土星のリングを地震計として使った惑星内部構造探査(クロノサイズモロジー、土震学)【論文紹介】
3分25秒
説明
土星のリングを地震計として使うことで、惑星の内部構造を探査するという驚くべき研究が近年進められています。これによって、従来の手法では知ることができなかった巨大惑星の深い領域の構造が明らかにされつつあります。
(目次)
0:00 イントロ
0:13 地震波による内部構造探査
0:38 長年の仮説
1:09 カッシーニ探査機による観測
1:33 土震学の幕明け
2:06 今後の発展
3:14 あとがき
(参考文献)
Mankovich, C. (2020). Saturn’s rings as a seismograph to probe Saturn’s internal structures. AGU Advances, 1, e2019AV000142.
https://doi.org/10.1029/2019AV000142
Stevenson, D. J. (1982a). Are Saturn's rings a seismograph for planetary inertial oscillations? EOS Transactions of the American Geophysical Union, 63, 1020.
https://doi.org/10.1029/EO063i045p00889
Hedman, M. M., & Nicholson, P. D. (2013). Kronoseismology: Using density waves in Saturn's C ring to probe the planet's interior.
Astronomical Journal, 146(1), 12.
https://doi.org/10.1088/0004-6256/146/1/12
Fuller, J. (2014). Saturn ring seismology: Evidence for stable stratification in the deep interior of Saturn. Icarus, 242, 283–296.
https://doi.org/10.1016/j.icarus.2014.08.006
【映像素材】
NASA/GSFC/JPL, IRIS, SpaceEngine
【字幕全文】
巨大なリングを持つガス惑星、土星。
そのリングを地震計として使うことで、
土星の内部構造を調べようという驚くべき研究が近年進められています。
そもそも惑星や天体の内部構造を探査する上で、
地震波の利用は欠かせません。
地球の場合、巨大地震が起こると全球規模で惑星が振動するので、
地震波の伝搬過程を逆解析することで、
内部構造が推定されてきました。
また同様に、太陽表面の振動を観測する日震学や、
恒星の振動を観測する星震学によって、
天体の内部構造が詳しく調べられてきました。
土星のリングを地震計として使えないかというアイディアは、
今からおよそ40年近く前の、1982年に初めて提案されました。
土星内部の振動が重力の揺らぎとして外側に伝搬していき、
リングを構成する氷粒子の軌道に影響を与えることが、
理論的に予測されたのです。
このアイディアが提唱された背景には、1980年と81年に、
NASAの探査機 ボイジャー1号と2号が土星をフライバイし、
リングを初めて詳細に観測したことがきっかけとなっています。
このアイディアは長らく理論的な仮説にすぎませんでしたが、
2004年から観測が始まった土星探査機 カッシーニの登場によって、
初めてリングの高精度な観測が行われたことで、転機を迎えます。
カッシーニ探査機によって、背景の明るい恒星の前を、
リングが通過する際のタイミングの揺らぎを撮像することで、
リングの微小な振動を計測することに成功したのです。
これらの観測の結果は2013年から論文として報告され始め、
従来の手法より深い場所の内部構造について、
驚くべき発見がありました。
まずこれまでの予想では、
土星の深い場所では激しい対流が起きていると考えられてきましたが、
実際にはそのような対流は起こっておらず、
内部は安定した成層構造になっていることが示唆されたのです。
また、二つ目は土星の自転速度が、
従来の見積もりよりもわずかに速いことがわかっただけでなく、
深さに応じて自転速度が異なることも示唆されたのです。
土星のリングを地震計として使うという研究はまだ発展途上ですが、
今後の惑星科学に大きな影響を及ぼす可能性を秘めています。
これまで巨大惑星の内部構造を調べるため、
惑星が探査機に与える重力摂動を計測する手法が、
一般的に使われてきました。
しかしこの手法では表面に近い、
地下の浅い部分の構造しか計測できませんでした。
これに対してリングを地震計として使う手法では、
惑星の深いところの振動を検出できるため、
従来の手法と相補的に使うことで、
深いところから浅いところまで、
惑星全体の内部構造を明らかにできる可能性があります。
さらに重要なことは、土星のリングで実証できたということは、
リングを持つ 他の惑星にも応用可能である点です。
土星ほど立派ではありませんが、
木星、天王星、海王星はいずれも薄いリングを持ちます。
こういった天体にも「リング地震計」を応用できるかもしれません。
クロノサイズモロジー、日本語で土震学とも訳される、
この新しい探査手法は、巨大惑星の成り立ちだけでなく、
原始太陽系の起源を解明する上で、
今後重要な手法となっていくでしょう。
それでは今回もご視聴頂き、ありがとうございました。
厳しい暑さが続きますが、皆さん 体調に気を付けてお過ごしください。
それではまた。
#惑星科学チャンネル #PlanetaryScienceChannel #行星科学频道
(目次)
0:00 イントロ
0:13 地震波による内部構造探査
0:38 長年の仮説
1:09 カッシーニ探査機による観測
1:33 土震学の幕明け
2:06 今後の発展
3:14 あとがき
(参考文献)
Mankovich, C. (2020). Saturn’s rings as a seismograph to probe Saturn’s internal structures. AGU Advances, 1, e2019AV000142.
