オペロン説(発展編) 高校生物発展
10分36秒
説明
【 note : https://note.com/yaguchihappy 】
オペロン説についての発展的な講義です(CAPや遺伝子導入問題についても扱います)。
基礎講義はこちら
オペロン説①
• オペロン説①(トリプトファンオペロン) 高校生物
オペロン説②
• オペロン説②(ラクトースオペロン) 高校生物
問題:ある突然変異体は、調節遺伝子に変異がある。この調節遺伝子からは、アロラクトースの有無にかかわらず常にオペレーターに結合する変異リプレッサーが作られる。この突然変異体は、ラクトースの有無にかかわらず、変異リプレッサーがオペレーターに結合し続け、ラクトース分解に関わる遺伝子を発現しない。
さて、この突然変異体に、もうひとつオペロンに関するDNA領域(調節遺伝子、プロモーター、オペレーター、構造遺伝子)を導入した。この突然変異体は、ラクトースがありグルコースがない培地で構造遺伝子を発現するか、しないか。
答え:しない。(もともとあるDNAから作られる変異リプレッサーが、導入したオペロンのオペレーターにも結合し、転写を止めてしまう)
●ラクトースオペロン(ラクトースがあり、グルコースがない場合のみ、ラクトース分解にかかわる酵素群が発現される):グルコースがなくラクトースがあるとき、リプレッサーがはずれる(ラクトースが変化したアロラクトースがリプレッサーに結合する。すると、リプレッサーの立体構造が変化し、リプレッサーのオペレーターに対する親和性が下がる)。その結果、構造遺伝子の転写が活性化される。
●ラクトースオペロンのCAPによる調節:細胞内にグルコースが豊富にある場合、別な仕組みが働き、ラクトース分解に関わる酵素群の転写は抑制されることが知られている(細胞内にグルコースがないとき、大腸菌はcAMPを生産する。cAMPがCAP[環状AMP受容タンパク質]というタンパク質に結合すると、CAPはDNAに結合できるようになり、ラクトース分解に関わる酵素群の転写を活性化させる[オペロンをONにする])。
つまり、①グルコースがなく(CAPが活性化し)、②ラクトースがある(リプレッサーがオペレーターからはずれる)時にのみ、オペロンがONになる。
*ジャコブとモノーが提示したオペロンのモデルは「グルコースとラクトースが両方存在している培地で生育している大腸菌がラクトース分解酵素を発現しないのはなぜか」という疑問に触れなかった。実際は、上述のように、CAPが関係していた。
●トリプトファンオペロン(宿主がトリプトファンを多く食事を含む食事をしている時など、トリプトファンを大腸菌が自分で合成する必要がない場合は、トリプトファン合成にかかわる酵素の発現は抑制されている):リプレッサーがトリプトファンと結合し、活性化される(オペレーターとの親和性が上がる)。活性化したリプレッサーによって、トリプトファン合成酵素(トリプトファンの合成にかかわる数種類の酵素の遺伝子群)の遺伝子の転写が抑制される。
●IやPやOなどの略称は覚える必要はない。一応語呂「一本じゃ!(I P O んZYA)」
●1つのmRNAにlacZ,Y,Aの配列が入ることになる。このように、1つのmRNAに複数のタンパク質の情報が入るのは原核生物の特徴である(真核生物は1つのmRNAにつき1つのタンパク質の情報が入っている)。
●DNAが線状に描かれているが、本来は環状である。念のため。(オペロンは原核生物に特有のしくみである。原核生物のDNAは環状である。)
●lacZはラクトース分解酵素の遺伝子、lacYはラクトースを細胞内に取り込む酵素の遺伝子である。lacAはガラクトシドアセチル基転移酵素だが、そのはたらきの生理的意義についてはまだ完全にわかっていない。
●単一の「オペ」レーターに同時に調節される構造遺伝子を「オペ」ロンと呼んだ。今では、オペロンという語は様々な意味で使われている。定義は厳密には決まっていない。
●ラクトースの非存在下でも、リプレッサーはたまにオペレーターからはずれる(生体分子の相互作用は、ふつう0か1かではない。親和性の問題である。たまにリプレッサーがオペレーター配列からはずれるからこそ、ラクトースを細胞内に取り入れる酵素が発現し、周囲にラクトースが添加された場合に、それを効率よく取り込めるのである。それに、アロラクトースは、ラクトース分解酵素によってラクトースから作られる)。だから、正確には、ラクトースの有無にかかわらず(ラクトースがない場合も多少は)構造遺伝子が発現している。
