【 note : https://note.com/yaguchihappy 】
体細胞分裂のグラフについてわかりやすく講義します。縦軸・横軸に気を付ければ楽勝です。
語呂「エムの気分。エスは豪勢(M期が分裂期、S期がDNA合成期)」
問題:G1期のDNA量を1とする。①G2期、②M期のDNA量はいくらか。
答え:①、②とも2
問題:観察されたすべての細胞が200個だった。そのうちM期の細胞は10個だった。また、細胞周期1周の長さが20時間だった(細胞集団の数が倍加する時間が20時間だった)。M期の時期の長さは?
答え:1時間
*このような問題では、細胞集団は同調分裂していないと考える(それぞれの細胞はランダムな時期にあると考える)。また、細胞周期全体の時間に占めるその時期の長さの割合と、観察された全細胞数に占めるその時期の細胞の数の割合が等しいとしてよい。
つまり、その時期が長いほど、その時期の細胞がよく観察されるだろうとしてよい。
観察された全細胞数:観察されたM期の細胞数=細胞周期1周の時間:M期の時間
なので、
200個:10個=20時間:?時間
?=1時間(実際、現実でもM期は短く、多くの細胞でだいたい1時間程度である)
●細胞周期には間期と分裂期がある。分裂期は前期・中期・後期・終期に分けられ、間期はG1期、S期、G2期に分けられる。
(1)間期
●間期はDNA合成準備期(G1期)、DNA合成期(S期)、分裂準備期(G2期)に分けられる。
間期:(分裂期の終期から→)G1期→S期→G2期(→分裂期の前期へ)
●G1期にはDNA合成のための準備をしている。
●S期にDNAが複製される。
●G2期には分裂のための準備をしている。
*細胞によっては、G1期から「G0期」という、細胞分裂を休止した状態に移行することもある。ただし、G0期を定義する分子マーカーが確定しておらず、G0期とG1期の一時的な停止を区別することが困難な場合もある。
*Sは「合成期synthetic phase」の頭文字。Gはギャップ(gap)の頭文字。昔はG1、G2期に具体的に何をやっているのかわからず、時間的なギャップがあることだけがわかっていた。今では、G1期にはDNA合成の準備などが、G2期には分裂の準備などが行われていることが明らかになっている。
(2)分裂期
*分裂期は、前期・中期・後期・終期に分けられる。
分裂期:(間期のG2期から→)前期→中期→後期→終期(→間期のG1期へ)
①前期
●核内の染色体は太く凝集する。核膜が消失する。このとき現れる同形同大の染色体は相同染色体と呼ばれる。
*DNAが複製されてできた2つの染色分体(棒状の物質)を姉妹染色分体という。
*姉妹染色分体は、コヒーシンと呼ばれる巨大な輪のようなタンパク質で、勝手に別れないようになっている。後期に、姉妹染色分体同士の接着が突如、一斉に解消されるのは、(セパラーゼという酵素によって)コヒーシンが分解されるからである。
②中期
● 染色体は細胞の赤道面上に並ぶ。「赤道面」と言えば「中期」!
語呂「チューで赤面(中期、赤道面)」
*中期では、染色体が赤道面状に並んでいる(さらに、中期では染色体が最も凝集している)ので、染色体数を調べるのに適した時期である。
*染色体の動原体に紡錘糸(実体は微小管というタンパク質)が結合する。
*一般に、がん細胞では、体細胞分裂の制御が効かなくなっている(制御を受けず、無秩序に分裂を行う)。抗がん剤であるタキソールは、微小管のチューブリンと結合し、その重合を阻害する(紡錘糸の形成を阻害する)ことにより、がん細胞の細胞分裂を抑制する。
③後期
●各染色体は縦裂面(じゅうれつめん)で分離し、両極へ移動する。
*2本の複製されたDNAが分かれ、紡錘糸というタンパク質の糸によって両極へ輸送される。X字のような染色体が裂けてI字に戻る。
*コヒーシンが分解されることで、姉妹染色分体が両極へ移動できるようになる。
*紡錘糸の働きと染色体の移動の仕組みについては、完全には明らかになっていないが、動原体側の微小管の末端が短縮しながら移動する、パックマン機構などが提唱されている(動原体が微小管を食べているように思えるから)。
④終期
●両極に移動した染色体は、形がくずれ、間期のときの状態に戻る。やがて核膜が現れ、2個の核ができる。終期の途中から細胞質分裂がはじまり、細胞質が二分される。動物細胞はくびれて細胞質が二分されるが、植物細胞は細胞板(さいぼうばん)という構造ができて細胞が二分される。
noteに簡単な図がある。
https://note.com/yaguchihappy/n/n191308c58e3d
●大学内容だが、細胞周期は厳密に制御されており、様々なチェックポイントがある。
・DNA複製が完了していなければ、G2期からM期への進入が阻止される。
・M期において、染色体が紡錘体で正しく配置されていなければ、後期への進入が阻止される。
