【 note : https://note.com/yaguchihappy 】
三毛猫とX染色体の不活性化について解説します。私大でよく問われますが、センター試験や東大でも扱われたテーマです。
問題1: 1:28 のスライドで、白ぶちのある(白い部分のある)猫はオスとメスのどちらか。ただし、遺伝子Sはsに対して優性で、遺伝子型SSやSsの個体は、一部の毛が白色になる。
答え:メス(遺伝子型Ssは白い部分をもつ)
問題2:猫において、遺伝子Sはsに対して優性で、遺伝子型SSやSsの個体は、一部の毛が白色になる。また、遺伝子OとoはX染色体上にあり、Oは毛の色を茶色に、oは毛の色を黒色にする。さて、三毛猫の遺伝子型をすべて答えよ。
答え:OoSS、OoSs
問題3:雄の三毛猫は、染色体の数に変化が起きていると考えられる。雄の三毛猫の染色体構成について、考えられることを述べよ。
答え:X染色体を2本、Y染色体を1本持っていると考えられる。
●三毛猫について
(1)常染色体上の遺伝子
遺伝子型SS、Ssの時→白斑が生じる。
遺伝子型ssの時→白斑が生じない。
(2)X染色体上の遺伝子
遺伝子O:茶色の部分が生じる。
遺伝子o:黒色の部分が生じる。
*メス(X染色体を2本持つ)で、遺伝子型Ooのとき、つまりX染色体のうちの1本にOが、もう1本にoがあるとき→茶色の部分と黒色の部分が生じる。
・哺乳類では、X染色体は、どちらか1本が細胞ごとにランダムに選ばれ不活化(X染色体の不活性化)されるので、細胞ごとに発現する遺伝子がOかoになる(どちらが発現するかはランダムである)。
*哺乳類のメスでは、細胞数がある程度増えたところで、2本あるX染色体のうち1つがランダムに不活性化される。
*遺伝子型Ooにおいて、OがあるX染色体が不活性化された場合黒色になり、oがあるX染色体が不活性化された場合茶色になる。どちらのX染色体が不活性化されるかは、細胞ごとにランダムである(よって、遺伝子型Ooの雌猫の体には、黒色の部分と茶色の部分ができる)。
・よって、雌の三毛猫の遺伝子型は SSOo、SsOo である。
*オス(XY)はX染色体を1本しか持たないので、Oかoどちらか1個しか持てない(雄の持つY染色体にはO等の遺伝子は無く、全然別の遺伝子のセットが乗っている)。Oが乗ったX染色体と、oが乗ったX染色体をもち、そのどちらかが細胞ごとにランダムに不活性化されることで、茶色の部分と黒色の部分の両方もつ猫になる。なので、ふつう、X染色体を1本しかもたないオス猫は、茶色と黒色の細胞を同時に持てないことになる。
*三毛猫のオスは、例えばXXYのような染色体構成(X染色体を2本もつ)になっている(なので非常に珍しい)。
●実際は話はもう少し複雑である(高校生はこれから話す話はまったく気にする必要はない)。上記の三毛猫の動画について(高校生はこれから話す話はまったく気にする必要はない)。
アグチ遺伝子という遺伝子がネズミや他の動物で発見されている。
毛をアグチパターン(毛の根本から、黒、茶、黒と色を並べる)にする遺伝子である。
ネコのアグチ遺伝子はまだ明らかになっていないが、猫にも毛をアグチパターンにする遺伝子があると考えられている。
このアグチ遺伝子をAとする(劣性の対立遺伝子をaとする)と、 Aが優性で、遺伝子型A A、 Aaの猫は、アグチパターンの毛を持つ野生型の色になる(キジネコと呼ばれる)。
この遺伝子がaaだと、アグチパターンにならず、黒色になる。全身真っ黒の黒猫はアグチ遺伝子について遺伝子型がa aである。
さて、それとは別に、X染色体上に茶色遺伝子(Oと略される。オレンジのOである)がある。この遺伝子はメラニンの生成に関わっているとされ、この茶色遺伝子を一個でも持つと、毛が茶色になる。oは黒色にする遺伝子というより、毛を茶色にせず、アグチ遺伝子の支配する形質をそのまま表に出している遺伝子なのである。
AAまたはAaとOoの組み合わせの時は、キジと茶の二毛になり、aaとOoの組み合わせの時は、黒と茶の二毛になる。
これにさらにSが組み合わさると、スポット、すなわち白が混じり、三毛猫になる。
つまり、三毛猫になるには、遺伝子型O oであること、優性変異型遺伝子S(スポットのS。白いスポットができる)を持つことが必要である。
他にも様々な遺伝子が猫の毛色を規定しているが、まだ未解明な部分が多い。
●X染色体上にある遺伝子の発現量を、オスとメスで揃えるために、生物種ごとに様々な遺伝子量補償(dosage compensation)機構がある。哺乳類では今回見たようなX染色体の不活化が起きる。ショウジョウバエではオス(XY)のX染色体の転写効率がメスの2倍になる。センチュウでは、雌雄同体(XX)の2本のX染色体の発現量をそれぞれオス(XO)の半分に抑制している。
