高校地理の文脈で重要なのは、かつての共通農業政策の問題点。
以下、それぞれのポイントを詳しくみていこう。
※現在、共通農業政策は大幅な改革が行われ上記のような問題点は概ね解決している。
共通農業政策の最大の目的はEU域内の農業振興による食料自給率の向上だった。
そのためには農家の所得を保障すべきという考え方から、農産物の最低価格をEUが決定することとなった。
最低価格より高い値段で農作物が売れるので、農家の所得は向上した。
欧州はアメリカよりは農業も弱い(生産性が低い)し、最低価格制度もあるため欧州の農産物価格は国際市場よりも高い。
したがって、EU域内と同じ価格で域外に輸出しようとしても誰も買ってくれない。
そこで、EUは輸出補助金をつけ、海外に安く売っても利益が出るようにした。
EUの農産物は外国産より値段が高い。米国などより農業の効率が悪く、最低価格制度もあるためである。
そのため、安い外国産の農産物が流入してきたら競争に負けてしまう。
これを防ぐため、輸入農産物には課徴金を徴収し、EUの最低価格と同じ価格になるようにして域内農業を保護した。
以上のような保護政策により、EUの農家は作れば作るほど儲かる状態になっていたため、EUの農業生産はどんどん増加した。
その結果、輸出しても余るほど農産物の在庫が大量に積み上がり、大量の廃棄が発生する深刻な事態となった(「バターの山」・「牛乳の湖」「肉の山」)。
という姿勢は国際社会(特に米国)から批判を浴び、GATTウルグアイ・ラウンドやWTOでも政策の是正が要求された。
最低価格を維持するための買入れ、在庫管理、輸出補助金などによってEUは多額の支出を迫られ、EU財政を圧迫した。
1980年には、共通農業政策にかかわる支出がEU全体の予算の73.2%に達したほどだった。
このような財政負担の重さも、共通農業政策の見直しがされるきっかけとなった。
青の棒グラフは共通農業政策に係る支出額、オレンジの折れ線はEU全体の支出に占める割合である。農業関連の支出割合が年々低下していることがわかる。
(欧州委員会HP)
以上のような反省を踏まえ、現在の共通農業政策は大きく異なるものになっている。
価格支持政策は大きく縮小され、代わりに農家への直接支払いや農村振興への補助金などが増額されている。
EU全体での共通農業政策に関する支出割合も減少し、2024年では23.3%にとどまっている(1985年には73.3%)。
詳しく知りたい方は、農林水産省HPに日本語で詳しく解説されているので参照されたい。
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