新型コロナウィルスが連日ニュースを騒がせていますが、つい最近、1万5千年前のチベットの氷河の中から、新種のウィルスが発見されました。氷の中から蘇った古代のウィルスによる感染症の危険はないのでしょうか?
(目次)
0:00 遊星からの物体X
0:53 氷河に含まれる微生物の数
1:36 チベット高原でのサンプル採取
2:04 発見された新種のウィルス
2:15 1万5千年前の時代
2:46 太古のウィルスを復元する危険性
3:11 シベリアで発生した「ゾンビウィルス」
3:30 冷凍保存されたウィルスも感染力を持つのか?
(参考文献)
Glacier ice archives fifteen-thousand-years-old viruses, Z.P. Zhong et al., submitted.
https://doi.org/10.1101/2020.01.03.894675
Thirty-thousand-year-old distant relative of giant icosahedral DNA viruses with a pandoravirus morphology, M. Legendre et al. (2016) PNAS vol. 111, no. 11, 4274-4279.
https://doi.org/10.1073/pnas.1320670111
【音楽素材】
https://www.bensound.com/
【画像素材】
NASA, Pixabay、Space Engine
【字幕説明】
みなさん、こんにちは。
学校で教えてくれない今どきの惑星科学の話をします。
みなさんは「遊星からの物体X」という映画をご存知でしょうか?
数万年前に南極に落下した物体の中に、生物に寄生する能力を持った、
地球外生命体が潜んでおり、南極探検隊を次々と襲うという、
SFホラー映画の傑作です。
この映画に限りませんが、氷の中に潜んでいた古代の微生物がよみがえる、
というストーリーは、SF小説などでは、お馴染みの展開かもしれません。
しかし、現在の地球上で、実際に氷の中から、
古代の微生物が発見されることはあるのでしょうか。
氷河の中から太古の微生物を発見することができれば、
その時代の地球の環境を推定することができ、
地球の気候変動を解き明かす、重要なデータとなります。
しかしこういった研究例はまだ少ないのです。
その最大の理由は、氷河の中に保存されている微生物の数が、
そもそも非常に少ないためです。
一般的に海水に含まれる微生物の数は1ml中に1万から100万個程度ですが、
氷河の中の微生物の数は、100個から1万個程度です。
つまり、氷河の中には、海水に比べて、
およそ100分の1の数の微生物しかいないということです。
数が少ないということは、その分、検出するのも難しいのです。
私たちが住んでいる日常の空間には、ありとあらゆるところに微生物がいるため、
採取したサンプルを解析する際には、できるだけ無菌の状態を保ち、
周囲からの汚染(コンタミ)を抑えないといけません。
生物系の研究は常にコンタミとの闘いなのです。
2015年に、オハイオ州立大学を中心とする、
米国と中国の合同調査チームが、
中国北西部のチベット高原にある、グリヤ氷帽と呼ばれる
山岳氷河でアイスコアのサンプルを採取しました。
アイスコアの採取は、山頂と山腹の2地点で行われ、
最大で50メートルの深さまで掘るという、大規模なものでした。
研究チームは、採取したアイスコアを汚染しないよう、
厳密な手順を踏みながら、中に冷凍保存されている微生物を採取し、
DNA解析を行いました。
その結果、33種類の系統のウィルスが発見され、
そのうち、なんと28個が全く新種のウィルスであることが、
明らかになりました。
この時採取されたアイスコアの年代は、1万5千年です。
ちなみに1万5千年前というのは、人類が犬の家畜化を始めた頃であり、
海面上昇によって日本列島が大陸から分離しつつある時期でもあります。
日本列島から最古の土器が出土したのも、この頃です。
このように、1万5千年前の氷河から、
多くの新型ウイルスが発見されたことは、
科学界にとっては大きなニュースとなりました。
研究チームの論文は現在、査読中であり、
bioRxivにおいてプレプリントを入手することができます。
さて、皆さんの中に、こう思った人はいないでしょうか。
「危なっかしい古代のウィルスを蘇らせて大丈夫なのか?」
基本的に、こういった研究ではコンタミを防ぐために、
厳重なクリーンルームの中で作業します。
また、私たちの身の回りには、もっと危険なウィルスが
たくさん存在するため、あまり深刻に考える必要はないでしょう。
しかし、古代のウィルスが原因となって感染が拡大した例が、
近年報告されました。
2016年にシベリアで炭疽菌による大規模な感染症が発生し、
トナカイ2000匹が死亡し、96人の住人が入院するという事件が起きました。
この時感染症を引き起こした炭疽菌は、シベリアの永久凍土の融解に
よって、拡散したと考えられています。
しかし何万年ものあいだ、凍結されていたウィルスに、
そんな感染力があるのでしょうか。
これに関しては、2014年に米国科学アカデミー紀要で
発表された論文が参考になるでしょう。
永久凍土から採取された3万年前の巨大DNAウィルスを培養したところ、
アメーバに感染する能力を、いまだに持つことが報告されたのです。
「事実は小説よりも奇なり」
SF映画のような話が、実際に起こりうる可能性があるわけです。
地球温暖化によって、氷河や永久凍土の融解が進んでいる昨今、
氷の中から蘇った古代のウィルスによる感染症のリスクは、
確実に上がってきているのです。
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