連星をまわる惑星は周連星惑星と呼ばれ、銀河系には多数存在すると見られています。こういった連星系に地球型惑星が存在した場合に、その惑星がどのような気候を持つのか、JGR Planetsで発表された最新の論文をもとに解説します。
(目次)
0:00 周連星惑星
0:50 日射の大きな変動
1:43 研究手法
2:45 最も極端な場合
3:56 周連星惑星の気温変化
4:58 海洋の熱慣性
(参考文献)
Wolf, E. T., Haqq‐Misra, J., Kopparapu, R., Fauchez, T. J., Welsh, W. F., Kane, S. R., et al. (2020). The resilience of habitable climates around circumbinary stars. Journal of Geophysical Research: Planets, 125, e2020JE006576.
https://doi.org/10.1029/2020JE006576
(映像素材)
SpaceEngine, Pixabay, 20th Century Fox, Electronic Arts
(字幕全文)
2つの中心星を持つ惑星は、スターウォーズに登場するタトゥイーンなど、SFではお馴染みの存在となっています。
こういった惑星は周連星惑星と呼ばれ、実は宇宙には多数存在すると考えられています。
実際、太陽型の恒星の半分以上は連星系であることが星の統計から示されており、近年では系外惑星のトランジット観測でも周連星惑星の発見が相次いでいます。
これまでに発見された周連星惑星はガス惑星ばかりですが、いずれ地球のような固体惑星が発見されるのも時間の問題でしょう。
こういった連星系に地球型惑星が存在した場合に、その惑星がどのような気候を持つのか、2020年9月25日にJGR Planetsの系外惑星特集号で発表された論文をもとにご紹介します。
周連星惑星の最大の特徴は、中心星からの日射が年間を通じて大きく変動することです。
極端な場合、日射の変動量は約100日周期で50%も変わると予想されます。
地球の場合、年間を通じて日射の変動は数%程度ですので、これと比較すると周連星惑星の日射量変動がいかに大きいか実感できるでしょう。
これまでの研究では、鉛直1次元の放射伝達モデルや、海王星型の大気や、液体の水で全球が覆われた海惑星を仮定したGCMによって、周連星惑星の気候が検討されてきました。
本論文ではこれまでよりも幅広いパラメーター空間で、地球型の周連星惑星の気候をGCMによって調べています。
地球型といっても、地球のGCMをそのまま使っているので、実質的には地球に太陽が二つあったら、という話だと思っていただいて構いません。
連星のうち、主星は太陽とほぼ同じようなG型星に設定し、伴星のほうには、太陽質量のG型星から、より小さいM型星までを仮定した、様々な組み合わせを考えます。
こういった条件で、まずは惑星が安定に存在できる軌道条件を解析的に求めていきます。
こちらの図は検討した組み合わせの中で、惑星が受ける日射量を示しています。
横軸は伴星の質量、縦軸は伴星の軌道長半径を示しています。
白い領域は、力学的に惑星が安定に存在できない領域です。
4パターンあるのは、連星系の離心率を変えた場合です。
色の強さは、周連星惑星が受け取る時間平均の日射量に対して、最大日射量がどれだけ変動するのか、パーセントで表示しています。
赤い領域ほど、日射の変動が大きいことを示しています。
この図から日射の変動は最大で50%に達することがわかります。
本論文ではこれらのパラメーター空間の中から、12のケースを抽出して、惑星の気候をGCMによって計算していきます。
こちらの図は、12通りの惑星が受け取る日射の時間変化を示しています。
横軸が時間、縦軸は日射量です。
オレンジの線は1時間ごとの日射量、黒い線は30日間の移動平均です。
このうちケース1は、中心星が一つだけの場合で、ほぼ現在の地球に相当する計算です。
こちらのケース1は比較用の基準だと考えてください。
オレンジの線がところどころ下に伸びていますが、
これは連星系で片方の星が、もう片方の星を隠す食が起きて、
日射が減少している状況です。
例えばケース4では、非常に短い周期で食が次々と起こっている状況です。
それぞれの場合のパラメーターは論文のテーブル2に示されていますので、
興味がある方はご確認ください(本論文は無料で全文公開されています)。
このうち最も日射の変動が大きいのがケース7で、変動率は51%です。
ケース7は、主星がG型星で伴星がM型星、お互いに0.4AU離れた軌道を74日の周期で公転しています。
これは太陽系で言うと、概ね太陽と水星の関係ぐらいだと思ってください。
さて、こういった12のケースに対してGCMを走らせてみましょう。
計算の結果、求められた惑星の気温がこちらの図で示されています。
今度は縦軸が温度です。
赤い線がその惑星で最も温度が高い地点の気温、緑が陸地の平均気温で、それぞれ1時間おきに示したものです。
潰れていて見えないですが、青い線は海洋の平均気温です。
それぞれの黒い線は30日間の移動平均を示しています。
ケース1の地球の場合に対して、他のケースでは気温の変化はどうなっているでしょうか。
例えば、日射の変動が最大だったケース7では、局所的な最高気温と、陸地の平均気温は確かにやや変動が大きくなりますが、
地球の場合に対してそこまで大きくなっているわけではないことがわかります。
また、海洋の平均気温を見ると、驚くほど変化していないこともわかります。
これは他のケースの惑星に対しても同様のことが言えます。
つまり、例え地球に太陽が2つあるような極端な場合を仮定したとしても、地球の気温変動はほとんどないことがわかりました。
これが本論文の重要な結論です。
なぜこのようなことが起こるのかと言うと、地球表面の7割を占める海洋は熱慣性が大きく、多少の温度変化を吸収してしまうからです。
地球の気候システムは非常に複雑であり、大規模な火山噴火や天体衝突、大陸配置の変化などによって、全球凍結や暴走温室状態になったりする可能性を秘めていますが、少なくとも連星系による日射量の周期的な変動には、驚異的な適応能力を示すことが本論文によって示されました。
一方で、海を持たない乾燥した周連星惑星だとどうなるでしょうか。
スターウォーズに登場するタトゥイーンは、双子の太陽を周る砂漠の惑星だと設定されています。
本論文では定量的な検討はしておりませんが、海を持たない周連星惑星だと熱慣性が小さいため、気温変動は著しく大きくなることが予想されます。
連星系においてもハビタブルな惑星は海洋の存在によって気候が安定化する。
そして宇宙には連星が多数存在することを考慮すると、連星系でもハビタブルな惑星を探すことは重要である、というのが本論文の示唆です。
それではご視聴いただき ありがとうございました。
次回もお楽しみに。
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