あらゆるものを飲み込む宇宙の墓場、ブラックホール。その周りに惑星があったとしても、当然生命は住むことはできないと思われてきました。しかし最近の研究では、特定の条件下では、生命が住めるような環境がありうるかもしれないことがわかってきました。熱力学の観点から、ブラックホールの居住可能性に迫ります。
(目次)
0:00 インターステラー
0:57 熱力学的考察
1:46 ブラックホール周りの熱収支
2:04 エネルギー源としての宇宙背景放射
2:50 ブラックホール周囲の惑星の軌道安定性
4:30 銀河中心部に要求される条件
5:00 ブラックホールを回る惑星でみられる光景
5:31 ブラックホールの周りで惑星を発見するためには?
5:55 ブラックホールの周りで生命が生存できる条件
5:19 根強い反対意見
(参考文献)
Habitable Zones around Almost Extremely Spinning Black Holes (Black Sun Revisited)
P. Bakala et al. (2020) The Astrophysical Journal, 889:41 (9pp)
https://doi.org/10.3847/1538-4357/ab5dab
Planet Formation around Supermassive Black Holes in the Active Galactic Nuclei.
K. Wada et al. (2019) The Astrophysical Journal, 886:107 (7pp)
https://doi.org/10.3847/1538-4357/ab4cf0
Life under a black sun
T. Opatrny et al. (2017) American Journal of Physics 85, 14
https://doi.org/10.1119/1.4966905
【音楽素材】
https://www.bensound.com/
【画像素材】
NASA, ESA, 国立天文台、時富まいむ様
Space Engine, Universe Sandbox
【関連動画】
ブラックホールの周りで生命が存在できる!?【ブラックホールのハビタブルゾーン】
• ブラックホールの周りで生命が存在できる!?【ブラックホールのハビタブルゾーン】
【字幕説明】
みなさん、こんにちは。
学校で教えてくれない今どきの惑星科学の話をします。
皆さんは、「ブラックホールを周る、惑星に生命は住めるのか?」
というようなことを考えたことはありますか?
巨大なブラックホールは惑星から恒星まで、
あらゆるものを飲み込んでしまうため、
当然ブラックホールの近くでは生命は存在できないだろう、
と思われがちですが、最近の研究では、
特定の条件下では、生命が住めるような環境がありうるかもしれない
ことがわかってきました。
それでは詳しくみてみましょう。
そもそもこんなSFじみたテーマが科学者によって本格的に
検討されるようになったのは、2014年に公開された映画
「インターステラー」の影響があります。
この映画の中で、宇宙飛行士たちがワームホールを通じて
ブラックホールへ接近し、その周囲を公転する数々の惑星を
探査する話が出てきます。
チェコにあるシレジア大学の研究者らは、熱力学の観点から、
ブラックホールの周りで生命が住めるかどうか、
真面目に考えてみることにしました。
熱力学的に生命が生存できる惑星とは、どういうことでしょうか。
まず惑星にはエネルギー源が必要となります。
地球でいうと、太陽のことになります。
太陽光のエネルギーが植物を育て、そこから始まる食物連鎖によって、
私たち人間も含めて、動物が生きることができます。
もう一つ必要なものは、いらなくなったエネルギー、
熱を捨てるシンク(流し台)です。
地球の場合は、冷たい宇宙空間がシンクとなります。
シンクがないと、惑星にエネルギーがどんどん溜まっていくため、
惑星表面はどんどん高温になっていき、生命は住めなくなります。
ブラックホールを公転する惑星でも基本的には同じ原理が成り立ちます。
しかし、ここではエネルギー源とシンクが地球の場合と逆転します。
”太陽”が冷たく、”宇宙”が熱いのです。
ブラックホールは熱や光も含めて全てのものを吸収するため、
完全なシンクとなります。
一方、惑星が受け取るエネルギーは「宇宙背景放射」
によってもたらされます。
宇宙背景放射とは天球の全方向からくる放射エネルギーで、
ビッグバンの名残だと考えられています。
宇宙背景放射は絶対温度でわずか3ケルビンしかなく、
エネルギー量としては極めて小さいですが、
ブラックホールの周囲では強力な重力によって収束され、
細いビームとして放出されます。
そのため、ブラックホールを公転する惑星の中には、
収束された宇宙背景放射の光が、明るい星のように、
