせることができる。
①生物Aの遺伝子Aを制限酵素で切り出す(DNA断片を得る)。
②遺伝子の運び屋(ベクター)として使うプラスミド(原核生物がもつ小さな環状DNA)を①と同じ制限酵素で切る。
③①で得たDNA断片と②のプラスミドを、DNAリガーゼでつなぐ。
⓸③のプラスミドを大腸菌に導入する。大腸菌は、我々が導入した遺伝子Aを発現し、タンパク質Aを合成する。また、大腸菌は、我々が導入したプラスミドごと分裂してくれるので、簡単に遺伝子を増幅できる。
●外来遺伝子が導入された生物をトランスジェニック生物という(少し狭い定義だがトランスジェニック生物を「単離した遺伝子を胚的な細胞に注入したとき、その遺伝子を新たに染色体に組み込んだ生物個体のこと」と定義することも多い)。
●遺伝子(DNA断片)をプラスミドに組み込む際は、方向性にも注意する。1種類の制限酵素で組み込みたいDNA断片とプラスミドを切った場合、(切り口が同じなので)DNA断片が逆向きに組み込まれてしまう可能性がある。面倒だが、2種類の制限酵素を使って、DNA断片の両端の塩基配列を変えれば、このような失敗はなくなる。
noteに簡単な図がある。
https://note.com/yaguchihappy/n/nb64798ff8688
<Q.どうして大腸菌にヒトのDNAを組込むの?意味はあるの?…たとえば、ヒト成長ホルモン遺伝子を導入したプラスミドを大腸菌の中に入れて大腸菌を増殖させると、大腸菌は自分の持つ染色体DNAのほかに、あなたが導入したプラスミドも複製してくれるので便利である。このように、『DNA断片を増幅させる操作』をクローニングという。大腸菌にヒトの遺伝子を導入し、ヒトのタンパク質を転写・翻訳によってつくらせることも可能である(その際は、大腸菌などの細菌にスプライシングのしくみが無いことに注意。スプライシングが起こってはじめて正常なタンパク質の情報を持つような場合は、あらかじめスプライシングが起きた後の成熟mRNAを逆転写してcDNAとし、それをプラスミドに組み込む必要がある)。>
cDNAについての講義
• cDNA(相補的DNA) 高校生物発展
●制限酵素は、もともと細菌が持っていた酵素で、ウイルスなどの外来DNAを切断し、ウイルスの侵入と活動を「制限」するためのものである。細菌自身のDNAも切断してしまうのでは?と思うかもしれないが、細菌は自身のDNAの制限酵素が認識する配列をメチル化(塩基がメチル化されている。メチル化されたDNA領域は、様々なタンパク質との親和性が下がり、遺伝子発現が調節されていると考えられている。また、制限酵素による切断が阻害されることも知られている)し、制限酵素が働けないようにしている。
なお、制限酵素の認識配列は回文配列であることが多い。回文配列は、ひっくり返しても同じ配列になっているので、DNA上の出現頻度が下がる。制限酵素で自分のDNAを間違えて切ってしまわないようにするためかもしれないが、その原因はよくわかっていない。
<Q.回文配列って何?…たとえば、2本鎖の一方の鎖が3’AAAA5’という配列だったとすると、もう一方の鎖の配列は5’TTTT3’である。しかし、回文配列の場合、3’GAATTC5’という配列の、もう一方の鎖の配列を見てみると、5’CTTAAG3’となっている。3’側から読むと、全く同じ配列になっている。これを回文(前から読んでも後ろから読んでも同じ文)であるという。「たけやぶやけた」や、「しんぶんし」を回文という。>
制限酵素認識配列の出現頻度に関する問題
• 塩基配列の出現確率・制限酵素の認識配列 高校生物発展
問題:遺伝子組換え技術においても使用される、DNAをつなぐ「のり」の役割をする酵素は何か。
答え:DNAリガーゼ
問題:細菌から精製される、特定の塩基配列でDNAを切断する酵素を何というか。
答え:制限酵素
●遺伝子の組換えのことを「組換え」と書き、タンパク質の組み換えのことをあえて送り仮名を変えて「組み換え」と書くことがある(ただし「組み換え」は使わないことが多い)。このマイナーなルールを高校生に得意気に語る講師もいるが、たとえば、岩波生物学辞典に「組み換え」の語はない。まあ高校生は「組み換え」などと書く必要はない。すべて「組換え」と書けばよい(逆に、問題文や教科書に使われている「組換え」以外の送り仮名を使うと、×にされる可能性がある)。
#バイオテクノロジー
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