2020年7月にネイチャー誌で報告された新種の系外惑星は海王星クラスの大きさを持つ岩石型惑星であった。この惑星の起源をどのように説明すべきか、惑星形成論にもとづく様々な仮説を紹介する。
【目次】
0:00 相次ぐ系外惑星の発見
0:15 TOI-849bの発見
1:08 惑星形成論への挑戦
1:46 起源に関する仮説
2:51 円盤モデルの修正
3:29 むき出しの岩石コア
【参考文献】
Armstrong, D.J., Lopez, T.A., Adibekyan, V. et al. A remnant planetary core in the hot-Neptune desert. Nature 583, 39–42 (2020).
https://doi.org/10.1038/s41586-020-2421-7
【映像素材】
SpaceEngine, University of Copenhagen/Lars Buchhave, Martin Vargic, MARK GARLICK, UNIVERSITY OF WARWICK
【字幕全文】
現時点で4000個以上発見されている系外惑星には、
太陽系には存在しない奇妙な惑星が多数発見されており、
そういった発見の度に惑星科学の常識が覆されてきました。
今年の7月1日にネイチャーで発表された論文で、
既存の惑星科学の枠組みでは説明が難しい、
新種の系外惑星が再び報告され、議論を巻き起こしています。
TOI-849bと名付けられたこの系外惑星は、二つの意味で画期的です。
まず、これまでほとんど惑星が発見されてこなかった、
”ホット・ネプチューン砂漠”と呼ばれる領域で、
初めて見つかった惑星であること。
ホットジュピターや、
中心星に近いスーパーアースは発見されていましたが、
これほど中心星に近い海王星クラスの惑星は初めてでした。
次に、TOI-849bは地球の約40倍の重さを持つ、
超巨大な固体惑星であったこと。
この惑星は土星のほぼ半分の質量をもちながら、
海王星よりも半径が小さいことがわかり、
地球とほぼ同じぐらいの密度を持つ、
岩石型の惑星であることが明らかになったのです。
この新種の惑星はまるで従来の惑星形成論に、
真っ向から刃向かうような存在だと言えます。
これまでの伝統的な惑星形成論では、
集積時に原始惑星が地球質量の10倍を超えると、
その巨大な重力によって、
原始惑星円盤の水素ガスを、暴走的に集積するようになり、
木星クラスの巨大ガス惑星が誕生する、というシナリオが標準的でした。
つまり、超巨大な岩石惑星でありながら、
分厚い水素大気を持たないTOI-849bの存在は、
従来の惑星形成論では説明できないのです。
どうやったらこのような惑星を作ることができるのか。
ネイチャーの論文ではいくつかの仮説を提案しています。
巨大な固体惑星が分厚い大気を持たないということは、
1.かつては分厚い大気を持っていたが、
その後何らかの原因で大気を失った。
2. 形成した時に何らかの理由で水素ガスを暴走集積しなかった。
という二つの可能性が考えられます。
1に関しては、中心星からのX線や極端紫外線によって、
大気を剥ぎ取る”光蒸発”と呼ばれるメカニズムがありますが、
大気を十分に流出させるには時間がかかり過ぎるため、
光蒸発だけでは観測結果を説明できないことがわかりました。
大気を散逸させる、その他のプロセスとして論文中では
中心星と惑星の間に働く重力による潮汐破壊を挙げています。
また、仮にTOI-849bが他の惑星との重力散乱によって、
現在の軌道に到達した場合、
散乱されたときに惑星に埋め込まれた熱エネルギーによって、
大気が過熱されて流出するといった可能性も提案されています。
また、惑星同士の巨大衝突によって、
大気を剥ぎ取るシナリオも考えられます。
次に、2番目の可能性はどうでしょうか。
原始円盤中でガスを大量に集積しないためには、
惑星の周囲にガスが存在しないギャップを作る必要があります。
実は従来の伝統的な惑星形成論では、ガスを暴走的に集積しやすいため、
木星サイズのガス惑星を大量に作りすぎてしまって、
海王星クラスの惑星があまりできず、
系外惑星の観測データと合わない、という批判がありました。
そこで最近では、円盤中でギャップができることによって、
ガスの集積が抑えられるという修正モデルが提案されています。
そのためTOI-849bの存在は こういった、
ギャップを伴う原始円盤モデルで説明できるかもしれません。
いずれにせよ、TOI-849bの起源を制約するにはまだ程遠い状況ですが、
巨大惑星のコアである可能性が高いと論文では結論づけています。
TOI-849bの発見は、普段目にすることができない、
ガス惑星の内部を直接観測する貴重な機会を、
私たちに提供してくれているのです。
今後も継続的に観測していくことで、
惑星形成論を修正していく重要なデータが得られていくでしょう。
それでは今回もご視聴頂き ありがとうございました。
次回の動画では、まだほとんど報道されていない、
中国の月サンプルリターンミッション 嫦娥5号について、
公開された論文をもとに勝手にレビューしたいと思います。
良かったらチャンネル登録、お願いします。
それではまた。
#惑星科学チャンネル #PlanetaryScienceChannel #行星科学频道