概要
「塩の加水分解」とは、塩が水に溶けて酸や塩基が発生する反応のこと。弱酸や弱塩基由来のイオンが、電離平衡の関係で水とくっついてやを発生します。
【例】
塩の加水分解によって、弱酸のイオンからはが、弱塩基のイオンからはが生じます。これにより、塩の液性は以下のように決まります(正塩の場合)。
- 強酸+強塩基の塩は、中性(例:)
- 弱酸+強塩基の塩は、塩基性(例:)
- 強酸+弱塩基の塩は、酸性(例:)
- 弱酸+弱塩基の塩は、弱酸と弱塩基の種類次第
詳細
仕組み
弱酸+強塩基の場合も、強酸+弱塩基の場合も、仕組みは同じです。だから今回は、弱酸+強塩基の例であるで考えます。塩の加水分解は、が大好きな弱酸のせいで起こります。
100粒のを水に溶かすと、完全に電離して100粒のが発生します。

本来、たとえば100粒の酢酸を水に溶かせば、せいぜい1〜2%くらいしか電離しません。ちなみに今は説明のために雑な言い方ですが、電離定数を使って考えれば具体的に考えることもできます(*補足1)。

それなのにでは、全てのをひっぺがされた状態です。つまり、もし周りにがあれば是非ともくっつきたい状態です。
これを踏まえて水溶液中をみると、溶媒である水が、
のようにほんの少しだけ電離しています。水だってほーーーんの一部しか電離はできず、ほーーーーーんの少ししかを出していませんが、だって超絶を欲しがっているので、ちょっとだけならを受け渡せます。

以上の反応の結果をまとめると、
となり、右辺のの分だけ塩基性になります。
pHの計算(弱酸+強塩基の例)
たとえば、弱酸と強塩基で中和滴定をした場合、中和点は塩基性よりになります。これは、中和点で生じたが塩の加水分解を起こすことが原因です。よって、中和滴定の中和点のpHを求めたい場合などは、塩の加水分解の電離平衡を考える必要があります。
塩の加水分解によるpHの計算は2ステップ。
- 反応の量的関係から、やを電離定数で表す。
- 加水分解の電離定数を、弱酸(弱塩基)の電離定数()や水のイオン積で表す。
です。今回も、
を例に考えます。
まずはステップ1。もし電離定数を定義するなら、
となりますが、水溶液中で水は十分量が多く、多少平衡が移動しても一定とみなせるので、
を加水分解の電離定数としてしまいます。
これを踏まえて、弱酸のpHを求めるとき同様、反応が起こっていない場合のの濃度を、反応の起こる割合をとして、量的関係を整理すると以下の通り。

よって、は十分小さくに注意すると、
となり、だから、
となります。あとはがわかればpHを計算できます。
続いてステップ2。実はは、弱酸の電離定数と水のイオン積で表すことができます。塩の加水分解は「水が電離し、そのを弱酸イオンが受け取って、弱酸の電離の逆反応を起こす」のだから、感覚的にも表せそうと思えますね(*補足2)。
ここからの変形はかなりトリッキーなので、お決まりの手順として覚えてしまいましょう。
これにより、
となり、が計算できてpHが求まりそうです。
補足
- (*補足1)イメージのしやすさのため「粒」で数えていますが、電離定数は本来「濃度」で定義されていることに注意。
- (*補足2)もしのような反応で、
の場合、2つを掛け算すると、
となって、2段階の反応をまとめた反応の電離定数になります。また、たとえばのような逆反応の電離定数は、
となります。以上を踏まえると「塩の加水分解は、水の電離+弱酸電離の逆反応」だから、
となりそうです。実際、
と定義に一致しています。