https://doi.org/10.1029/2019AV000142
Stevenson, D. J. (1982a). Are Saturn's rings a seismograph for planetary inertial oscillations? EOS Transactions of the American Geophysical Union, 63, 1020.
https://doi.org/10.1029/EO063i045p00889
Hedman, M. M., & Nicholson, P. D. (2013). Kronoseismology: Using density waves in Saturn's C ring to probe the planet's interior.
Astronomical Journal, 146(1), 12.
https://doi.org/10.1088/0004-6256/146/1/12
Fuller, J. (2014). Saturn ring seismology: Evidence for stable stratification in the deep interior of Saturn. Icarus, 242, 283–296.
https://doi.org/10.1016/j.icarus.2014.08.006
【映像素材】
NASA/GSFC/JPL, IRIS, SpaceEngine
【字幕全文】
巨大なリングを持つガス惑星、土星。
そのリングを地震計として使うことで、
土星の内部構造を調べようという驚くべき研究が近年進められています。
そもそも惑星や天体の内部構造を探査する上で、
地震波の利用は欠かせません。
地球の場合、巨大地震が起こると全球規模で惑星が振動するので、
地震波の伝搬過程を逆解析することで、
内部構造が推定されてきました。
また同様に、太陽表面の振動を観測する日震学や、
恒星の振動を観測する星震学によって、
天体の内部構造が詳しく調べられてきました。
土星のリングを地震計として使えないかというアイディアは、
今からおよそ40年近く前の、1982年に初めて提案されました。
土星内部の振動が重力の揺らぎとして外側に伝搬していき、
リングを構成する氷粒子の軌道に影響を与えることが、
理論的に予測されたのです。
このアイディアが提唱された背景には、1980年と81年に、
NASAの探査機 ボイジャー1号と2号が土星をフライバイし、
リングを初めて詳細に観測したことがきっかけとなっています。
このアイディアは長らく理論的な仮説にすぎませんでしたが、
2004年から観測が始まった土星探査機 カッシーニの登場によって、
初めてリングの高精度な観測が行われたことで、転機を迎えます。
カッシーニ探査機によって、背景の明るい恒星の前を、
リングが通過する際のタイミングの揺らぎを撮像することで、
リングの微小な振動を計測することに成功したのです。
これらの観測の結果は2013年から論文として報告され始め、
従来の手法より深い場所の内部構造について、
驚くべき発見がありました。
まずこれまでの予想では、
土星の深い場所では激しい対流が起きていると考えられてきましたが、
実際にはそのような対流は起こっておらず、
内部は安定した成層構造になっていることが示唆されたのです。
また、二つ目は土星の自転速度が、
従来の見積もりよりもわずかに速いことがわかっただけでなく、
深さに応じて自転速度が異なることも示唆されたのです。
土星のリングを地震計として使うという研究はまだ発展途上ですが、
今後の惑星科学に大きな影響を及ぼす可能性を秘めています。
これまで巨大惑星の内部構造を調べるため、
惑星が探査機に与える重力摂動を計測する手法が、
一般的に使われてきました。
しかしこの手法では表面に近い、
地下の浅い部分の構造しか計測できませんでした。
これに対してリングを地震計として使う手法では、
惑星の深いところの振動を検出できるため、
従来の手法と相補的に使うことで、
深いところから浅いところまで、
惑星全体の内部構造を明らかにできる可能性があります。
さらに重要なことは、土星のリングで実証できたということは、
リングを持つ 他の惑星にも応用可能である点です。
土星ほど立派ではありませんが、
木星、天王星、海王星はいずれも薄いリングを持ちます。
こういった天体にも「リング地震計」を応用できるかもしれません。
クロノサイズモロジー、日本語で土震学とも訳される、
この新しい探査手法は、巨大惑星の成り立ちだけでなく、
原始太陽系の起源を解明する上で、
今後重要な手法となっていくでしょう。
それでは今回もご視聴頂き、ありがとうございました。
厳しい暑さが続きますが、皆さん 体調に気を付けてお過ごしください。
それではまた。
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