慶應義塾大学文学部 大串尚代教授は、アメリカ文学を中心とした文学研究におけるジェンダーおよびセクシュアリティ問題の研究を行っています。
「私は19世紀のアメリカ文学の中で、特に女性文学を研究しています。19世紀のアメリカ文学と言うと、実は男性作家の方が有名です。例えば、ナサニエル・ホーソンとかエドガー・アラン・ポーとか、白鯨のハーマン・メルヴィル。でも実は売り上げ的には女性作家の方がたくさん売れていて、女性作家の方がセールス的に人気があった時代と言われていて、それがその後の文学史では評価の対象にならずにはずされてしまったという経緯があり、今私がやっているのは、そうした19世紀の従来の文学史ではあまり扱われなかった女性作家を掘り起こす作業、もう一度再評価することをやっています。」
作者の意図を読み解いていくというよりは、そのテキストの中から自分が何を読み取れたのか、という事の方が重要だという大串教授。19世紀の女性作家が書いた感傷小説や大衆小説の中には、様々な形での社会への抗議や、格調的な社会に対するアンチテーゼのようなものが読み取れると言います。
「私が常に心がけているのは、19世紀はもう100年以上昔のことで、しかも国も違うので、今の自分の生活とは関係ないと思われるかも知れないのですが、でもどこかで同じような共通した経験や、女性であるという事によって、もしこれが白人男性であれば感じなかったであろう苦労を、読んだ時に何となくシンパシーを感じてしまうとか、常に現代とつなげた形の観点でやっていこうということがこころがけているところです。」
また、一般に「家庭小説」と呼ばれる女性作家らの作品は、19世紀末から日本にも紹介されるようになっており、これらが日本の「少女小説」ひいては「少女漫画」にどのような影響関係があるのか、という研究も行っています。
「女性作家の研究をしていますが、女性だけに興味があるわけではなく、性差というのはいくつかの軸がありますので、勿論男性作家も含めて、大きな意味で性差やセクシュアリティの面をポイントにした研究をしていきたいと思っています。もうひとつは、やり始めているのですが、文化的な周縁にあるものにも興味がありますので、日本の場合はそれが、今かなり盛んになってきていますが、サブカルチャー的な意味で少女漫画の研究を少しし始めていて、少女漫画にある家庭性が19世紀のアメリカの女性作家が書いていた家庭小説に非常に近いものがあり、ある種の影響関係があるのではないかという風に考えており、そのあたりをもう少し詰めた形で研究成果として発表できればいいな、と考えています。なので、今後はもしかしたら日米比較の方が主眼になっていくと思います。」