植物細胞と浸透圧 高校生物発展
22分56秒
説明
【 note : https://note.com/yaguchihappy 】
浸透圧について講義します。今回は、解説のために、はじめ、膨圧が生じていない(限界原形質分離の状態の)細胞を想定し、その細胞を様々な溶液に入れた場合について考えています。しかし、『植物細胞の健康な状態は、膨圧が生じている状態』なので注意しなさい(パンパンに膨らんだタイヤが固いように、パンパンに膨らんで細胞に膨圧が発生しているからこそ、植物はピンと立つことができる。植物に水をやらずにいると、水が不足し、細胞に膨圧は生じ無くなり、植物体はしおれてしまう)。
●Cをモル濃度、Rを気体定数、Tを絶対温度とすると、
浸透圧π=CRT
であることが明らかになっている(この式をファントホッフの式と言い、導出には化学ポテンシャルを用いた大学レベルの知識が必要。実験的に正しいことがわかっている)。
C=n/V(nはモル数。Vは溶液体積)なので、『浸透圧の大きさは体積に反比例する。』
(n、R、Tは一定として、Vを2倍にすると、πが1/2倍になる)
問題:動物細胞を高張液に入れたところ、細胞体積が、高張液に入れる前に比べて1/2倍になった。さて、細胞内液の浸透圧は高張液に入れる前に比べて何倍になったか。 答え:2倍
●浸透圧について説明する過程で、水を「(濃度0の)溶液」と呼んでしまったが、当然、ふつう、何か溶質が溶けていなければ溶液とは呼ばない。念のため。
●一般に、「吸水力=細胞内液の浸透圧ー膨圧」とし、「吸水力が細胞外液の浸透圧と等しくなる時変化が止まる」とすることが多いが、最近は「吸水力=細胞内液の浸透圧ー膨圧ー細胞外の浸透圧」として、「平衡状態では常に吸水力=0となる」と説明する資料集が増えてきている。いずれにしろ、入試では出題者の意図に合わせる。(そもそも、吸水力など、定義のはっきりしない経験的に使用されてきた概念を使って厳密に水の出入りを議論することに無理がある。)
●野菜がみずみずしく、骨がないのにピンと立っていられるのは、細胞に膨圧が生じているからである。
●塩漬けにすると水が抜けるのは、外液の浸透圧が非常に高く、細胞内から水が抜けるためである。
●植物は、体内への水の出入りを、気孔や根を使って厳密に制御している。
●細胞内の浸透圧調節のために、液胞がはたらいている。
●この動画で解説した内容は、私大でまだたまに問われるが、教科書の本文からは消えた内容である。
●細胞を等張液に浸したときの状態を限界原形質分離という。(実際には、細胞の半数が原形質分離を起こしているとき、その溶液を等張液といい、その状態を限界原形質分離の状態という。)
●原形質とは古い言葉で、今はもうこの分野くらいにしか残っていない。昔は細胞膜の内側の核と細胞質をあわせて原形質(生きているみたいなイメージをもって名付けられた)、細胞壁を後からつくられる後形質(生きていないみたいなイメージをもって名付けられた)とよんだ。もう意味のないネーミングになりつつある。
●細胞内に生きている粘性の物質を想定し、名前を付けたのはデュジャルダンである。彼はこれに「肉質」と命名した。これに、「原形質(protoplasma)」という名称を与えたのは生理学者プルキンエである(心臓の刺激伝導系を形成する特殊筋系である『プルキンエ繊維』を知っている人もいるだろう)。Protoplasmaとは、本来、神学の用語であり、「神の最初の創造したもの」、「アダム」を意味する。
●動物細胞の場合、吸水すると破裂する(原形質吐出[げんけいしつとしゅつ]という)。赤血球の原形質吐出は特に溶血という。
●植物細胞の、細胞膜で包まれた部分を、プロトプラストという(細胞壁をもたない動物細胞では、細胞とプロトプラストの区別はない)。
●動画中では、濃い溶液中について、溶質に水の移動が邪魔されると説明しているが、実際は、溶質によって水の濃度が薄まると表現した方が正確である。
