【 note : https://note.com/yaguchihappy 】
ヒトの脳の機能・脳幹・脳死について講義します。
*音質が悪くて申し訳ありません。字幕を作ってあるので、ご利用ください。
● 脳には、だいたい上から、大脳、間脳、中脳、小脳、延髄がある。
語呂「悪代官熱中症、え~ん(だい、かん、ちゅう、しょう、えん)」
語呂「え~ん、涙だ、深呼吸しよう(”延”髄は”涙、だ”液の分泌の中枢。”心”臓拍動、”呼吸”運動の調節にも深く関わる)」
語呂「姿勢だめでちゅ(”姿勢”保持、”眼”の運動の中枢は”中”脳)」
語呂「しょうへい運動超切ない(”小”脳は”平”衡を保つ中枢、”運動“の”調節”にも深く関わる)」
*小脳は、習得した技能のプログラムが適切に実行されるように無意識に取り計らい、その結果が計画と合わない時には、いつでも調整するようにしている。小脳が複雑な一連の連続的運動を可能にする。「習うより慣れろ」を実現しているのは小脳である。
語呂「え~ん、今日のチューはノーカンだ("延"髄、"橋"、"中"脳は"脳幹")」
●ヒトの脳
(1)大脳
外側の層(皮質)は細胞体の集まった灰白質で、内部(髄質)は軸索が集まった白質である。
★大脳の皮質ー灰白質
★大脳の髄質ー白質
(脊髄と逆になっている[脊髄では皮質が白質、髄質が灰白質]。非常によく問われる)
*アガサ・クリスティーの作品、名探偵ポワロの口癖は「あなたも灰色の脳細胞を働かせなくてはいけませんよ。」(大脳の皮質は灰白質)
・大脳の皮質には新皮質(しんひしつ)・古皮質(こひしつ)・原皮質(げんひしつ)という領域がある。
*大脳皮質は、大きく、6層のニューロンの構造をもつ新皮質と、層がもっと少ない古皮質と原皮質に分けられる。
*海馬と原皮質を同義とすることもある。
①新皮質
感覚の認知(視覚・聴覚など)、随意運動、精神活動(記憶・思考・理解など)の中枢。ヒトの大脳では、新皮質が非常に大きく発達している(ヒトでは皮質の90%を新皮質が占める)。
②古皮質と原皮質
本能や基本的な感情の中枢。原皮質には海馬が含まれる。
③大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)
古皮質・原皮質およびそれらと関係する部位などを含めた名称(領域は完全には確定していない)。情動、欲求、本能を統合する。原皮質に海馬(記憶に関係)を含む。
*古皮質と原皮質をあわせて辺縁皮質(へんえんひしつ)といい、さらに辺縁皮質と密接に関係する扁桃体(へんとうたい。欲求や感情などに関係する)などを含めて大脳辺縁系と一括し、その機能が論じられることが多い。
*大脳辺縁系(limbic system)は、大脳半球の内側壁の「辺縁(ラテン語でlimbus)」が語源。大脳辺縁系には、さまざまな皮質領域(特に側頭葉と前頭葉の内側領域)と、これらに結合する扁桃体や視床下部などの領域が含まれる。
*扁桃体は、大脳の底部近くに存在するアーモンドの形をした神経細胞の集まりである。生得的行動、情動行動、自律神経機能の発現に関与する。特に、恐怖条件づけ情動反応に関して統合的な役割を果たすと考えられている。
*大脳皮質の大きな特徴は、機能局在である。大脳皮質は領域ごとに異なる機能を担っている。その各領域は「野(や)」と呼ばれている。
*大脳皮質において、運動野および感覚野以外の領域を連合野(れんごうや)という。連合野はヒトで特異的に発達した部位である。連合野は、高度な精神作用の統合機能を持つとされる。前頭連合野(前頭葉にある連合野で、ヒトで特に発達している。より高次な機能を司る)は思考・意志・創造・人格などの、前側頭連合野は記憶の、頭頂-側頭-後頭前連合野(これらの連合野は連続している)は知覚・認知・判断の中枢と考えられている。
(2) 間脳
視床と視床下部がある。視床下部は自律神経系と内分泌系の中枢。
*視床は、嗅覚以外のあらゆる受容器から大脳皮質に伝わる感覚のインパルスを中継している。
(3) 中脳
姿勢保持、眼球運動、瞳孔反射の中枢。
*中脳は眼の動きや、視覚・聴覚反射の協調などに働く。中脳の複数の部位から、眼球運動を制御する外眼筋につながる神経路が生じている。
(4)小脳
随意運動の調節、からだの平衡を保つ中枢。
*小脳に損傷がある場合、運動失調性歩行がみられる。これは、酒に酔って酩酊している時のような歩行に似ている。
(5) 延髄
呼吸運動、血液循環(心臓拍動)の調節・だ液・涙の分泌などの中枢。
*延髄は生命維持上きわめて重要な役割を演じている。延髄は脊髄から直接伸びており、組織的にも機能的にも脊髄に酷似している(ただし、延髄は脳の一部であることに注意)。
*自律神経による血圧調節の中枢は延髄にある。下図はイメージ。副交感神経から分泌されるアセチルコリンは、心筋収縮力・心拍数を抑制することにより血圧を低下させる。交感神経からはノルアドレナリンが分泌される(また、交感神経は副腎髄質からアドレナリンを放出させる[図示していない])。ノルアドレナリン(やアドレナリン)は、心筋収縮力・心拍数を増加させることによって血圧を上げる。
●中脳・橋・延髄をあわせて脳幹という。
*橋=中脳と延髄の間に位置する脳の部分。
*橋の腹側には、橋核がある。橋核は大脳皮質から小脳へ、運動情報・感覚情報を伝える役割を持つ。背側には呼吸や味覚、睡眠に関わる構造がある。
