地球磁場の起源は外核の液体鉄の対流によるダイナモが知られていますが、実は太古の地球では現在のようなダイナモは機能していなかったと考えられています。それでは原始地球では何がダイナモ作用を起こしていたのか?今年発表された論文から、マントル下部に存在したマグマオーシャンによるダイナモ理論が提案されました。
【目次】
0:00 惑星表面を守る磁場
0:24 地磁気はいつ出現したのか?
0:54 遅かった内核の形成
1:19 新しい仮説
1:59 基底マグマオーシャンによるダイナモ
2:53 生命の起源、系外惑星への示唆
【参考文献】
J.A. Tarduno et al. (2010) Geodynamo, Solar Wind, and Magnetopause 3.4 to 3.45 Billion Years Ago. Science 327, 5970, 1238-1240.
https://doi.org/10.1126/science.1183445
O’Rourke, J., Stevenson, D. Powering Earth’s dynamo with magnesium precipitation from the core. Nature 529, 387–389 (2016).
https://doi.org/10.1038/nature16495
Stixrude, L., Scipioni, R. & Desjarlais, M.P. A silicate dynamo in the early Earth. Nat Commun 11, 935 (2020).
https://doi.org/10.1038/s41467-020-14773-4
大型放射光施設Spring-8 解説記事「地球の内核はいつ出来たのか?」
http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/research_highlights/no_89/
【画像素材】
NASA/GSFC/JPL-Caltech
【字幕全文】
惑星の磁場は、宇宙から降り注ぐ放射線を遮蔽して、
生物を守るだけでなく、
太陽風による大気や水のはぎ取りを防ぐ役割も持っており、
惑星のハビタビリティーを左右する重要な要素です。
現在の地球では鉄を主成分とする 液体外核の対流による、
ダイナモ作用によって地磁気が発生していることが知られています。
しかし地球の歴史上、ダイナモ作用がいつ出現したのか、
さらには原始地球でも現在のような磁場が維持されていたのかどうか、
実ははっきりとわかっていません。
2010年にサイエンス誌に掲載された論文で、34億年前の地質試料から、
地球は少なくとも34億年前から地磁気を維持していたことがわかりました。
しかし近年、外核のダイナモだけではそんなに古い時代から、
地磁気を発生させることができないのでは、という報告が相次いでいます。
そもそもダイナモを発生させるためには、外核の外側が十分に冷えて、
内側から対流で熱を輸送できるようになる必要があります。
しかし、理論計算や高圧実験から、内核が形成されたのは、
比較的最近のことであり、10億年前より新しいと推定されました。
内核が存在せず、コア全体が高温だった時代に、
どのように磁場が生じていたのか、大きな謎が生まれたのです。
この問題に対して、今年の2月25日に、
ネイチャー・コミュニケーションズで発表された論文で、
今まで考えられてこなかった、新しい磁場の発生方法が提案されました。
これまで地球磁場の生成は鉄のコア内部での対流運動に、
注目が置かれていました。
しかし太陽系の他の惑星に目を向けると、磁場を発生させるのは、
鉄のコアだけではありません。
例えば天王星と海王星の巨大氷惑星では、
惑星内部でイオン化された氷の対流によって、
磁場が生じていると考えられています。
また、木星と土星の巨大ガス惑星では、金属水素の対流によって、
強力な磁場が発生していると推測されています。
論文の著者らは、原始地球のコアとマントルの境界付近に、
岩石が溶融した マグマ・オーシャンが存在していたと仮定しました。
そして原始地球内部の温度圧力条件を想定して、
マグマオーシャンの電気伝導度を第一原理計算によって求めたところ、
ダイナモを作用させるほどの値に 達することを確認したのです。
さらに、電気伝導度から計算された磁場の強度が、
34億年前の地質試料で計測された地磁気の強度と、
調和的であることもわかりました。
マグマオーシャンは次第に冷えていき、
対流性を失っていくので、どこかの時点で、
鉄のコアによる磁場生成が働くようになり、
役割を交代したと著者らは推定しています。
そのように都合よく、マグマオーシャンによるダイナモと
鉄のコアによるダイナモが切り替わるのか、現時点では不明ですが、
今回の論文のアイディアは、固体惑星の磁場の起源が一つではない、
ということを示した点で画期的です。
原始の地球で生命が誕生したのは40億年から35億年前と考えられており、
磁場が存在したかどうかは、生命の起源にも関わる重要なテーマです。
系外惑星のハビタビリティーを考える上でも今後重要となってくるでしょう。
地球よりも高温のコアを持つ岩石惑星の存在は十分考えられるため、
そういった系外惑星では、鉄のコアではなく、
マグマオーシャンによって生成されるダイナモが磁場を生成することで、
ハビタブルな環境が実現されているのかもしれません。
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