アプリ「okke」で効率よく学ぶ!

金星は最近まで生命が住めるような環境だったのか?【論文紹介】


惑星科学チャンネル Planetary Science Channel

4分21秒

シリーズ

地球型惑星 #5

再生速度:1倍速

説明

「金星は誕生してからほとんどの期間、生命が住めるような環境であり、ごく最近気候が変化したのかもしれない」今年の5月8日に惑星科学の一流誌で発表された論文が注目を浴びています。金星は灼熱の惑星であるという私たちの常識を覆すような内容ですが、具体的にどのような議論が展開されているのか、見ていくことにしましょう。

【目次】
0:00 序章
0:24 2つの金星進化シナリオ
1:31 ハビタブルな金星の追求
2:19 仮定した条件
2:40 驚くべき結果
3:59 系外惑星への示唆

【参考文献】
Way, M. J., & Del Genio, A. D. (2020). Venusian habitable climate scenarios: Modeling Venus through time and applications to slowly rotating Venus-like exoplanets. Journal of Geophysical Research: Planets, 125, e2019JE006276.
https://doi.org/10.1029/2019JE006276

Way, M. J., A. D. Del Genio, N. Y. Kiang, L. E. Sohl, D. H. Grinspoon, I. Aleinov, M. Kelley, and T. Clune (2016), Was Venus the first habitable world of our solar system?, Geophys. Res. Lett., 43, 8376–8383.
https://doi.org/10.1002/2016GL069790

D.H. Grinspoon & M.A. Bullock (2006) Exploring Venus as a Terrestrial Planet. Geophysical Monograph Series 176. doi: 10.1029/176GM12
https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/book/10.1029/GM176

Maltagliati, L. Lasting habitability. Nat Astron 4, 442 (2020).
https://doi.org/10.1038/s41550-020-1110-7

【画像素材】
NASA, Goddard Space Flight Center, Space Engine, ESA

【字幕説明】
「金星は誕生してからほとんどの期間、
生命が住めるような環境であり、ごく最近気候が変化したのかもしれない」
今年の5月8日に惑星科学の一流誌で発表された論文が注目を浴びています。
金星は灼熱の惑星であるという私たちの常識を覆すような内容ですが、
具体的にどのような議論が展開されているのか、
見ていくことにしましょう。

まず現在考えられている、
金星の進化史は大まかに2種類に分けることができます。

一つ目は、金星は形成直後にそのまま暴走温室状態になり、
その時に表層から水が 全て 蒸発して、
現在のような分厚いCO2大気に覆われた、灼熱の惑星になったというもの。

もう一つは、地球と同様に、形成直後に一旦地表は冷えて、
温暖な環境になった後に、時間をかけて徐々にまたはある時突然、
暴走温室状態に陥り、水を失って現在の姿になったと考えるシナリオです。

それでは観測データはどちらのシナリオを支持しているのでしょうか。
実は、金星の過去に迫れるような観測データは非常に限られており、
どちらのシナリオもありうる、というのが現状の答えになります。

しかし1970年代の金星探査によって
地表面が灼熱の環境であることがわかって以来、
一つめのシナリオがどちらかというと支持されており、
二つめのシナリオはあまり注目されてこなかったように思われます。

その理由として、一つめのシナリオでは、
形成直後に一気に現在の金星の状態まで説明できるため、
間に余計なプロセスを挟む必要がなく、
シナリオとして より単純であるから、というのが大きいと考えられます。

今回紹介する論文では、これまであまり注目されてこなかった
二つめのシナリオを、もっと真面目に検討しようというのが目的です。

このシナリオに関しては、単純化した1次元の気候モデルでは
可能性が示されてきたものの、あまり詳細な検討はされてきませんでした。

2016年に初めて3次元気候モデルを用いた原始金星大気の研究が
短いレター論文として出版され、大きな注目を受けました。
今回の論文は同じ著者たちが、この2016年の論文をさらに発展させて、
より広い範囲のパラメータースタディを行ったものです。

著者の二人はNASAゴダード宇宙科学研究所に所属しており、
こちらで開発されている3次元気候モデルが使用されました。

もともと地球用に開発された気候モデルですが、
金星の大陸分布や自転速度を再現するよう改造し、
また大気組成を様々に変えて、
合計45パターンのシミュレーションを走らせました。

過去の金星の大気についてはわからない点が当然多いので、
いろいろな仮定を置く必要がありますが、
特に重要なものとして、大気組成は主に窒素とCO2、メタンで構成される
地球型の大気を仮定していること、
また、原始金星で地球と同様にプレートテクトニクスが起こり、
炭素循環が機能すると仮定している点が、重要なポイントです。

ここではシミュレーションの全ての結果を紹介する時間はないので、
いくつかの興味深い結果と議論だけを紹介します。

・金星がハビタブルな状態は最長で30億年ほど続いた可能性がある。
わずか数億年前までハビタブルだった可能性すらある。
・一般的に信じられているように、
金星は太陽に近いから灼熱になったのではない。
むしろ太陽の日射の効果はあまり関係ない。
・では何が金星のハビタブルな時代を終わらせたのか。
おそらく、数億年前に金星全域で同時多発的に発生した火山噴火だろう。
この火山噴火によって大量のCO2が大気中に放出され、温室効果によって
現在の灼熱状態になった。
・もしこの噴火イベントが起こらなかったら、
現在も金星はハビタブルであった可能性がある。
・地球も金星のようになった可能性がある。
地球と金星の運命を分けたのは、
火山の噴火イベントが一つの時代に集中するかどうかだった。
地球は運良く、噴火がいくつかの時代に分散したが、
金星は運悪く、数億年前に噴火が集中したことで、
気候システムのバランスが崩れ、不可逆的に温暖化してしまった。

いかがでしょうか。非常に物議を醸すような文章が並んでおり、
私自身、論文を読んでいて目を疑うところもありました。

冒頭で申し上げた通り、この論文のシナリオを積極的に支持する
観測的証拠はありませんが、
一方で現在の観測データと矛盾するわけでもないため、
あくまでも理論的な枠組みで考えると、
こういう金星進化のシナリオもありうるというスタンスです。

今回紹介した論文はNature Astronomyでもハイライト研究として
取り上げられており、なぜ地球と金星がこれほど異なる運命を辿ったのか、
また系外惑星のハビタブルゾーンを考えていく上でも
今後注目すべき論文と見なされていくでしょう。

それでは今回もご視聴ありがとうございました。
良かったらチャンネル登録、お願いします。

#惑星科学チャンネル #PlanetaryScienceChannel #行星科学频道
... 続きを読む

タグ

惑星科学チャンネル Planetary Science Channel
# 惑星科学チャンネル
# 金星