*脳幹には間脳を含めることもある。しかし、間脳は機能的には大脳に近いため、現在は独立させることが多い。今回は、『南山堂医学大辞典』、『カンデル神経科学』(MEDSi)、『スタンフォード神経科学』(MEDSi)の解釈に従った。
*脳幹は、脳全体を樹木に例えた際、大脳を支える幹のように見えることからその名で呼ばれている。
●軸索は神経繊維とほぼ同義であるが、軸索とそれを包む支持細胞(シュワン細胞など)も含めた構造を指す場合に特に用いられることが多い。
●脊髄では、髄質が灰白質、皮質が白質であるので注意せよ(大脳とは逆!!!)。
●「不可逆」とは、元通りにすることができない、という意味である。
●脳幹は、神経の伝導路となっている。また、様々な脳の機能に関与している。脳幹は生命維持に不可欠の部分である。
●海馬は短期記憶の形成に関わる(伝統的には、海馬は短期記憶のみに関わるとされてきた)が、現在では、長期記憶の形成にも関係していることが知られている。海馬の機能を失った患者は、最近の出来事を記憶できないが、ずっと昔のことは思い出すことができた。このことから、海馬は、新しい記憶をつくるのに必要な場所で、短期記憶を長期記憶に変えることに関係しているのではないかと考えられている(海馬は、記憶を関連付け、形成することに関わると考えられている。また、情報は、大脳皮質の別の領域に移って長期的に保持されると考えられている[短期記憶では、情報へのアクセスは海馬へのリンクによって行われる。ただしこれは一時的なものである。長期記憶が形成されるときは、海馬へのリンクが大脳皮質内の別の部位への恒常的な接続に置き換わる]。海馬から大脳皮質へ記憶が転送されるしくみについては、完全には解明されていない)。一般に、アルツハイマー型認知症になると、海馬などから病変がはじまる。そのため、今日あったことを明日には忘れてしまうといったような、短期記憶の障害が起こる場合がある。
短期記憶、長期記憶の定義も、完全には統一されていない。高校生はあまり気にしなくて良い。一般に、ダイヤルする前にさっき調べた電話番号を思い出す、食料を買いに行ったときに必要なものを思い出すことなどが短期記憶として扱われることが多い。対して、長期記憶には、過去の大切な出来事や、家族の名前、自分の名前などが含まれる。
*海馬の2/3を含む領域を切除したH.M.(患者のイニシャル)として知られる患者の症例は有名である(側頭葉てんかん治療のためにこの治療が行われた。この症例によって、海馬が記憶の形成において重要であることがはっきりしてきた)。手術の後、彼はひどい前向健忘症(手術後の出来事の一部を記憶できない)に見舞われた。彼の短期記憶は失われていた(ただし、短期記憶の定義によって、この患者の症例の解釈は異なる。患者の短期記憶は正常であったとすることもある)。本動画における海馬についての解説については、渡辺雅幸著『よくわかる神経内科学』(中山書店)、高校教科書『生物』(実教出版)、『チャレンジ!生物学オリンピック3動物解剖学・生理学』(朝倉書店)の記述等を参考にした。詳しくは大学で学んでほしい。
● 海馬を損傷すると、新しいことを覚えることができなくなるが、昔のことは思い出せる。このことから、海馬は、新しい記憶の形成や、長期記憶への移行などに関係すると考えられている。
● 最近では、脳死は、臓器の移植に関する法律(臓器移植法)に関連して議論されることが多い。かつては、心臓・肺・脳の全機能が不可逆的に停止することをヒトの死と見なしてきたが、近年になって、人工呼吸器により、脳死の状態が長時間持続するようになった。脳死は、人工呼吸器の進歩がもたらした新しい死の概念といえる。日本では、「脳死は個体死か」という議論を経て、臓器の移植に関する法律が施行され、一定の条件のもと、脳死体からの臓器摘出が可能となった(臓器提供が承諾され、厳密な手続きを経て法的に脳死と認められれば、脳死は個体死として、臓器が摘出される)。
● 骨格筋の運動など、体性神経が司る機能を動物機能、自律神経が司る内臓機能を植物機能と呼ぶことがある。動物機能が失われ植物機能が残っている状態を「植物状態」という場合があり、意識はないが、脳幹の機能はほぼ正常であり、自発呼吸は維持される(「脳卒中や頭部外傷などにより昏睡状態に陥り、死線をさまよったのち開眼できる状態にまで回復したものの、周囲との意思疎通を完全に喪失した患者の示す症候群」を遷延性意識障害といい、一般に、大脳が障害されているが、脳幹機能はほぼ正常である。この状態がしばしば植物状態・植物人間と俗称される。しかし、植物状態・植物人間という呼び方は、患者の人権を考えると、適切ではない)。
*「植物状態」「植物人間」が、「患者の人権を考えると適切な言葉ではない」という意見は、個人的な意見でもあるが、『南山堂医学大辞典 20版』(南山堂)に従った表現である。
● 狭義では、脳幹のみの機能停止を脳死と定義することもある。
● 大脳の機能の分業・語呂合わせなどについての動画はこちら↓
• 脳の部位・機能の語呂合わせ 高校生物・生物基礎
● 脳についての詳しい資料はこちら↓
https://note.com/yaguchihappy/n/n40bd955f4c12
0:00 脳の機能
2:40 大脳の構造
3:54 脳幹
4:20 脳死
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