地面を照らしているだろうと推測されます。
このアイディアは2017年にアメリカ物理学会誌で公表されました。
そしてこのアイディアをさらに推し進める研究がなされました。
惑星が宇宙背景放射のエネルギーを十分に受け取るためには、
その惑星はブラックホールの事象の地平線のすぐそばまで、
接近しなければいけません。
事象の地平線とは、内側に入ると決して外にでることができない
領域のことで、一般的にはブラックホールの境界だと考えてください。
そのため、これまでは事象の地平線のすぐ近くに惑星があったとしても、
強い重力のため軌道が不安定になり、
すぐにブラックホールに飲み込まれてしまうと考えられてきました。
しかし2020年1月23日に、アストロフィジカル・ジャーナルに
公開された論文では、ブラックホールが高速で自転していれば、
そのような軌道が理論的に可能であることが示されました。
この論文では、惑星が事象の地平線のごく近くを安定して公転するには、
ブラックホールの表面が、光速の99.99999999%未満の速さで
回転すればよいとのことです。
また惑星がブラックホールの近くで安定に存在するためには、
ブラックホールが巨大であることも必要であることがわかりました。
この論文によると、ブラックホールの質量が太陽の1.63億倍以上必要
との見積もりが得られました。
私たちの銀河系の中心部に存在するブラックホールは太陽の質量の
約400万倍の重さしかなく、そのような小さいブラックホールだと、
潮汐力によって惑星が破壊されてしまうというのです。
一方、非常に重いブラックホールであれば、
潮汐力による破壊が起こるのは、事象の地平線の内側になるため、
外側は安全なのです。
ブラックホールの周りで生命が生存するためには、
さらに銀河の中心が”穏やか”である必要があります。
ここでいう”穏やか”とは、銀河の年齢が古く、
ブラックホールの周りにほぼ何もない空間が広がっている、
という意味です。
若い銀河だと、ブラックホールの周りに多くの物質が漂っていて、
ブラックホールに物質が吸い込まれる時に強力な放射線が放たれるため、
惑星表面が強い放射能を浴びてしまい、生物が死滅してしまうからです。
そのような惑星に生命が存在するとしたら
どのようなものになっているのでしょうか。
確実に言えることは、地球とは全く違った環境が広がっているだろう
ということだけです。
その惑星から空を見上げると、
ブラックホールの事象の地平線の真っ黒な領域が、
空の半分以上を占めていることでしょう。
そして相対論効果による時間の遅れのため、
その惑星での1年間は、ほかの惑星での数千年の時間になるでしょう。
まさに”インターステラー”の世界です。
たとえこのような惑星に生命が住んでいたとしても、
その惑星を発見することは非常に難しいと考えられています。
通常使われるトランジット法では検出できないため、
2019年にブラックホールの直接撮像の際に行われたように、
地球上の様々な地点で電波望遠鏡を連携させて観測することで、
発見できるようになるかもしれません。
今回の議論をまとめますと、
ブラックホールを周る、惑星に生命が住める条件は、
1、惑星が事象の地平線のすぐ近くに存在すること
2、ブラックホールがほぼ光速に近い速度で自転していること
3、超巨大なブラックホールであること
4、古い銀河で、ブラックホールの周囲に何もない空間が広がっていること
ということになります。
ただし、ブラックホールの周りに生命が住めるという
アイディアに懐疑的な研究者もいます。
そもそも今回の論文で示された、ブラックホールの自転速度は、
物理的に不可能ではありませんが、
現状ではそこまで高速回転させられるメカニズムは発見されていません。
また、ブラックホールの事象の地平線のすぐ近くに
惑星が移動できるかもわかっておりません。
2019年に鹿児島大学らの研究者が、ブラックホールの周囲でも
惑星が形成可能なことを理論的に発見しました。
しかし惑星が作られるのはブラックホールから遠く離れた場所であり、
これを事象の地平線の近くまで移動させるメカニズムは
まだ発見されておりません。
最後に最も重要なことですが、ブラックホールの周囲からは
強烈な紫外線が放射されるため、惑星の大気が剥ぎ取られてしまいます。
そのため、ハーバード大学の研究者らによると、
ブラックホールの周囲は、とても生命が住めるような環境ではない、
ということでした。
このように、ブラックホールを周る、惑星に生命が住めるかどうかは、
理論的には面白い研究対象であり、
現在も活発な議論が繰り広げられています。
また新たな進展がありましたら、
このチャンネルで取り上げていきたいと思います。
それではご視聴ありがとうございました。
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