灼熱の惑星、金星。これまで最も長く生き残った探査機ですら、金星表面でわずか2時間しか稼働しませんでした。近年、NASAは金星表面で長く生き延びる探査機を開発するために、世界で唯一の金星環境を再現する実験装置を稼働させています。
【目次】
0:00 過酷な金星の表面
0:28 なぜ金星着陸を目指すのか
0:57 ソ連の金星探査
1:37 NASAが目指す金星着陸探査
1:54 グレン研究センター極限環境チャンバー
3:33 将来探査計画
【参考資料】
Cartier, K. M. S. (2020), Venus exploration starts in the lab, Eos, 101,
https://doi.org/10.1029/2020EO144532.
Dave Mosher (2016) A tiny version of Hell on Earth exists in Cleveland, Ohio. Business Insider.
https://www.businessinsider.com/venus-deadly-surface-conditions-2016-12
GEER, NASA Glenn Research Center
https://geer.grc.nasa.gov/
【画像素材】
NASA, Glenn Research Center, Goddard Space Flight Center, net-film.ru
【字幕全文】
灼熱の惑星、金星。
かつて多くの探査機が金星に向かいましたが、
過酷な環境を生き延びることができたのはわずかしかおらず、
最も長く生き残った探査機ですら、
金星表面でわずか2時間しか稼働しませんでした。
近年、NASAは金星表面で長く生き残れる探査機を開発するために、
世界で唯一の金星環境を再現する実験装置を稼働させています。
今回は知られざるNASAの極限環境チャンバーを紹介したいと思います。
なぜ人類は再び金星表面を目指すのか。
太陽系の外にこれだけ多くの系外惑星が見つかっているこんにちにおいても、
金星が地球と最も似た惑星である事実は揺らぎません。
二つの惑星は大きさ、質量、組成が驚くほど似ているにも関わらず、
なぜ両者がこれほど異なる運命を辿ったのか、
いまだに明確な答えは出ていません。
その最大の理由は、金星の起源と進化を明らかにできるほどの
観測データがいまだにないからなのです。
これまで金星の着陸探査に成功してきたのは冷戦時代のソ連だけです。
多大な犠牲を払いながらも着陸探査に挑んだ
ソ連の宇宙機関の功績は輝かしいものがありますが、
着陸後に最も長い時間 稼働した、1982年のヴェネラ13号ですら、
金星表面で127分しか生き延びることができませんでした。
月や火星で何年も生き残る最新の探査機であっても
ここ金星では全く話が変わります。
高温高圧の灼熱の環境によって、探査機の外壁は溶け、
ケーブルはすぐに腐食し、
さらにハードウェア部品が熱で曲がったりするのです。
つまり、金星表面で より多くのデータを取りたいのなら、
まずは探査機を長生きさせなければいけません。
アメリカ初の金星着陸探査に向けて、NASAは今、金星で数日、
さらには数か月間生き残れる探査機を、本気で作ろうとしています。
オハイオ州クリーブランドにあるNASAグレン研究センターには
世界的にも珍しい 金星の過酷な環境を再現するチャンバーがあります。
2014年から稼働を始めたこの装置は、
チャンバー内部を室温から540℃、
1気圧から90気圧以上まで維持することができ、
二酸化炭素や窒素、硫黄化合物などの混合ガスによって
金星の上層大気から地表までを模擬することができます。
また、ガスの組成を変えれば、木星や土星の環境も再現できます。
ここで行われている実験は主に2種類あります。
一つは探査機に使われる様々な部品をテストすることで、
金星環境における耐久性を調べる実験です。
例えば地球では一般的に、
電子部品の導電体に銅が使われていますが、
金星では銅は役に立たず、
銅のかわりに金を使う必要があることがわかりました。
また、これまで金星環境で試験した電子部品の中で
最長で 21日間生き延びたものがあることもわかりました。
たった2時間したもたなかった従来の機器に比べると
これでも驚くべき進歩と言えます。
面白いことにコンピューターに搭載されるICチップは
意外と耐久性があることもわかったそうです。
この装置のもう一つの実験として、
金星表面で観測される岩石がどのように観測機器に「見えるのか」、
校正データを提供するという役目があります。
地球や他の惑星に分布する岩石を観測する時と異なり、
金星ではその特殊な環境のため、表面での風化が速く、
スペクトルが変性している可能性があります。
将来金星に着陸する探査機に搭載された観測機器が
確実に表面組成を同定できるように、
様々な校正データを予め用意しておくことは、
ミッションの成否を左右する非常に重要な仕事なのです。
探査機の開発というと、何か物凄く先進的な技術を使う
という印象を持つ人もおられるかと思いますが、
実際にはこのような地道な技術試験を
一つ一つ積み重ねていく 絶え間ない試行錯誤の連続なのです。
NASAは現在、次期ディスカバリー計画の最終候補の一つに
金星着陸ミッション DAVINCI+を選定しています。
人類が再び金星着陸に挑むとき、
知られざるこの小さな極限環境チャンバーが
惑星探査の最前線に躍り出ることでしょう。
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