●圧力とは、たとえるなら分子の暴れ具合のことである。
●前半のグラフは、蒸留水に細胞を浸したときの時間変化(蒸留水中での細胞の平衡状態、つまり一番右の点に至るまでの変化)と説明される場合もあるし、様々な濃度の溶液に細胞を浸したときの変化(様々な濃度の溶液中で平衡状態となった時の変化)をあらわしたものと説明される場合もある。入試では出題者に合わせて解釈する。まああまり気にしなくても問題は解ける。
●溶媒と溶質の違いは、相対的なものでしかない。一般に、多量に存在するほうを溶媒、少ないほうを溶質とよぶ。細胞においては、溶媒は水である。
●本来、細胞への水の出入りを論じる際は、厳密には、重力や、液胞内の溶液についても議論する必要がある。
●原形質分離や原形質復帰は、入試では細胞が生きている証とされるが、実際には、細胞は、原形質連絡の破壊など、不可逆な損傷なしには、極端な原形質分離を経験することはできない。
●膨圧を、細胞内液が細胞壁を押す勢いとし、実際に細胞内から水を抜く勢い(膨圧の反作用)を壁圧とする参考書もある。大学では、膨圧は静水圧Ψpとして扱う。
●吸水力は、植物生理学の分野で古くから使われてきた経験的な概念であった。その概念は、現在では水ポテンシャルという概念に置き換えられた。
●たとえば低張液中で膨圧Ψpが生じると、細胞の水ポテンシャルΨwが増加する。
●水ポテンシャルは液体の水の部分モル体積で水の化学ポテンシャルを割ったものとして定義される。水ポテンシャルは単位体積当たりの水の自由エネルギーである。
●溶質は水の濃度を薄める(水の相対的な量を減らす)ことで水の自由エネルギーを減少させる。
●水は、水ポテンシャルの高い方から低い方へ移動する。話は単純である。水の移動について知りたければ、細胞内外の水ポテンシャルを比べればよい。その際、細胞壁が押し返す効果(膨圧)や、水分子に対して溶質の与える効果を勘定する必要があるだけである。高校で学ぶ吸水力云々よりシンプルになる。
●平衡状態の時、Ψw外液=Ψw細胞となっている。
(たとえば、「吸水力が0になって変化が止まる」とする参考書もある。この場合、吸水力は、細胞内外の水ポテンシャルの差ΔΨwをあらわしている。その場合、「吸水力=細胞内液の浸透圧ー膨圧ー細胞外液の浸透圧」となって、平衡状態ではすべての溶液中で吸水力は0ということになる。ただし、入試問題では、「吸水力=細胞外液の浸透圧」となって変化が止まるとして解くことが多い。)
●浸透ポテンシャルΨsは、水ポテンシャルにおける溶質の効果をあらわしている(水を吸い寄せる勢いのことである)。浸透ポテンシャルΨsの大きさは浸透圧の大きさである(ただし正負は逆となる)。
●たとえば0.1Mのスクロース溶液の水ポテンシャルΨwは―0.244MPaである。一方、その溶液に細胞を入れ、変化が止まった時、細胞内液の水ポテンシャルΨwは―0.244MPaとなる(その時、膨圧Ψp=-0.488MPa、浸透ポテンシャルΨs=-0.732MPaとなっている)
●吸水力(-Ψw)=浸透圧(-Ψs)―膨圧(Ψp)と考えてよい。
●今回は主に細胞レベルで議論をしているが、無論、植物体レベルで水の移動の議論をするときは、重力による重力ポテンシャルΨgや、毛細管現象によるマトリックポテンシャルΨmを考慮する必要がある。
●ファントホッフの式:浸透圧Π=cRTは実験的に確かめられた式(化学ポテンシャルを用いた計算とよく合うことがわかっている)だが、その中に(液体の議論をしているのにもかかわらず)気体定数Rが登場するのは、Rが、化学ポテンシャルから得られる値であるからである。
0:00 浸透圧とは何か
5:45 細胞膜の性質
7:53 細胞を蒸留水に入れた時
14:28 細胞を高張液に入れた時
17:20 細胞を低張液に入れた時
19:55 まとめのグラフ
20:29 細胞を尿素溶液に入れた時
