【 note : https://note.com/yaguchihappy 】
真核生物の転写について講義します。
問題:転写において、DNAを鋳型にしてRNAを合成する酵素を何というか。
答え:RNAポリメラーゼ(別名:RNA合成酵素)
*より詳しい講義(転写・翻訳の方向性にも言及している)はこちら↓
• 転写と翻訳の方向性【セントラルドグマ】 高校生物
*動画中に口走ってしまったDNAヘリカーゼという用語は基本的に覚えなくてよいです。DNAヘリカーゼは、DNAの複製や、転写の過程で登場する、DNAを巻き戻す酵素です。高校生は知らなくて良い事ですが、転写では、まず、TFⅡHという基本転写因子がそのヘリカーゼ活性によってDNAを開裂させます。その後は、RNAポリメラーゼ自身がDNAをほどきながら転写反応を進めていきます(すなわち、RNAポリメラーゼは、まず部分的にDNAの二本鎖をほどき、RNAを合成し、さらにDNAを再び二重らせんにもどす作業を行いながらDNA上を進行していきます)。
*図は雑に描いています。必ず資料集等の図も確認してください(たとえば、正確には、二本鎖DNAが部分的にほどけている場所は、RNAポリメラーゼの内部にあります。上に貼った詳しい講義の方も参考にしてください)。
●DNA→RNA→タンパク質のように情報が『一方向的に』流れるという原則をセントラルドグマという。筆記で聞かれた時は、『一方向的に』というキーワードを入れて答える。セントラルドグマは、「中心命題」「中心教義」という意味で、ドグマというのはちょっと宗教っぽい用語である。まあ、「生命に関する非常に重大な原則」みたいなイメージである。DNAの二重らせん構造を発見したクリックが命名した。
なお、余談だが、クリックは、すでにセントラルドグマの例外を予言していた。彼はRNAの塩基配列情報からDNAの塩基配列情報へ情報は流れ得ると考えた。実際、その予言は的中した。RNAを鋳型にDNAを合成する特殊な酵素、『逆転写酵素』が発見されている。なお、現代においても、「一度タンパク質に入った情報はもう外へ出ることはない」というクリックの主張については、例外は見つかっていない。タンパク質のアミノ酸配列情報に翻訳された遺伝子の暗号(塩基配列情報)は、もうタンパク質から出ていかない。アミノ酸配列情報が塩基配列情報に戻る『逆翻訳』は地球に存在しないのである(複数のコドンが同一のアミノ酸を指定していることから、当然であろう)。
●DNAの鋳型鎖の塩基とRNAの塩基は相補的な関係になっていることに注意(DNAがAならRNAはU、DNAがTならRNAはA)。しかし1対1対応なので、本質的な情報は変わっていないことに注意。犬の写真を白黒反転コピーさせても犬の写真とわかるようなものである。
★DNAのRNAとの違い
①DNAは2本鎖の二重らせんだが、RNAは(ふつう)一本鎖である。
②DNAの塩基はA,T,G,Cだが、RNAの塩基はA,U,G,Cである。
語呂「RNAとDNAはチがウ!チ(ミン)がウ(ラシル)!TがU!」
③DNAの糖はデオキシリボースだが、RNAの糖はリボースである。
●スプライシングで除かれる領域をイントロンという。イントロンがあることで、真核生物は選択的スプライシングが可能になり、遺伝子発現の融通がきくようになる。
しかし、見方を変えれば、イントロンの除去はせっかくつくったRNAを捨てるということであり、資源の無駄になる。また、イントロンがある分、DNA合成が面倒になる。
もともと全ての生物がイントロンをもっていたが、原核生物は、イントロンという無駄を省き、素早く増殖する方に進化の戦略の舵を切ったのだという説がある。
もしかしたら、イントロンは、寄生性の動く遺伝因子が由来なのかもしれない。
イントロンの由来については、結論が出ていない。
●スプライシングのとき、同じ遺伝子から転写されたRNAでも、異なるエキソンがつなぎ合わされて、異なるmRNAがつくられることがある。これを選択的スプライシングといい、この仕組みにより、1つの遺伝子から複数のタンパク質を合成することができる(選択的スプライシングの利点としてよく問われる)。
*人の遺伝子は20000程度しかないのにもかかわらず、遺伝子数以上のタンパク質が合成されているのは、選択的スプライシングが原因の一つであると考えられている。
●スプライシングは転写と組み合わさって起きる。多くの場合、スプライシングに関する反応は、mRNA前駆体の合成途中で開始されることが知られている(ただし、エキソンとイントロンの境界の目印付けは転写と同時に行われるが、実際のイントロン除去は後で起こる)。
●RNA内の塩基配列がスプライシングの起こる場所を決めている(イントロンとエキソンの境界にmRNA前駆体中でスプライシングが起きるべき正確な位置を示す塩基配列が存在する)。
●選択的スプライシングは活性化因子と抑制因子(いずれもタンパク質)によって調節されている。これらのタンパク質がRNAに結合することで、特定の位置でのスプライシングが活性化されたり抑制されたりする。
●Amanita phalloides(タマゴテングダケ)のつくるアマニチンというペプチドはRNAポリメラーゼと特異的に結合し、DNAからRNAを転写する営みを阻害する。アマニチンの毒性は50%の致死率を持つ。それほど転写は生命にとって欠かせない現象である。
Q.DNAを合成するのはDNA合成酵素(タンパク質でできた酵素)で、DNA合成酵素の遺伝子はDNAにある。いったい、DNAとタンパク質、どちらが地球上に先にあらわれたの?
A.これは多くの生物学者を悩ませたニワトリと卵問題である。実は、RNAが遺伝子の本体と触媒の機能を同時にもっていたらしいことが明らかになっている(触媒作用をもつRNAをリボザイムという)。そのような、RNAが遺伝子の本体(今はDNAが遺伝子の本体である)と生体触媒(今はタンパク質でできた酵素が生体触媒として使われている)の両方を担っていたと思われる大昔の世界をRNAワールドとよぶ。ちなみに、リボソームの翻訳の活性は、rRNAの部分にあることがわかってきた。多くのRNAが、タンパク質のように、細胞内で触媒として(酵素として)はたらいている可能性がある。現在、機能が未知のRNAも続々発見されている。RNAはDNAとタンパク質のただの仲介役ではないことがわかったのだ。
Q.なんでコドンは3文字なの?
A.わかっていないが、2文字の塩基では20種類のアミノ酸を指定しきれない(塩基は4種類ある。塩基2つの並びでは4×4=16種類のアミノ酸しか指定できない)ので、コドンは3文字ではないかと予想されていた(ビッグバン理論で有名なガモフによって予測されていた)。
●DNAやRNAの鎖には方向性があり、3'末端にしか新しいヌクレオチドが付加されない。mRNAも、3'末端が伸長することで合成される。
●DNAの鋳型鎖を『アンチセンス鎖』、非鋳型鎖を『センス鎖』という。センスとは意味がある、という意味だが、mRNAの配列とセンス鎖の配列が同じ(ただしUはTになっている)であることからそう呼ばれる(しかし少なくない遺伝学者は誤った用語の使い方をしているのも事実である)。遺伝子を人に示す際は、ふつう非鋳型鎖(センス鎖)の塩基配列を示す。
●真核生物において、転写の結果できる未成熟なmRNAをmRNA前駆体と呼ぶことがある。mRNA前駆体はスプライシングなどのいくつかの処理を受け、成熟mRNAになってから核外へ出る。
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