【 note : https://note.com/yaguchihappy 】
酸素解離曲線について講義します。
●呼吸が活発な組織では、酸素解離曲線は右へ(下へ)シフトする。
覚え方「呼吸が活発な組織は、二酸化炭素が多く、温度が高く、乳酸ができるからpHが下がる。そういった場所では酸素がヘモグロビンから酸素が解離しやすくなっている。つまり酸素解離曲線は右へ(下へ)シフトする。」
●胎児のヘモグロビンや、リャマのヘモグロビンの酸素解離曲線は左へシフト(上へ)する。
覚え方「胎児のヘモグロビンは母体のヘモグロビンが酸素を解離する様な環境でも酸素と積極的に結合し、母体から酸素をもらわなければならない。また、リャマのような酸素の少ない高地で生息する動物は、なるべく酸素との親和性を上げなければならない。だから胎児のヘモグロビンやリャマのヘモグロビンの酸素解離曲線は左へシフトする。」
問題:酸素解離曲線が右にシフトする(ヘモグロビンと酸素との親和性が下がる)条件をすべて選べ。
①pHの低下
②温度上昇
③二酸化炭素の上昇
答え:①②③(いずれも、呼吸が活発な組織の条件である。そのような環境で酸素を解離する必要がある)
問題:胎児のヘモグロビンは、母体のヘモグロビンが酸素を解離する環境(具体的には胎盤)で酸素と結合する必要がある。したがって、胎児のヘモグロビンの酸素解離曲線は( ① )にシフトする。また、高山に生息するリャマのヘモグロビンの酸素解離曲線は( ② )にシフトする。これは、高山は酸素濃度が低いため、ヘモグロビンの酸素との親和性を上げる必要があるからであると考えられる。
①、②に入る語を右か左で答えよ。
答え:①左②左
●デンマークの生理学者クリスチャン・ボーア(物理学者ニールス・ボーアの父)はヘモグロビンの酸素解離曲線がS字状になることに気が付いた(その理由を説明する様々な説が出された)。その後、ヘモグロビンのサブユニットが協同的に相互作用し、最初のHbO2の生成がさらなるHbと酸素との結合を容易にすることが分かった。
●昆虫は、開放血管系(かいほうけっかんけい)、つまり毛細血管のない、(まるで口が開いたホースのように)血管の口が開いた血管系(血が流れる仕組み)をもつので、体が小さくならざるを得ない。巨大化した体では、十分に末端の細胞まで酸素がいきわたらないからである。人がこれほど大きな体を持つのは、閉鎖血管系(へいさけっかんけい)をもち、血管によって体の末端まで酸素を効率よくヘモグロビンに運ばせるからである。([高速道路で都心と遠くの街を繋ぐように)。しかし、当然、血管をつくるには手間と労力がかかる。開放血管系、閉鎖血管系、どちらがはっきり有利と言うわけではなく、どちらもそれぞれの戦略をもっている。
●難しい問題を解くために、100個中何個が酸素を持っているか、ととらえて説明したが、もちろん、厳密には、動画で説明したように、ヘモグロビンは最大4分子の酸素と結合することができるので、もし、ヘモグロビンに2分子の酸素が結合した場合、50%が酸素で飽和しているとすることが多い。(実際は、酸素飽和度が50%でも、動画で見たような、100個中50個が酸素とフルに結合していて、残り50個が酸素を1分子ももっていないなどということは考えにくい。それぞれのヘモグロビンの酸素ポケットが、半分埋まっていると考えるべきである。もちろん、各ヘモグロビンごとに差があるので、平均を考えている。実験的には、吸光度を用いて測定することが多い)
●酸素はわずかな量しか水に溶けないので、高等生物では、その輸送にヘモグロビンを必要とする。
ヘモグロビンは赤血球に高濃度に存在する四量体タンパクであり、
酸素を肺の毛細血管で結合し、末梢組織へ届ける。
四次構造を持つヘモグロビンは、正の共同性をもって酸素と結合し、酸素解離曲線はS字(シグモイド形)になる。
ヘモグロビンの酸素解離曲線がS字形になることで、(直線形と比べて)、より多くの酸素を、呼吸の活発な組織に運搬することができるようになる。
肺という、酸素たっぷり、二酸化炭素少ない環境で、ガンガン酸素と結合しやすくなり(酸素との親和性が高まり)、
組織という、酸素が少なく、二酸化炭素が多い環境で、酸素をガンガン手放しやすくなる(酸素との親和性が低くなる)。
●ヘム間相互作用(はじめの酸素との結合が、後に続く酸素との結合を増強する作用)について、ヘモグロビンをポケットにたとえて説明したが、実際には、いくつかのモデルが提唱されており、完全には解明されていない(酸素が1~3個結合した中間体のみを単離することは困難であるため、研究しにくい。ただ、一般には、ヘモグロビンは、酸素と結合すればするほど、酸素との親和性を上昇させていくと考えられている)。
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