#高校生物
#細胞
#浸透圧
浸透圧について講義します。今回は、解説のために、はじめ、膨圧が生じていない(限界原形質分離の状態の)細胞を想定し、その細胞を様々な溶液に入れた場合について考えています。しかし、『植物細胞の健康な状態は、膨圧が生じている状態』なので注意しなさい(パンパンに膨らんだタイヤが固いように、パンパンに膨らんで細胞に膨圧が発生しているからこそ、植物はピンと立つことができる。植物に水をやらずにいると、水が不足し、細胞に膨圧は生じ無くなり、植物体はしおれてしまう)。
●Cをモル濃度、Rを気体定数、Tを絶対温度とすると、
浸透圧π=CRT
であることが明らかになっている(この式をファントホッフの式と言い、導出には化学ポテンシャルを用いた大学レベルの知識が必要。実験的に正しいことがわかっている)。
C=n/V(nはモル数。Vは溶液体積)なので、『浸透圧の大きさは体積に反比例する。』
(n、R、Tは一定として、Vを2倍にすると、πが1/2倍になる)
問題:動物細胞を高張液に入れたところ、細胞体積が、高張液に入れる前に比べて1/2倍になった。さて、細胞内液の浸透圧は高張液に入れる前に比べて何倍になったか。 答え:2倍
●浸透圧について説明する過程で、水を「(濃度0の)溶液」と呼んでしまったが、当然、ふつう、何か溶質が溶けていなければ溶液とは呼ばない。念のため。
●一般に、「吸水力=細胞内液の浸透圧ー膨圧」とし、「吸水力が細胞外液の浸透圧と等しくなる時変化が止まる」とすることが多いが、最近は「吸水力=細胞内液の浸透圧ー膨圧ー細胞外の浸透圧」として、「平衡状態では常に吸水力=0となる」と説明する資料集が増えてきている。いずれにしろ、入試では出題者の意図に合わせる。(そもそも、吸水力など、定義のはっきりしない経験的に使用されてきた概念を使って厳密に水の出入りを議論することに無理がある。)
●野菜がみずみずしく、骨がないのにピンと立っていられるのは、細胞に膨圧が生じているからである。
●塩漬けにすると水が抜けるのは、外液の浸透圧が非常に高く、細胞内から水が抜けるためである。
●植物は、体内への水の出入りを、気孔や根を使って厳密に制御している。
●細胞内の浸透圧調節のために、液胞がはたらいている。
●この動画で解説した内容は、私大でまだたまに問われるが、教科書の本文からは消えた内容である。
●細胞を等張液に浸したときの状態を限界原形質分離という。(実際には、細胞の半数が原形質分離を起こしているとき、その溶液を等張液といい、その状態を限界原形質分離の状態という。)
●原形質とは古い言葉で、今はもうこの分野くらいにしか残っていない。昔は細胞膜の内側の核と細胞質をあわせて原形質(生きているみたいなイメージをもって名付けられた)、細胞壁を後からつくられる後形質(生きていないみたいなイメージをもって名付けられた)とよんだ。もう意味のないネーミングになりつつある。
●細胞内に生きている粘性の物質を想定し、名前を付けたのはデュジャルダンである。彼はこれに「肉質」と命名した。これに、「原形質(protoplasma)」という名称を与えたのは生理学者プルキンエである(心臓の刺激伝導系を形成する特殊筋系である『プルキンエ繊維』を知っている人もいるだろう)。Protoplasmaとは、本来、神学の用語であり、「神の最初の創造したもの」、「アダム」を意味する。
●動物細胞の場合、吸水すると破裂する(原形質吐出[げんけいしつとしゅつ]という)。赤血球の原形質吐出は特に溶血という。
●植物細胞の、細胞膜で包まれた部分を、プロトプラストという(細胞壁をもたない動物細胞では、細胞とプロトプラストの区別はない)。
●動画中では、濃い溶液中について、溶質に水の移動が邪魔されると説明しているが、実際は、溶質によって水の濃度が薄まると表現した方が正確である。
●圧力とは、たとえるなら分子の暴れ具合のことである。