・G1期において、ゲノムが損傷を受けた場合、S期への進入が阻止される。
・S期の途中でゲノムが損傷を受けた場合、DNAの複製が阻止される。
●細胞周期の長さは細胞によって様々である。24時間程度の細胞が多いが、たとえば活発に増殖しているリンパ球は5時間程度でその数を倍加させる。
●体細胞分裂による細胞増殖は、生体内で注意深く制御を受けている。
しかし、何らかの原因でそれらの制御機構が壊れ、無秩序に分裂してしまう細胞が現れることがある。そのような細胞を「がん細胞」と呼ぶ(正確には、生体のもつホメオスタシスに支配されず、自律性をもって増殖する細胞を指してがん細胞と呼ぶことが多い)。つまり、がん細胞は、異常な時期に、異常な場所で増殖を繰り返す細胞である。
一般に、がん細胞は、永遠の増殖能を持ち(テロメラーゼが発現している。がん細胞がどのように高いテロメラーゼ活性を獲得するかについての分子機構はあまりわかっていない)、周囲の細胞による制御を受けない(たとえば接触による増殖抑制の効果を受けない)。正常な細胞は、周囲の細胞から増殖に関するシグナルを受け取り、成長と分裂をすべきかどうかを決定している。
がん細胞が生じる原因には、がん抑制遺伝子の変異などがある。がん抑制遺伝子群がコードするタンパク質は体のあらゆる部位で機能している。がん細胞を破壊する免疫のしくみ(たとえばNK細胞による破壊)があるが、それを逃れようとするがん細胞もある(「逃れようとする」という表現は正確ではない。大学生になったら自身でも勉強してほしい)。
●高校生は、教科書に合わせて、分裂期の終わりに細胞一個あたりのDNA量は半減する、とざっくり知っておけばいい。『厳密にどこまでを終期とみなすか』という議論よりも、『DNAを正確に複製、分配するしくみや、各細胞周期の時期が厳密に制御されているということ』のほうが生物学的に重要である。
*動画では、高校教科書に合わせ、「『The Cell 細胞の分子生物学』ではM期に5つのステップが含まれるとしている」というようなことを言っているが、『The Cell 細胞の分子生物学』では前期と中期の間に前中期を置いているため、正確には6つのステップに分けている。高校では、前中期を前期の中に含める解釈をしているので、正確に言えば「高校教科書風に表現すれば、細胞質分裂を区別するなら、5つのステップに分けられる」ということになる。高校生は気にする必要ありませんが、念のため。
また、『The Cell 細胞の分子生物学』では、「有糸分裂は従来、顕微鏡下で観察される染色体の挙動を基にして前期、前中期、中期、後期、終期の5つの期間に区分されてきた。有糸分裂が完了するとM期の第二の事象である細胞質分裂」が起こるとしている。つまり、M期の中に、明確に、有糸分裂と細胞質分裂を別に入れ込んでいる。これは、基本的にキャンベル生物学と同じ解釈である。
ただし、『キャンベル生物学』では、一部に「細胞質の分裂は、通常終期後半に進行する」としており、これは読み方によっては細胞質分裂を、高校教科書のように、終期の一部とする考え方である。
『ワトソン遺伝子の分子生物学』によれば、やはり、終期の後に細胞質分裂が続くように図が描かれている。しかし、「有糸分裂の最終段階は終期で、分離したひとそろいの染色体の周囲に核膜が再生される。ここで、細胞質分裂とよばれる現象によって2個の細胞になるように細胞質が物理的に区切られ、細胞分裂は完了する」としている。「ここで」とあるので、終期に細胞質分裂が完了するようにも読める。
『岩波生物学辞典』によれば、終期とは「真核生物における細胞周期のM期あるいは有糸分裂を5段階に分けたときの,最後の時期.後期に続き,核分裂が完了して娘核が形成されるまでの期間」である。なので、この記述のみを読めば、終期に細胞質分裂は完了しないことになる。しかし、その後に「終期は,核分裂の最後の時期であるとともに細胞質分裂の時期でもある」ともしている。そして、M期の項には「前期・前中期・中期・後期・終期の5段階に分け,終期には細胞質分裂も起こる.多細胞生物の細胞のM期には,染色体凝縮,核膜崩壊,紡錘体(分裂装置)形成,染色体の分配と細胞質分裂などにみられる顕著な細胞内構造の再編成が起こる」と記載しており、この記載通りに読めば、終期に細胞質分裂を含めることになる。
以上、色々書いたが、つまり、解釈は揺れ得るということである。高校生は全く気にする必要はない。大学入試では教科書の解釈に合わせればよい。
0:00 体細胞分裂に伴うDNA量の変化(基本)
3:09 DNAの変化(詳細)
5:31 細胞質分裂(DNA量が半減する瞬間)
8:26 姉妹染色分体と相同染色体
9:31 細かい話。高校生は無視してよい。
13:28 DNA量と細胞数のグラフ
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