これまで惑星は中心星から適度な距離を保たないと、生命が住むのに最適な温度にはならない、とされてきました。しかしこの常識を覆すようなアイディアが提案されました。惑星を構成する岩石に含まれる放射性元素が豊富に存在すれば、放射壊変熱によって、惑星表面を温めることが可能になるかもしれません。
(目次)
0:00 ハビタブルゾーン
0:38 中心星を持たない岩石惑星
0:54 惑星表面の熱収支
1:17 集積熱と放射壊変熱
1:52 モデル計算の結果
2:06 放射能まみれの惑星
2:23 最強の放射線耐性生物
2:38 放射性元素を濃集する方法
3:03 放射能惑星の検出方法
3:40 あとがき
(参考文献)
M. Lingam & A. Loeb, The Astrophysical Journal Letters 889, L20 (2020)
On the Habitable Lifetime of Terrestrial Worlds with High Radionuclide Abundances https://doi.org/10.3847/2041-8213/ab68e5
【画像素材】
NASA, ESO,, Pixabay, Space Engine
【字幕説明】
惑星のハビタビリティを決定する上で
最も重要と考えられているのが、惑星の地表面温度です。
地表面温度を最適に保つためには、惑星は中心星から近過ぎず、遠過ぎず、
適度な距離を保つことが絶対的な条件である、
とこれまでは考えられてきました。
しかし氷衛星の内部に液体の海が発見されたり、
恒星のまわりを公転していない浮遊惑星が発見されたりと、
宇宙には多種多様な惑星が存在するという事実が明らかになってきています。
こうした観測事実を背景に、これまでの枠組みにとらわれない
より斬新な発想でハビタブルゾーンを定義しよう
という機運が高まってきています。
今回紹介する論文では、中心星を持たない岩石型の惑星でも、
液体の水を保持するにはどうすればいいのか、を理論的に検討しています。
簡単に言うと、太陽がなくなっても地球が生き残るには
どうすればいいのかというお話です。
論文のアイディアは非常にシンプルです。
惑星の地表面温度は、中心星からの放射エネルギーと、
内部からの熱エネルギー(地熱)に大きく左右されます。
地球の場合、地表面での全入射エネルギーのうち、
ほとんどが太陽の放射エネルギーで、地熱の寄与はわずかです。
そのため、普通は地熱の影響は無視できるほど小さいのですが、
今回の論文では、地熱に着目するのがポイントです。
地熱も大まかに2種類あります。
一つ目は惑星形成時に天体衝突や内部の分化によって
力学的に解放される集積エネルギー、
二つ目は、放射性元素の壊変熱によるエネルギーです。
集積エネルギーは惑星のサイズ・質量によってある程度上限が決まります。
一方、放射性元素の壊変熱によるエネルギーは、
惑星を構成する岩石に含まれる放射性元素の濃度に依存するため、
理論的には濃度をどんどん上げていけば、惑星の表面温度も上がります。
この論文の著者らはそこに目を付け、放射性元素を大量に含む
岩石惑星なら中心星がなかったとしても、
液体の水を保持できるのではないかと考えました。
計算の結果、地球のおよそ1000倍の放射性元素を持つスーパアースであれば、
長期間、液体の水を保持できる温度になることがわかりました。
ただ、ちょっと待ってください。
そんな放射能まみれの惑星、生命は住めるのでしょうか。
この論文によると、このような惑星の場合、地表面での放射能濃度は、
1986年にチェルノブイリ原発事故で発生した放射能汚染の
数百倍ひどいということです。
当然、強烈な放射能によってDNAがずたずたに破壊されるため、
人間を含む高等生物は住めないでしょう。
ただ地球上には放射線耐性をもった生物も発見されています。
例えば、デイノコッカス・ラディオデュランスという細菌は、
人間のおよそ500倍の放射線耐性を持ちます。
こういった放射線耐性生物なら、放射能まみれの惑星にも
住むことができるでしょう。
もう一つの疑問として、そもそも岩石型惑星にこんな高濃度の
放射性元素が濃集することはあり得るのでしょうか。
論文の著者らは、銀河の中心部付近なら、
あり得るのではないかと予想しています。
その理由は、ウランやトリウムのような重い放射性元素は、
中性子星どうしの衝突などによって生成されると考えられているのですが、
こういった衝突現象は、星の密度が高い銀河の中心付近で、
より多く起こると予想されるためです。
それではこういった惑星を観測で発見することは可能でしょうか。
論文では2021年に 打ち上げ予定の ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を
用いて検出することが可能か見積もっています。
その結果、中間赤外の波長で10日間程度、観測を行えば、
惑星からの放射を検出できるだろうと見積もられました。
このように、これまでハビタブルとは考えられなかった惑星においても、
生命が住めるかどうかを検討することは重要です。
これからも様々な系外惑星が発見されていくのは確実であり、
放射能にまみれた大型の固体惑星に生命が存在している可能性は、
決してゼロではない、というのがこの論文の趣旨です。
それでは今回もご視聴ありがとうございました。
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