【 note : https://note.com/yaguchihappy 】
遺伝子組換え(組換えDNA実験)における、DNAの組み込まれる向きについて講義します。最近増えてきたテーマで、難問になりやすいです。
*塩基配列の出現確率・制限酵素の認識配列についての講義はこちら↓
• 塩基配列の出現確率・制限酵素の認識配列 高校生物発展
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• 遺伝子組換え(制限酵素・DNAリガーゼ) 高校生物
*動画では、たとえば、プラスミド側にプロモーター(転写を開始させる場所。遺伝子を文章にたとえるならプロモーターは「ここから読み始めなさい」という目印)がある場合について解説している(すなわち、今回使用するプラスミドは、DNA断片の挿入部位に隣接してプロモーターを持っているものとする。覚えなくてよいが、このようなベクターは発現ベクターと呼ばれる)。
この場合、プロモーターの位置が決まっているので、組み込んだDNAがどちら側から転写されるかで、できる産物が変わってきてしまう(組み込むDNAの向きが重要になる)。
なお、動画では遺伝子が逆向きに組み込まれ、読まれることを、小説を逆から読むことにたとえているが、二本鎖のDNAが逆向きに繋がった場合、本来読まれるはずのなかった鎖(センス鎖、非鋳型鎖)が鋳型鎖(アンチセンス鎖)となって、読まれる(転写される)ことになる(2本の鎖を、上の鎖と下の鎖と表現すれば、DNAが逆向きに繋がる際、下の鎖が上に来て、上の鎖が下に来ることになる)。つまり、遺伝子が逆向きに組み込まれたとすると(そしてプラスミドにプロモーターがあるとすると)非鋳型鎖が鋳型鎖になってしまうのである。
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• 転写と翻訳の方向性【セントラルドグマ】 高校生物
問題:ある生物Xの遺伝子Xを大腸菌に組み込む遺伝子組換え実験を行った。
生物XのDNAから、遺伝子Xの配列を1種類の制限酵素で切り出し、同じ制限酵素でベクターとして使うプラスミドも切断した。
その後DNAリガーゼを用いてプラスミドに遺伝子Xを繋いだ。
しかし、別の実験でできた産物の塩基配列を調べてみたところ、プラスミドに遺伝子Xが逆向きに組み込まれてしまっていた。
どのような工夫をすれば、プラスミドに逆向きにDNA断片が組み込まれてしまうことを防げるか。
答え:2種類の制限酵素を使い、DNAの両端に異なる塩基配列が突出するようにする。
解説:遺伝子には決まった方向性がある(「開始コドンのある方ー終止コドンのある方」という方向性がある)。遺伝子(DNA断片)をプラスミドに組み込む際は、方向性にも注意する。
1種類の制限酵素で組み込みたいDNA断片とプラスミドを切った場合、(DNA断片の両末端の切り口[突出した部分の塩基配列]、そしてプラスミドを切ったところの切り口が同じなので)DNA断片が逆向きに組み込まれてしまう可能性がある。面倒だが、2種類の制限酵素を使って、DNA断片の両端の塩基配列を変えれば(そしてプラスミドもその2種類の制限酵素で処理し、切り口をDNA断片が特定の向きに入るようにすれば)、このような失敗はなくなる。
● 切り口が突出しない末端(覚えなくてよいが、平滑末端という)になる制限酵素もある(たとえばEcoRⅤ[えこあーるふぁいぶ]という制限酵素)。平滑末端の場合は、どのような平滑末端とも繋がる(そのため、意図しない平滑末端と繋がってしまうことも多い。また、一般に、平滑末端同士は、突出した末端[粘着末端、突出末端と呼ばれる]に比べて、結合する効率が悪い)。
● 遺伝子組換えの際、DNAの切り出しに1種類の酵素しか使わない場合、ベクターに組み込もうとするDNA断片(今回で言うと赤いDNA。大学ではインサートと呼ぶ)同士が結合してしまうこともある。
*最後の余談で、制限酵素の認識配列を比較しているが、ふつう塩基配列が同じかどうか確認する時は、3'-5'の方向に気を付けて、塩基配列をひっくり返してみることが大切である。ただ、今回のように制限酵素の認識配列を確認する場合は、ほとんどの場合回文配列になっているから(制限酵素の認識配列は、ひっくり返しても同じ配列になっているから)、簡単に確認できる(いちいちひっくり返す必要はない)。
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