●大学では、リプレッサーのように、他のDNA鎖に影響を与えることができる因子をトランスに作用する因子(トランス作用因子=転写因子)とよぶ(CAP結合部位[CAPが結合するDNA領域]が転写開始能力に影響を与えるように、『同一の』鎖に影響を与える配列を、シス調節配列と呼ぶ)。
トランス作用因子という考え方は、ジャコブとモノーのオペロン説の基盤となった。
●実際は、ラクトースオペロンの場合、プロモーターとオペレーターは重なっている。トリプトファンオペロンの場合は、オペレーターはプロモーターの内部にある。
●その働きを考えれば明らかだが、調節遺伝子は、ラクトースオペロンのように、必ずしもプロモーターの近くにある必要はない。実際、トリプトファンオペロンでは調節遺伝子はプロモーターから遠く離れたところにある(高校教科書の中には、調節遺伝子のある位置を誤って描いている図もある)。
●遺伝子を書く場合は斜体にするのが普通である。同じアルファベットが遺伝子を表しているのかそこから発現するタンパク質を表しているのか区別するため、遺伝子の方を斜体で書くのである。
●調節遺伝子(I)からつくられるリプレッサー(repressor)は転写を阻害(Inhibition)する。
●CAP(カタボライト遺伝子活性化タンパク質catabolite gene activator protein)については発展。省略されることも多い。CAP結合部位は正確にはプロモーターの内部にある。
●大腸菌はふつう単相である。今回の問題のように遺伝子導入によって複相にすることができる。複相の研究によって、鎖を超えてトランスに作用するリプレッサー(トランス作用因子)の存在が明らかになり、また、オペレーターがシスの状態に連鎖した遺伝子座にのみ作用することがわかった。これらの事実は、ジャコブとモノーがオペロン説を立てる根拠になった。ちなみに、オペレーターはオペロンの発見より後に見つかった。
*動画中の問題は、グルコースがないという条件です。本番では察する必要がありますが、念のため。
0:00 ラクトースオペロンの詳細
3:18 CAPとcAMP
4:55 発展問題(遺伝子の導入)
#高校生物
#オペロン説
#遺伝子
オペロン説についての発展的な講義です(CAPや遺伝子導入問題についても扱います)。
基礎講義はこちら
オペロン説①
• オペロン説①(トリプトファンオペロン) 高校生物
オペロン説②
• オペロン説②(ラクトースオペロン) 高校生物
問題:ある突然変異体は、調節遺伝子に変異がある。この調節遺伝子からは、アロラクトースの有無にかかわらず常にオペレーターに結合する変異リプレッサーが作られる。この突然変異体は、ラクトースの有無にかかわらず、変異リプレッサーがオペレーターに結合し続け、ラクトース分解に関わる遺伝子を発現しない。
さて、この突然変異体に、もうひとつオペロンに関するDNA領域(調節遺伝子、プロモーター、オペレーター、構造遺伝子)を導入した。この突然変異体は、ラクトースがありグルコースがない培地で構造遺伝子を発現するか、しないか。
答え:しない。(もともとあるDNAから作られる変異リプレッサーが、導入したオペロンのオペレーターにも結合し、転写を止めてしまう)
●ラクトースオペロン(ラクトースがあり、グルコースがない場合のみ、ラクトース分解にかかわる酵素群が発現される):グルコースがなくラクトースがあるとき、リプレッサーがはずれる(ラクトースが変化したアロラクトースがリプレッサーに結合する。すると、リプレッサーの立体構造が変化し、リプレッサーのオペレーターに対する親和性が下がる)。その結果、構造遺伝子の転写が活性化される。
●ラクトースオペロンのCAPによる調節:細胞内にグルコースが豊富にある場合、別な仕組みが働き、ラクトース分解に関わる酵素群の転写は抑制されることが知られている(細胞内にグルコースがないとき、大腸菌はcAMPを生産する。cAMPがCAP[環状AMP受容タンパク質]というタンパク質に結合すると、CAPはDNAに結合できるようになり、ラクトース分解に関わる酵素群の転写を活性化させる[オペロンをONにする])。
つまり、①グルコースがなく(CAPが活性化し)、②ラクトースがある(リプレッサーがオペレーターからはずれる)時にのみ、オペロンがONになる。
