金星には現在も活火山が存在するのか?今年ScienceとNature姉妹紙で発表された、岩石風化実験とコロナ地形に関する研究から、謎に包まれた金星の地質活動に迫ります。
【目次】
0:00 全く異なる双子
0:30 マゼランによる観測結果
0:55 二つの表面更新仮説
1:38 若い溶岩流の発見
2:25 金星のコロナ地形
3:27 現在も継続中の金星の地質活動
【参考文献】
S.E. Smrekar et al. (2010) Recent Hotspot Volcanism on Venus from VIRTIS Emissivity Data. Science 328, 5978, pp. 605-608.
https://science.sciencemag.org/content/328/5978/605
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https://advances.sciencemag.org/content/6/1/eaax7445
Gülcher, A.J.P., Gerya, T.V., Montési, L.G.J. et al. Corona structures driven by plume–lithosphere interactions and evidence for ongoing plume activity on Venus. Nat. Geosci. 13, 547–554 (2020).
https://doi.org/10.1038/s41561-020-0606-1
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https://doi.org/10.1007/978-1-4614-9213-9_439-1
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https://doi.org/10.1023/A:1006227431552
Deniel, C., Vincent, P.M., Beauvilain, A. et al. The Cenozoic volcanic province of Tibesti (Sahara of Chad): major units, chronology, and structural features. Bull Volcanol 77, 74 (2015).
https://doi.org/10.1007/s00445-015-0955-6
【映像素材】
NASA/GSFC/JPL-CalTech, Don P. Mitchell, ESA, SpaceEngine
【字幕全文】
金星がなぜこれほど地球と異なる運命を辿ったのか。
その原因となった重要な要素と考えられているのが惑星の地質活動です。
金星は地球とほぼ同じ大きさで、しかも似たような岩石組成を持つため、
当然地球と似たような地質活動を持つと、かつては考えられていました。
しかし90年代に行われたマゼラン探査機による、
金星地表面のレーダー観測によって、
地球と全く異なるタイプの地質活動を持つことがわかったのです。
マゼランの観測結果を要約すると、
1. クレーターの分布がほぼランダムである
2. ほとんどのクレーターが、火山や断層の影響を受けておらず、
形成当初の形をそのまま残した新鮮なクレーターである
ということがわかりました。
つまり金星は地球と異なり、
惑星全体がほぼ同じ表面年代を持っており、
数億年前に作られた場所ばかりであることが明らかになったのです。
こういった観測事実を説明するために二つの仮説が提案されています。
一つ目は破滅的表面更新説。
数億年前に金星の表面全体を一気に更新するような、
非常に大規模な地質活動が生じ、
その後はほとんど活動がなくなって現在の姿になったというモデルです。
二つ目は平衡更新説。
金星表面は至る所で少しずつ表面を更新するような活動が起きており、
それによって常にクレーターの生成と破壊が釣り合いを保ち、
現在観測されるような若い地表が維持されているというモデルです。
どちらも一長一短ありますが、
二つのモデルを制約する上で鍵を握ると見られるのが、
「今現在、金星は活動しているのか?」という問題です。
2010年にサイエンス誌で報告された論文では、
ヨーロッパの金星探査機 ビーナス・エクスプレスの観測によって、
風化をほとんど受けていない新鮮な溶岩流らしき場所が発見され、
その年代が250万年前より若いと見積もられたことから、
金星表面に現在でも地質活動が存在する可能性が初めて示唆されました。
この時の論文では金星表面の風化率が不明だったため、
溶岩流の年代見積もりに大きな不定性がありましたが、
今年の1月に金星表面の岩石の風化率を調べた論文が、
サイエンス姉妹誌で発表されました。
これによってビーナス・エクスプレスで観測された溶岩流が、
わずか数千年程度の年代であることが示され、
金星表面が現在も地質学的に生きている可能性がさらに強まったのです。
また今年の8月にネイチャー・ジオサイエンスで発表された論文で、
別方面からこの発見を支持する重要な報告がありました。
この論文で注目したのはコロナと呼ばれる金星特有の地形です。
コロナはソ連の金星探査機 ヴェネラ15号と16号の観測結果をもとに、
1986年に初めて報告された地形です。
直径が数十kmから1000kmに及ぶドーム状の地形で、
金星全体で500個ほど確認されています。
コロナの成因は諸説ありますが、
マントルから上昇してきたプルームが地殻を押し上げ、
その後プルームが水平方向に広がり、
最終的には冷却して中央部が凹む、
といったメカニズムが提案されています。
コロナのような地形は、実は地球ではほとんど見つかっておらず、
金星の地殻が地球よりも固いことや、
プレートテクトニクスの有無が、
違いを生み出したのではないかと議論されています。
今年8月の論文では、3次元数値シミュレーションによって、
コロナの生成過程を調べ、また観測データとの比較も行われました。
その結果、37個のコロナが現在も、
地質的に活動している可能性があることが示唆されました。
これらの研究を総合すると、金星表面では現在も、
地質活動が継続している可能性が高いことから、
破滅的更新説ではなく、平衡更新説を支持する観測結果と言えます。
今後も金星の地質活動を解明していくことで、
地球と金星の運命を分けた原因に迫っていくことができるでしょう。
それでは今回もご視聴頂き ありがとうございました。
次回は新しく発見された新種の系外惑星の話題を考えています。
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それではまた。
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