高校地理では必ずみんなが習うホイットルセー。なぜそんなに有名なのかというと、彼が行った農業分類が非常に合理的でわかりやすく、全世界の農業の形態を分類することに成功したからです。
だから、ホイットルセーの農業区分はとっても簡単。これから言う五つの指標をしっかり理解しておけば、恐るるに足りません。
補足的な話になりますが、地理学における「農業」には、一般に想像されるような作物を育てるものだけではなく、家畜を飼い乳や肉、毛を利用するものも含まれます。
ホイットルセーは、農業を分類するにあたって以下の五つの点に注目しました。
これだけではわかりにくいと思うので、ひとつひとつ解説していきましょう。
先ほども少し言いましたが、地理での「農業」という用語は、作物を育て収穫する耕作のほかにも、家畜を飼うもの(有畜農業)も含みます。近所の畑でおじちゃんが野菜を育てているのも農業だし、北海道でしているような、乳牛をたくさん飼って牛乳を出荷する、いわゆる酪農も農業であるわけです。
作物と家畜の組み合わせに注目すると、この例のような、家畜を全く使わないものから家畜の飼育専門の農業まで、さらには家畜と耕作を組み合わせた混合農業まで分類することができるのです。
抽象的な言い方になってしまいましたが…これが指す対象は非常に幅広く、一言で言い表すことができません。ですから、少し具体例を出して実感を持ってほしいと思います。その程度で構いません。
たとえば、遊牧と酪農。どちらも家畜主体の農業であるという点では共通しています。しかし、実体は全く別。かたや遊牧では家畜を放牧し、家畜はその辺の草原を好き勝手に走り回っているわけですが、かたや酪農では牧場で乳牛を飼育し、多くは舎飼い(牛舎で飼う)で、時間になると牝牛は乳搾りに行く。全く別ですね。


家畜の飼育に限らず、耕作でも育て方はけっこう異なっています。アメリカやオーストラリアのような、広大な農地で大型機械を使って行う大規模農業と、日本の農家がやっているような稲作は性格が違いますよね。
生産された農作物がどこに行くのか、という話です。
という違いです。
この用語、特に集約度については少し説明すると長くなるので、詳しい説明はこちらをご覧ください。
ここでは生産性についてお話ししましょう。生産性の中でも、地理の農業分野では労働生産性と土地生産性が取り上げられることが多いですね。
を指します。
労働生産性とは、端的に言えば人間がどれくらい楽をして収穫を得られるか、ということです。
田植えから稲刈りまで全部手作業でやった農家と、田植え機で田植えして農薬を撒いて草取りの手間を減らしコンバインで収穫した農家がいたとします。
両者の収穫量が同じであれば、後者の方が労働生産性が高いと言えますね。
土地生産性とは、要は同じ面積でどれだけ多く収穫できたかという話で、肥料を投入したり灌漑設備を整えてしっかり水やりをしたりすれば上がります。また、もともと土地が肥えているか痩せているかでも変わります。
農業をするうえで特別な施設が必要かどうか、ということです。農業の中には特別な建造物(設備)が必要なものがあります。
酪農がいい例です。酪農を商業ベースに乗せようと思ったら、数億円単位の設備を整えなければなりません。牛の乳を搾る搾乳機が必要ですし、搾った乳を加工する工場が必要です。工場では乳を保管し、ホモジナイズし、殺菌し、瓶詰めし、といった工程が行われます。
つまり酪農には畜舎や牛乳工場といった特殊な建造物が必要ということですね。逆に畑作なんかは特に大規模な設備はなくてもよいですし、農業もいろいろあるもんです。
ひとつ質問をしましょう。日本の農業は自給的でしょうか? 商業的でしょうか?
昨今、日本の食料自給率の低さが叫ばれ、日本は外国に農作物を輸出することなんてほとんどできていません。日本産の農作物のほとんどが日本国内で消費されます。だからなのか、この質問に対して「日本の農業は自給的である」と答えてしまう人が多いのです。
ところが、日本の農業はほとんどが商業的農業に分類されます。もちろん自給的農家も存在しますが、多くは販売目的で農作物を生産し販売しています。
ちょっと考えてみてください。みなさんの家は農家ですか? おそらくほとんどの答えは、NO。それもそのはず、日本の農家の人口は全人口の1%にも及びません。そんな数少ない農家が、全日本人が食べる食料の約67%(生産額ベース)にも及ぶ農作物を生産しているのです。つまり、作られた農産物のかなりの割合が販売されているということですよね。農家も当然、販売を前提に農業を行っているわけです。
そもそも自給的・商業的の区分は、国単位の輸出入ではなく農家個人が販売するかどうかの話。したがって、日本の農業は商業的性格が強いと言えるわけです。
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