*ジャコブとモノーが提示したオペロンのモデルは「グルコースとラクトースが両方存在している培地で生育している大腸菌がラクトース分解酵素を発現しないのはなぜか」という疑問に触れなかった。実際は、上述のように、CAPが関係していた。
●トリプトファンオペロン(宿主がトリプトファンを多く食事を含む食事をしている時など、トリプトファンを大腸菌が自分で合成する必要がない場合は、トリプトファン合成にかかわる酵素の発現は抑制されている):リプレッサーがトリプトファンと結合し、活性化される(オペレーターとの親和性が上がる)。活性化したリプレッサーによって、トリプトファン合成酵素(トリプトファンの合成にかかわる数種類の酵素の遺伝子群)の遺伝子の転写が抑制される。
●IやPやOなどの略称は覚える必要はない。一応語呂「一本じゃ!(I P O んZYA)」
●1つのmRNAにlacZ,Y,Aの配列が入ることになる。このように、1つのmRNAに複数のタンパク質の情報が入るのは原核生物の特徴である(真核生物は1つのmRNAにつき1つのタンパク質の情報が入っている)。
●DNAが線状に描かれているが、本来は環状である。念のため。(オペロンは原核生物に特有のしくみである。原核生物のDNAは環状である。)
●lacZはラクトース分解酵素の遺伝子、lacYはラクトースを細胞内に取り込む酵素の遺伝子である。lacAはガラクトシドアセチル基転移酵素だが、そのはたらきの生理的意義についてはまだ完全にわかっていない。
●単一の「オペ」レーターに同時に調節される構造遺伝子を「オペ」ロンと呼んだ。今では、オペロンという語は様々な意味で使われている。定義は厳密には決まっていない。
●ラクトースの非存在下でも、リプレッサーはたまにオペレーターからはずれる(生体分子の相互作用は、ふつう0か1かではない。親和性の問題である。たまにリプレッサーがオペレーター配列からはずれるからこそ、ラクトースを細胞内に取り入れる酵素が発現し、周囲にラクトースが添加された場合に、それを効率よく取り込めるのである。それに、アロラクトースは、ラクトース分解酵素によってラクトースから作られる)。だから、正確には、ラクトースの有無にかかわらず(ラクトースがない場合も多少は)構造遺伝子が発現している。
●大学では、リプレッサーのように、他のDNA鎖に影響を与えることができる因子をトランスに作用する因子(トランス作用因子=転写因子)とよぶ(CAP結合部位[CAPが結合するDNA領域]が転写開始能力に影響を与えるように、『同一の』鎖に影響を与える配列を、シス調節配列と呼ぶ)。
トランス作用因子という考え方は、ジャコブとモノーのオペロン説の基盤となった。
●実際は、ラクトースオペロンの場合、プロモーターとオペレーターは重なっている。トリプトファンオペロンの場合は、オペレーターはプロモーターの内部にある。
●その働きを考えれば明らかだが、調節遺伝子は、ラクトースオペロンのように、必ずしもプロモーターの近くにある必要はない。実際、トリプトファンオペロンでは調節遺伝子はプロモーターから遠く離れたところにある(高校教科書の中には、調節遺伝子のある位置を誤って描いている図もある)。
●遺伝子を書く場合は斜体にするのが普通である。同じアルファベットが遺伝子を表しているのかそこから発現するタンパク質を表しているのか区別するため、遺伝子の方を斜体で書くのである。
●調節遺伝子(I)からつくられるリプレッサー(repressor)は転写を阻害(Inhibition)する。
●CAP(カタボライト遺伝子活性化タンパク質catabolite gene activator protein)については発展。省略されることも多い。CAP結合部位は正確にはプロモーターの内部にある。
●大腸菌はふつう単相である。今回の問題のように遺伝子導入によって複相にすることができる。複相の研究によって、鎖を超えてトランスに作用するリプレッサー(トランス作用因子)の存在が明らかになり、また、オペレーターがシスの状態に連鎖した遺伝子座にのみ作用することがわかった。これらの事実は、ジャコブとモノーがオペロン説を立てる根拠になった。ちなみに、オペレーターはオペロンの発見より後に見つかった。
*動画中の問題は、グルコースがないという条件です。本番では察する必要がありますが、念のため。
0:00 ラクトースオペロンの詳細
3:18 CAPとcAMP
4:55 発展問題(遺伝子の導入)
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