●前半のグラフは、蒸留水に細胞を浸したときの時間変化(蒸留水中での細胞の平衡状態、つまり一番右の点に至るまでの変化)と説明される場合もあるし、様々な濃度の溶液に細胞を浸したときの変化(様々な濃度の溶液中で平衡状態となった時の変化)をあらわしたものと説明される場合もある。入試では出題者に合わせて解釈する。まああまり気にしなくても問題は解ける。
●溶媒と溶質の違いは、相対的なものでしかない。一般に、多量に存在するほうを溶媒、少ないほうを溶質とよぶ。細胞においては、溶媒は水である。
●本来、細胞への水の出入りを論じる際は、厳密には、重力や、液胞内の溶液についても議論する必要がある。
●原形質分離や原形質復帰は、入試では細胞が生きている証とされるが、実際には、細胞は、原形質連絡の破壊など、不可逆な損傷なしには、極端な原形質分離を経験することはできない。
●膨圧を、細胞内液が細胞壁を押す勢いとし、実際に細胞内から水を抜く勢い(膨圧の反作用)を壁圧とする参考書もある。大学では、膨圧は静水圧Ψpとして扱う。
●吸水力は、植物生理学の分野で古くから使われてきた経験的な概念であった。その概念は、現在では水ポテンシャルという概念に置き換えられた。
●たとえば低張液中で膨圧Ψpが生じると、細胞の水ポテンシャルΨwが増加する。
●水ポテンシャルは液体の水の部分モル体積で水の化学ポテンシャルを割ったものとして定義される。水ポテンシャルは単位体積当たりの水の自由エネルギーである。
●溶質は水の濃度を薄める(水の相対的な量を減らす)ことで水の自由エネルギーを減少させる。
●水は、水ポテンシャルの高い方から低い方へ移動する。話は単純である。水の移動について知りたければ、細胞内外の水ポテンシャルを比べればよい。その際、細胞壁が押し返す効果(膨圧)や、水分子に対して溶質の与える効果を勘定する必要があるだけである。高校で学ぶ吸水力云々よりシンプルになる。
●平衡状態の時、Ψw外液=Ψw細胞となっている。
(たとえば、「吸水力が0になって変化が止まる」とする参考書もある。この場合、吸水力は、細胞内外の水ポテンシャルの差ΔΨwをあらわしている。その場合、「吸水力=細胞内液の浸透圧ー膨圧ー細胞外液の浸透圧」となって、平衡状態ではすべての溶液中で吸水力は0ということになる。ただし、入試問題では、「吸水力=細胞外液の浸透圧」となって変化が止まるとして解くことが多い。)
●浸透ポテンシャルΨsは、水ポテンシャルにおける溶質の効果をあらわしている(水を吸い寄せる勢いのことである)。浸透ポテンシャルΨsの大きさは浸透圧の大きさである(ただし正負は逆となる)。
●たとえば0.1Mのスクロース溶液の水ポテンシャルΨwは―0.244MPaである。一方、その溶液に細胞を入れ、変化が止まった時、細胞内液の水ポテンシャルΨwは―0.244MPaとなる(その時、膨圧Ψp=-0.488MPa、浸透ポテンシャルΨs=-0.732MPaとなっている)
●吸水力(-Ψw)=浸透圧(-Ψs)―膨圧(Ψp)と考えてよい。
●今回は主に細胞レベルで議論をしているが、無論、植物体レベルで水の移動の議論をするときは、重力による重力ポテンシャルΨgや、毛細管現象によるマトリックポテンシャルΨmを考慮する必要がある。
●ファントホッフの式:浸透圧Π=cRTは実験的に確かめられた式(化学ポテンシャルを用いた計算とよく合うことがわかっている)だが、その中に(液体の議論をしているのにもかかわらず)気体定数Rが登場するのは、Rが、化学ポテンシャルから得られる値であるからである。
0:00 浸透圧とは何か
5:45 細胞膜の性質
7:53 細胞を蒸留水に入れた時
14:28 細胞を高張液に入れた時
17:20 細胞を低張液に入れた時
19:55 まとめのグラフ
20:29 細胞を尿素溶液に入れた時
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