惑星形成論において、ダストの成長が止まってしまう"cmの壁"と呼ばれる重要な未解決問題があります。セントラルフロリダ大学のQ-PACE (CubeSat Particle Aggregation and Collision Experiment) は低軌道上で人工的に原始太陽系円盤のダスト環境を再現し、微小重力環境での衝突実験を行う非常に独創的なミッションです。
(目次)
0:00 技術革新が進む超小型衛星
0:51 ダストの合体成長
2:01 微小重力環境での衝突実験
2:49 Q-PACEの技術仕様
3:57 惑星探査の将来
(参考文献)
S. Jarmak, J. Brisset, J. Colwell et al., CubeSat Particle Aggregation Collision Experiment (Q-PACE): Design of a 3U CubeSat mission to investigate planetesimal formation. Acta Astronautica 155, 131-142, 2019.
https://doi.org/10.1016/j.actaastro.2018.11.029
C. Güttler, J. Blum, A. Zsom, C. W. Ormel and C. P. Dullemond. The outcome of protoplanetary dust growth: pebbles, boulders, or planetesimals? - I. Mapping the zoo of laboratory collision experiments. A&A, 513 (2010) A56
https://doi.org/10.1051/0004-6361/200912852
S. J. Weidenschilling, Aerodynamics of solid bodies in the solar nebula, Monthly Notices of the Royal Astronomical Society, Volume 180, Issue 2, September 1977, Pages 57–70.
https://doi.org/10.1093/mnras/180.2.57
Q-PACE (CubeSat Particle Aggregation and Collision Experiment), Center for Microgravity Research, University of Central Florida
https://sciences.ucf.edu/physics/microgravity/q-pace/
Upcoming ELaNa CubeSat Launches, CubeSat Launch Initiative, NASA
https://www.nasa.gov/content/upcoming-elana-cubesat-launches
NASA’s Space Cubes: Small Satellites Provide Big Payoffs, NASA
https://www.nasa.gov/feature/nasa-s-space-cubes-small-satellites-provide-big-payoffs
(映像素材)
NASA/JPL-CalTech, Virgin Orbit, Center for Microgravity Research/University of Central Florida, ESO/L. Calçada, 国立天文台/4D2Uプロジェクト
(字幕全文)
これまで惑星探査と言えば、
数百億円以上かかる巨大なプロジェクトというのが相場でしたが、
近年、超小型衛星の技術開発が進み、
低コストでありながら、科学探査を行うミッションも出つつあります。
今年の12月末に打ち上げが予定されているELaNa 20ミッションでは、
10個の超小型衛星をバージン・オービット社の、
LauncherOneロケットによって地球低軌道に打ち上げます。
そのうち1つの超小型衛星が、
何十年にもおよぶ惑星科学の未解決問題を解き明かす、
重要な役割を果たすと期待されています。
セントラルフロリダ大学が開発するQ-PACEは、
微小重力環境でダスト同士の衝突実験を行うミッションです。
簡潔に言うと、宇宙空間で人工的に原始太陽系円盤の環境を再現して、
惑星が誕生する過程を調べよう、というものです。
およそ46億年前の原始太陽系円盤は最初、高温のガスから出発して、
温度が徐々に冷えていくにつれて、
微小なミクロンサイズの固体微粒子が凝縮しました。
こういった微粒子(ダスト)が互いに衝突・合体していくことで、
最終的に私たちの惑星に成長していったと考えられています。
ところがこのような成長の途中で、
ダストの成長を阻害する大きな障壁があることが知られてきました。
最初期のダストは、サイズが非常に小さいため、
円盤内のガスによる粘性抵抗を強く受けます。
そのため小さいダストは主に静電気的な力で成長していきます。
しかしダストが大きくなるにつれて衝突速度が速くなり、
衝突した時に破壊される確率が上がってきます。
そしてダストのサイズがcmぐらいになると破壊が卓越するため、
ダストの成長が止まってしまうのです。
この問題は"cmの壁"と呼ばれており、1977年に初めて報告されて以来、
未だに根本的な解決策がなく惑星形成論の重要な課題となっています。
これまでは低速衝突に関する実験データが不足していたため、
理論的なダストの衝突計算の結果に大きな不定性がありました。
そこでQ-PACEでは、超小型衛星を活用して、
実際に微小重力環境での衝突実験を行おうとしています。
こういった微小重力環境での衝突実験はこれが初めてではありません。
高い塔からの自由落下や、放物飛行中の航空機内、
さらには弾道飛行中のロケット上で、衝突実験が行われてきました。
しかしこういった実験では無重力状態が実現される時間が、
数十秒から数分程度と短いため、ダストの成長過程を調べるには、
時間が短すぎるという問題がありました。
Q-PACEの最大の特徴は、低軌道上を長い期間飛ぶことで、
時間のかかる低速衝突をじっくり行うところにあります。
ノミナルのミッション期間は1年間に設定されており、
低軌道での予想滞在期間は5年となっています。
衛星全体の質量は約3kgで、大きな魔法瓶の水筒ぐらいのサイズです。
この中に、微粒子を格納するコンテナや、衝突用の容器、カメラ、
アンテナ、アビオニクスなどが搭載されています。
実験に使われる粒子は、
原始円盤を想定した4種類の大きさの異なる物質が準備され、
それぞれ別々のコンテナに格納された後、
軌道上で段階的に衝突容器内に導入されていきます。
実験容器は電気的なコイルでxyz方向に振動できるようになっており、
これによってランダムな衝突を再現します。
衝突を観察するカメラには、
GoPro Hero 3 Black Editionが使われ、
衛星のバス電源とアビオニクスに直結するように改造して搭載されます。
一般的に超小型衛星は質量の制約が厳しいため姿勢制御が難しいですが、
Q-PACEはランダムな衝突を再現するという性質上、
精密な姿勢制御を必要としない、というメリットがあります。
それでも地上との通信のため、最低限の姿勢制御ができるように、
磁石を用いて衛星と地磁気をアライメントするという、
受動的な方法で制御を行います。
このようにQ-PACEは小さな筐体に多くの斬新なアイディアが詰め込まれており、
格安のミッションでありながら、大きな科学成果が期待されています。
こういったコストパフォーマンスの良い科学探査は、
今後惑星科学の将来を変えていくでしょう。
LauncherOneの最初の打ち上げは今年の5月でしたが、
その時はあいにく打ち上げは失敗しました。
2回目となる次の打ち上げにQ-PACEが搭載されるわけですが、
打ち上げが成功する保証はありません。
しかしQ-PACEのようにコストが低ければ、何度でも再挑戦できるはずです。
巨額の予算をかけた大型探査機と、
格安の超小型衛星が互いに役割を補うことが、
新しい時代の惑星探査の主流となっていくでしょう。
それでは今回もご視聴いただき、ありがとうございました。
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それではまた。
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