慶應義塾大学法学部 工藤敏隆 准教授
タイトル:世界の新潮流、裁判外の紛争解決手続「ADR」の拡充と利用促進
慶應義塾大学法学部法律学科 工藤敏隆准教授はADRと呼ばれる裁判外紛争解決手続の拡充と利用促進をテーマに研究を行っています。
ADRは、紛争の当事者のために公正な第三者が関与して、民事上の紛争を訴訟手続によらずに解決を図る手続で、その整備・充実は、先進諸国を中心に世界の潮流となっています。
「例えば銀行ともめ事が起こってしまったという場合、いきなり裁判所に訴えることも可能ですが、我が国の金融機関は指定紛争解決機関等、そう言った紛争解決の契約を結ぶことが義務付けられています。全銀協のパンフレットを見るとそう言った苦情などがある場合にこちらをご覧くださいといったことが書かれてあります。裁判所だと難しい訴状を作らなくてはならなくて、とても自分では作れなくて、誰か専門家に依頼しなければならないということになります。ADRですと、非常に簡単な形で苦情や紛争解決なんかも受け付けてくれるというところはあろうかと思います。」
米国では1970年代後半以降、訴訟件数の増加による訴訟遅延や訴訟費用高騰などの弊害に対処するため、様々なADRのルートが整備されており、とりわけ民間機関が運営する調停が、様々な分野で広く利用されています。
日本では、裁判所が運営する「司法型ADR」である、民事調停や家事調停の制度が古くから存在し定着していますが、民間機関が運営するADRの利用件数は、他の先進諸国と比べると少ないのが現状です。
「実は国もADRの利用促進に関する法律、いわゆるADR法を作りまして、ADRを利用しやすくし、市民にもよく知られる制度にするための努力を一応行っている段階なんですが、まだまだ道半ばだといえようかと思います。」
2011年3月の福島第一原子力発電所の事故の損害賠償に関する「原子力損害賠償ADR」も研究テーマの1つです。
放射能汚染による被害や風評被害など、過去の類例が極めて少ない損害の評価が争点となっていることに加え、被害者が広い範囲に多く存在するため、被害者間の平等を図りつつ、ADRが持つ簡易柔軟な解決というメリットをいかに発揮するかが課題となっています。
「東京電力と被害者との紛争については、東京電力が直接被害者との間で合意ができれば良いんですけど、合意ができない場合、例えば損害の範囲を巡って争いになった場合については、実はこのADRのしくみが特別な法律によって設けられているんです。これは国が作ったADRで、行政機関が運営しているADRです。実はそう言った原発事故をめぐる損害問題は大部分はADRによって解決されている。」
研究手法としては、このように、いくつかの具体的なADRを取り上げ、当該手続が創られた社会的背景の分析や、外国の制度との比較に基づいて、制度・運用上の課題や改善策の提示を行っています。
「まず民事手続法を学ぶことが基本でありまして、ADRというのはちょっと進んだ分野です。例えば司法試験の科目にはなっていないわけです。ただ、そう言った紛争処理制度全体、要するに裁判だけではありません。やはり、なるべく自主的な解決に近づけるという所が理想だと思いますので、その意味でもADRの重要性はこれからどんどん高まっていくんじゃないかと考えています。」