【 note : https://note.com/yaguchihappy 】
MHCについて講義します。
問題:樹状細胞が、MHCに抗原の断片を乗せ、T細胞に提示することを何というか。
答え:抗原提示
問題:提示された抗原断片を、MHCごと認識する、T細胞のもつ受容体の略称を何というか。
答え:TCR
*MHCに関する少し詳しい講義はこちら↓
• MHCクラスⅠ・クラスⅡ 高校生物基礎発展
●ヒトの主要組織適合遺伝子複合体(MHC)がコードするタンパク質を、HLA(ヒト白血球抗原)といい、HLAクラスⅠ分子としてHLA-A,B,Cが、クラスⅡ分子としてHLA-DR,DP,DQが、第六染色体上のHLA遺伝子領域にコードされている。HLAという語以外基本的に覚える必要はない。
●MHCには2つの分子種、すなわちクラスⅠとクラスⅡが存在する。クラスⅠは生体のほぼすべての組織に強く発現していて、細胞内に侵入したウイルス断片や癌特有のタンパク質などを細胞膜表面に提示している。(この提示はキラーT細胞に対するメッセージである。自分の中にウイルスがいる、または、自分は癌化している。はやく自分を壊してくれ、とキラーT細胞に伝えているのである。だから、大学入試ではそう書いてはいけないが、ある意味『ほぼすべての体細胞は抗原提示細胞なのである』。大学入試的には抗原提示細胞はマクロファージや樹状細胞のみを指す。)
●ちなみに赤血球はMHCが発現していない。だから僕らはMHCの違いによる拒絶反応の心配をせず『赤血球移植』を、つまり『輸血』を行うことができるのである。
●MHCクラスⅡ分子は、主に樹状細胞、マクロファージなどの抗原提示細胞が発現している。言うならMHCクラスⅡは(厳密ではないが)抗原提示細胞専用MHCである。『MHCクラスⅡ分子+食作用によって取り込まれ断片化された抗原断片』を、ヘルパーT細胞はTCRで認識する。
●TCRは『MHC上に提示された抗原断片』を認識することはできるが、『抗原分子そのもの』を直接認識することができない。これは抗原分子と直接結合できるB細胞受容体(抗体分子)との大きな違いである。
●用語を整理しておく。
MHC(主要組織適合抗原複合体)=MHCタンパク質(MHC分子)をコードする遺伝子群。
MHCタンパク質(主要組織適合抗原、MHC抗原、MHC分子、MHC)は単に(本動画のように)MHCと呼ばれることもある。細胞内のペプチドを他の細胞に提示するのに使うタンパク質。ホットドッグのような構造をしており、様々なペプチドをのせることができる。
HLA抗原=ヒトの主要組織適合抗原。白血球だけでなく、赤血球を除く全身の細胞表面に存在する。
補足:「MHC」が遺伝子を指しているのか、タンパク質を指しているのかを区別するために、MHCが発現してできたタンパク質を「MHC分子、MHCタンパク質」と呼ぶことが多いが、単に「MHC」と呼ぶこともある(たとえば『スタンダード免疫学』丸善出版、『免疫学コア講義改訂4版』南山堂、『岩波生物学辞典第5版』岩波書店など)。免疫の単元は、すぐに教科書の内容が大きく変わるので、高校生は必ず最新の教科書と資料集で用語の使われ方をチェックし、大学入試では教科書と資料集の解釈にあわせること。細かい用語がたくさん登場して大変だろうが、本質は、『有額脊椎動物は、自己と他者を区別するための、精巧なシステムを獲得した』ということである。
●MHCを用いた獲得免疫の仕組みは主に脊椎動物に見られる。脊椎動物の大きな特徴は、頑丈な『あご』の骨を獲得したことである。あごを獲得した脊椎動物は、積極的に物を食べるようになり、その結果、異物を取り込む機会も増えた。それが、異物を効率的に排除する獲得免疫の進化につながったのだと考えられている。
問題(発展):人のMHCを何というか。
答え:HLA抗原(ヒト白血球抗原、あるいはヒト白血球組織適合抗原)
●HLA抗原をコードする遺伝子をHLA遺伝子という。HLA遺伝子は第6染色体上に、近接して6対存在する。それぞれの遺伝子座には数十~数百の異なる種類の遺伝子が入り得る。他人同士の場合、同じ組み合わせの遺伝子を持っていることは少ない[染色体1本を見た場合でも、数十~数百の遺伝子の種類が6回連続で一致しなければならないので、他人と同じ組み合わせになりにくいのは当然である]。
しかし、これらの遺伝子は完全連鎖しているため、兄弟、姉妹間では、父親から1/2、母親から1/2で同じ組み合わせの遺伝子を受け継ぐことができる。1本の染色体に乗った6個の遺伝子はまとめて子に受け継がれる。6個の遺伝子の組み合わせは他人とはほぼ一致しないが、兄弟姉妹は、両親から、染色体ごと、同じ遺伝子のセットを受け継ぐことができる。親の相同染色体のうち1本が子に伝わることを思い出そう。兄弟姉妹は両親の染色体にあるHLA遺伝子のセットを丸々受け継ぐことができる。つまり兄弟姉妹でHLA遺伝子が一致する確率は1/2×1/2=1/4になる。
●拒絶反応には、主に以下の2つのしくみが関わるらしいことがわかっている。
①直接認識
②間接認識
①では、レシピエント(受容者:移植片を受容する人)のT細胞が、移植片の樹状細胞(ほとんどの組織は樹状細胞を含む)の上のMHCを認識する。これにより、レシピエントのT細胞(たとえばキラーT細胞)が活性化される。
②では、移植片の細胞が、レシピエントの樹状細胞により摂取される。そして、レシピエントの樹状細胞は、ドナー(提供者:移植片を提供した人)由来のペプチド断片(移植片由来のペプチド断片)を、自己のMHCにのせてレシピエントのT細胞に提示する。これによりT細胞が活性化される。
*ただし、②によってキラーT細胞が誘導されても、そのキラーT細胞は移植片を攻撃できない。②によって活性化されたレシピエントのキラーT細胞は、レシピエントのMHC分子によって抗原が提示されていないと、その細胞を認識できず、攻撃もできないことが知られている(移植片は、もちろんドナーのMHCを発現している。よって、②で活性化したレシピエントのキラーT細胞は移植片の細胞を攻撃できない)。なので、②では、ヘルパーT細胞が主に活躍すると考えられている。
①、②の結果、ヘルパーT細胞によるB細胞の活性化(抗体の産生)、(①における)キラーT細胞の活性化による移植片細胞の攻撃などの反応が起きる。
noteに簡単な図がある。
https://note.com/yaguchihappy/n/n24535918fc56
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