慶應義塾大学文学部 佐川徹 助教
Title:「フィールドワークから見るアフリカ遊牧民の戦争と平和」
慶應義塾大学文学部 佐川徹助教の専攻は文化人類学です。文化人類学とは異文化の理解をとおして、わたしたちが「当たり前」だと考えている価値観を相対化し、広い視野から現代世界のあるべき姿を問い直す学問です。
「実際のテーマというのは、私が調査しているのはエチオピアという国のですね、国境地域の遊牧民が住んでいるのですけども、そこで遊牧民同士が頻繁に戦いをしていると、実際に銃を持って戦いをしあっているというのがあって、その事に関する研究、つまりどうして紛争が起きるのか、紛争に行く理由はなんなのか、そして紛争に行って人々がどういう経験をしているのか、あるいは紛争が終わった後にどうやって人々自身が自分たちで主体的に平和を回復しようとしているのか、それが主に研究しているテーマになります。」
佐川助教は実際にアフリカの遊牧社会に足を運び、人びとと暮らしをともにしながら彼らの戦争と平和のありかたを学んできました。自文化の視点から異文化を一方的に評価するのではなく、現地の住民の視点にたって彼らの生活論理を理解するためです。この「フィールドワーク」と呼ばれる調査法は、文化人類学のもっとも基本的な方法です。
「その遊牧民と戦いという事に関しましてはもともとこれは私が戦いに関しても興味がなかったのですけども実際にいってみると非常に遊牧民が戦う理由の一つは家畜ですね。家畜が生活のすべての側面において非常に重要であって、あの、大好きなんですね家畜が。ですから家畜をめぐって近隣の遊牧民同士が奪い合いをする、略奪し合うのですね。これが戦いの一つのきっかけになっている訳です。ですから家畜の事を知ろうとするとどうしても戦い暴力を用いて家畜を奪い合うという部分を研究していかないと、その全体像がみえないということもあって、遊牧民、そしてアフリカの遊牧民、そして、家畜と、戦いと言うのが結びついてきた。フィールドワークというのはもともと自分の問題意識とは違ったところに実際に現地に行ってみると色々な現象があってそれをもともとの関心から拡張する形で研究テーマが広がっていくというのが面白いところと言うふうに思うのです。」
現在、東アフリカの乾燥地域にくらす遊牧民の間では武力紛争が頻発しています。中央政府は、遊牧民を戦うことが運命づけられた「野蛮な」存在であるとみなして、暴力的な介入をくり返してきました。しかし佐川助教は、個人個人の遊牧民から話を聞き取っていくうちに、彼らのなかにも「戦いに行かない」という選択をする人が多くいることや、民族の境界を越えた個人同士の友好的な人間関係が広がっていることがわかってきました。
「個人レベルで見ると自分は戦いの経験を経てもう戦う事を辞めたというふう、そこから撤退して暴力を手放す人じつはかなりいるという事が判ってきた。もう一つはそういう風にして実際に日常的に異なる民族同士が戦い合っているという側面はあるのですけども、その民族の境界ですね、枠組みを超えて実は非常に広範な社会的なネットワークが広がっている。つまり、敵なんだけども、戦いの時は殺し合うんですけども、その集団のメンバーと非常に仲のいい友人関係をつくるとかあるいは結婚するとか、あるいは養子にとるとかそういう非常に民族に縛られない形で人々が色んな社会関係、人間関係を築いている訳ですね。でそういう人間関係、社会関係があるからこそ戦いが終わったと自分たちできちんともう一回仲直りできる、平和を回復できるという事ですね、ですからそういった意味で戦いを自発的に止める人々とか、あるいは民族境界を超えて広がる人間関係という物がある種の平和の潜在力と、つまり地域社会できちんと平和を回復する為の力という物が内在していると言う事がわかってきたと言うのが今までの一つの発見だというふうに考えています。」