これまで地球内部のコアとマントルの間で水素(水)がどのように分配されるか不明でしたが、最近Nature Geoscienceで発表された論文によって、水素(水)はコアに濃集しやすいことがわかりました。このことは、原始地球に集積した水の大部分が現在もコアに蓄えられている可能性があることを示しています。
(目次)
0:00 地球の水の総量は不明
0:38 先行研究
1:06 分子動力学計算による新しい推定
1:56 水素はコアに分配されやすい
2:55 地球内部の水の量
3:56 あとがき
(参考文献)
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https://doi.org/10.1016%2Fj.icarus.2018.11.027
(映像素材)
SpaceEngine, Pixabay, NCSA/NASA, University College London
(字幕全文)
地球が持つ水の総量はよくわかっていません。
ここで言っているのは表面にある水のことではなく、
地球内部の水のことです。
45億年前に原始の地球が誕生したとき、岩石だけでなく、
当時原始太陽系円盤に充満していた水素ガスも地球に集積したはずです。
この時集積した水素ガスは現在も地球内部にあると考えられますが、
マントルと核にどのように水素が分配されているのかは、
よくわかっていません。
地球内部の物質を直接サンプルすることはできないため
高圧下での水素の挙動に関して、理論的な予測や実験が行われてきました。
液体の金属鉄と岩石(シリケイト)の間で水素がどのように分配するか、
これまでの研究では圧力40GPa程度まで、深さに換算すると、
下部マントルの浅い領域までの分配係数しか得られていませんでした。
また、得られたデータは互いに矛盾するような結果が得られており、
解釈が安定していませんでした。
こういった状況を生み出した原因として、推定手法やフガシティーの違い、
さらには実験時の不純物の存在などが挙げられています。
2020年5月18日にNature Geoscienceで発表された論文で、
理論的な手法を用いて、これまでよりも幅広い温度圧力条件で、
高圧下での水素の挙動を調べた研究が発表されました。
この研究では第一原理分子動力学法と熱力学を組み合わせた計算によって、
圧力20から135GPa、温度は2800から5000Kまでの条件で、
水素の分配係数を求めてます。
これは、下部マントルの上部から、
外核の境界付近までをカバーする温度圧力条件です。
地球内部での水素の存在形態はよくわかっていないため、
この論文では水素が全てH2として存在するという最も還元的な条件と、
水素が全てH2Oとして存在するという最も酸化的な条件の、
2種類の極端な場合を仮定します。
こうして得られた分配係数がこちらの図です。
横軸が圧力、縦軸が分配係数です。
上に行くほど水素は金属鉄に分配され、
下に行くほど水素が岩石に分配されることを示しています。
この研究で出された結果は丸と四角の記号で示されていて、
それぞれ水素がH2OかHかの違いを示しています。
この図からわかる重要なことは、
ほとんどの温度圧力条件で水素は金属鉄側に分配される、
水素は存在形態によらず、つまりH2Oであろうが、
H2の状態であろうが、金属鉄に分配される、
そして圧力が高くなるほど金属鉄に分配されやすい、ということです。
分子動力学計算の結果を可視化した動画も、
論文の補足資料として発表されています。
この動画では、白い球が水素、黄色い球が鉄、
緑、水色、赤の球がシリケイトを現しています。
白いボールの水素は金属鉄に入りやすいのに対して、
シリケイト側にはあまり存在しないことがわかります。
こういった結果から、地球内部では水素、つまり水が、
マントルよりも金属鉄であるコアのほうに分配されやすい、
ということが明らかになりました。
それでは地球のコアに含まれる水の量はどれぐらいあるのでしょうか。
これを見積るには、
原始地球が水をどのように集積したかを考える必要があります。
仮に現在の大気海洋にある水がマントルからの脱ガスで作られたとしたら、
コアには表層の5倍の水が蓄えられていると見積もられます。
一方で地球が無水状態で形成され、
後から彗星や小惑星によって水が供給されたとする、
いわゆるレイト・ベニヤモデルを仮定すると、
そもそもコア・マントルは水がない状態から出発するため、
現在もコアには水が含まれないことになります。
しかし近年、コアの密度が予想よりも低いことや地震波速度が遅いこと、
また隕石中の水素の同位体比などから、
地球のコアに表層の5倍程度の水が蓄えられているという、
間接的な証拠が報告されています。
私たちの最も身近なフロンティアである地球のコア。
そこには原始太陽系で集めた大量の水が今も眠っているのかもしれません。
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