近年、あらゆる場面で人工知能や機械学習の活用が叫ばれていますが、天文学や地球惑星科学にもその余波が及んでいます。今回の動画では、第2の地球を発見する上で鍵となる、系外惑星の大気組成推定に、人工知能や機械学習がどのように応用されているのか、研究の最前線をお伝えします。
【目次】
0:00 「人工知能」バブル
0:31 なぜ大気組成を推定するのか?
2:02 従来のリトリーバル解析
2:36 機械学習による大気組成推定
3:17 人工知能は万能ではない
4:08 天文学者と人工知能が共存する未来
【参考文献】
Matthew C Nixon, Nikku Madhusudhan, Assessment of supervised machine learning for atmospheric retrieval of exoplanets, Monthly Notices of the Royal Astronomical Society, Volume 496, Issue 1, July 2020, Pages 269–281,
https://doi.org/10.1093/mnras/staa1150
Márquez-Neila, P., Fisher, C., Sznitman, R. et al. Supervised machine learning for analysing spectra of exoplanetary atmospheres. Nat Astron 2, 719–724 (2018).
https://doi.org/10.1038/s41550-018-0504-2
Madhusudhan N. (2018) Atmospheric Retrieval of Exoplanets. In: Deeg H., Belmonte J. (eds) Handbook of Exoplanets. Springer, Cham
https://link.springer.com/referenceworkentry/10.1007%2F978-3-319-30648-3_104-1
Cartier, K. M. S. (2020), Machine learning can help decode alien skies—up to a point, Eos, 101.
https://doi.org/10.1029/2020EO146240.
【映像素材】
NASA/GSFC/Ames Research Center, 国立天文台, Pixabay, SpaceEngine
【字幕全文】
近年、人工知能や機械学習の応用が様々な分野で進んでおり、
天文学や惑星科学においても、
人工知能をデータ解析に使おうという機運が出てきています。
既に10年ほど前から、銀河の分類や、超新星の特徴量抽出、
系外惑星の発見などに、機械学習が使われてきました。
そして今注目されているのが、観測された系外惑星のスペクトルから、
大気組成を機械学習によって推定する試みです。
なぜ、このような取り組みが注目されているのでしょうか。
この宇宙で「第2の地球」、
地球に似た生命の住める惑星を発見することは、
惑星科学の究極的な目標の一つです。
これまで発見されてきた「地球に似た系外惑星」というのは、
質量や中心星から受ける日射が地球と似ているというだけで、
実際に地球と似た表層環境を持つかどうかはわかっていません。
なぜかというと、大気組成がわからないからです。
地球と金星や火星の例を見れば明らかなように、
惑星の表面温度や表層環境は、大気組成の影響を強く受けます。
そのため、系外惑星の大気組成を測ることが、
第2の地球を確実に検出したと言えるための、最後の1ピースとなるのです。
しかし地球ほど小さい系外惑星の大気を検出することは現状不可能です。
世界で最も高性能な地上望遠鏡や、ハッブル宇宙望遠鏡、
さらには現在開発中のジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡や、
TMT(30メートル望遠鏡)ですら、
第2の地球の大気組成を検出することは難しいと言われています。
一方で、大気が分厚いガス惑星や、スーパーアースの大気に関しては、
既存の大型望遠鏡でも測定することができます。
今後ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が稼働すれば、
さらに大量の観測データが手に入るでしょう。
そうなると一つ一つのデータを、
人間の手で処理することが難しくなってきます。
そのため、今のうちから膨大なビッグデータを自動的に処理して、
欲しい情報を確実に抽出できるようなアルゴリズムの開発が、
喫緊の課題となっているのです。
従来の伝統的な大気組成推定では、
「リトリーバル」と呼ばれる手法が一般的でした。
この手法では、大気組成や温度などのパラメータを様々に振って、
観測されうるスペクトルを予想します。
そして実際に観測されたスペクトルと比較して、
最もマッチングするものを探しだすことで、
組成を推定するというやり方です。
この方法は信頼性が高く、広く使われていますが、
計算時間が非常にかかることが問題となっていました。
一つのスペクトルから組成を推定するのに数時間かかることもあるため、
大量のデータを処理するには限界があります。
これに対して、機械学習によって推定精度を維持しつつ、
計算時間を劇的に短縮する手法が報告され始めています。
2018年に 教師あり機械学習の一種であるランダム・フォレストを用いて、
ホットジュピターの大気組成を推定した論文が、
ネイチャー・アストロノミーで報告されました。
さらに、教師なし機会学習を用いた手法や、
ディープラーニングを用いた手法、
ニューラルネットワークを用いた手法などが続々と提案されています。
こういった新しい推定手法は、
計算時間が数分から数秒程度と、従来のリトリーバル解析と比べて、
劇的に計算速度が速くなった上に、
リトリーバルの結果を精度良く再現できることが示されたのです。
ではいずれ機械学習が従来の解析手法に取って代わるのでしょうか。
必ずしもそうなるとは言い切れません。
先ほど機械学習は計算速度が速いと言いましたが、
これは学習が完了した後の話です。
最初にアルゴリズムに学習させる時点では、
やはり大量の計算をさせる必要があり、
数日間の計算時間がかかったりします。
また今年の7月1日に発表された論文では、
推定するパラメーターの数が増えるにつれて、
計算コストが爆発的に増大し、
機械学習の利点が失われることが報告されています。
これまで主に解析されてきたのは、ホットジュピターのような、
水素とヘリウムが主体の単純な大気でした。
しかし、より地球に似た、大気が薄く、温度が冷たい惑星になってくると、
スペクトルに含まれる吸収が小さくなるため、
機械学習でも特徴量を抽出するのが難しいのです。
ただし、今後の系外惑星科学が、
ビッグデータの時代に移行するのは間違いありません。
従来の手法と、機械学習をバランスよく取り入れることが、
将来的には標準となっていくと考えられます。
人工知能と天文学者が共存した世界で、
第2の地球が発見される日が、いずれ訪れるでしょう。
それでは今回もご視聴ありがとうございました。
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