●XXXYYに性染色体をもつ哺乳類でも生存可能である。Y染色体についてはごくわずかの遺伝子しかもっていないから問題はない。そして、X染色体の数がどうであろうと、1本以外を除いて、残りのX染色体は不活性化を受ける。よってXXXYYでも生存可能である。
●遺伝子量補正は、そもそもY染色体に活性化した遺伝子数がほとんどないために必要になる。もし、Y染色体にX染色体と同等の遺伝子が並んでいれば、X染色体の不活化による遺伝子量補正などという面倒な仕組みは必要なくなる。Y染色体は、もともとX染色体と同じものであったが、進化の過程で徐々に遺伝子の大部分を失ってしまったと考えられている。なぜ、そんなことが起こり、そのために遺伝子量補正の仕組みが必要になったのか、まだ明らかでない。
●XY型の性決定様式をもつ哺乳類のメス(性染色体をXXに持つ)では、胚発生の初期に、各々の細胞においてランダムにX染色体の1本が不活性化される(この「ランダムに不活性化する」というしくみは哺乳類に独自に進化してきたしくみである。ただし、有袋類は、父由来のX染色体が選択的に不活性化されることが知られている)。
●X染色体の不活性化は、発見者の名前(Mary F. Lyon:イギリスの遺伝学者)の名をとりライオニゼーションとも呼ばれる。ヒトを含む多くの哺乳類では、複数のX染色体を持つ個体でも、機能的に活性化されているのは1本だけで、残りのX染色体は不活性化され、異常に凝集している(異常凝集した不活化されたX染色体は、M.L.BarrとE.G.Bertrumによってネコの神経細胞核で発見されたので、「バー小体」と呼ばれる。当然男子には見られない)。哺乳類ではおよそ数十個から数百個に細胞が増えた段階でX染色体の不活性化が細胞ごとにランダムに起こる。確定はしていないが、ネコの場合は20個程度に増えた段階で起こると考えられている(ヒトの場合は胚の細胞数が500~1000個の時と考えられている)。
●不活性化はランダムに起きる。この説は、やはりライオン(上述したメアリー・ライオン)が提唱したのでライオン仮説と呼ばれる。
●いったん不活性化したX染色体はその後の細胞分裂を通して維持されるが、生殖系列の細胞では再活性化されると考えられている。
●X染色体から転写されるXist RNAによって不活性化が引き起こされると考えられている。不活性化したX染色体には、Xist RNAが付着し(X染色体をコーティングし不活性化していく)、さらに様々なタンパク質が結合していく。
●S遺伝子が体に白斑をつくるしくみについては、まだ完全に解明されていない。SsよりSSの方が、白斑の範囲が広いようである。その白いエリアの広がり方は様々で、まだわかっていない他の遺伝子によって影響されるらしい。別の動物ではkitという遺伝子が関係しているようだが、ネコについてははっきりしていない。
●色素細胞は、神経管と表皮の間に生じる神経冠細胞(神経堤細胞)から分化する。色素細胞は、数を増やしながら全身に広がっていく。色素細胞は表皮に沿って移動し、1本1本の毛の付け根に入り込んで、メラニン色素を合成して毛に分泌する。遺伝子Sを持つ個体の体の白い部分が、腹や手足の先に特に多いのは、色素細胞が背側から移動するため、移動が抑制され、腹や手足の先には届かなくなるからだと考えられている。
●ヒトでは、22組ある常染色体のうち、21番染色体以外のどれか1つでも3本になると、胎児はほとんど生き延びることはできない(その過剰染色体は染色体の不分離現象に基づくとされる)。3本の相同染色体を持つ状態をトリソミー(三染色体性)という。
●クローン猫の毛の模様が、クローンのもととなった猫の毛の模様と異なるのは、「色素細胞の移動がランダムであること」と、「X染色体の不活性化がランダムに起こること」が原因であると考えられている。
●猫の毛色の決まり方は、未解明な部分があり、もっと複雑ですが、この講義は大学入試問題等に基づいています。
●人の社会的な性に関する議論はしていません(生物学的に扱う動物としてのヒトについて議論をしています)。
0:00 三毛猫(白・茶・黒色の毛をもつ猫)
00:13 猫の細胞
01:28 白色をつくる遺伝子
03:13 茶色・黒色をつくる遺伝子
08:37 オスの三毛猫がいない理由
10:26 X染色体の不活性化の意義(遺伝子発現量補正)
#生物
#高校生物
#三毛猫