慶應義塾大学法科大学院教授 松尾弘 研究紹介
慶應義塾大学法科大学院の松尾弘教授は現在、ある国の法制度改革のための国際協力による良い統治の促進について研究しています。
「国家の統治は、柱となる3つの組織間の関係により決定されます。一つ目は政府、二つ目は市場や企業といった経済的組織、そして三つ目は、市民社会と呼ばれる非政府かつ非営利の民間組織です。これらの柱となる国家組織間の関係は法制度改革によって改善されますが、その手始めとなるのが国民の最も基本的な権利と義務を定義する民法などの基本法であり、それらは公法によって実現・保護されます。」
各国の歴史と現状により、効果的な法制度改革に画一的なパターンはありません。松尾教授は、法整備協力活動が支援対象国に対する外国法または国際標準の移植であってはならないと考えています。
このため、松尾教授のアプローチは2本の柱から成り立っています。一つ目の柱は、個々の国家ごとに、国づくり、経済的・政治的発展の促進、グローバル化の影響への対応について、法制度改革の役割を理論的に分析することです。
二つ目の柱は、ラオスやネパールといった国の具体的な法整備協力プロジェクトに法制度改革の理論を応用することです。」
「ラオスでは、日本との法整備協力が2002年に始まりました。これは、法律辞書、実例と図説を含む民法教科書等を作成することにより、参加者間で基本的な法知識を共有し、ラオス風の法律学の育成をサポートするものでした。」
「ネパールでは、日本との法整備協力が2009年に始まり、国民法典(ムルキ・アイン)と呼ばれる既存の基本法を再構成しました。この法律には、民法と民事訴訟法、刑法と刑事訴訟法が含まれています。私たちは、ネパール民法の第1草案、第2草案および第3草案の作成に協力し、逐条的に全ての草案規定にコメントを加え、議論しました。こちらは草案、こちらはコメントと質問、こちらは草案規定の修正版です。」
「それらの活動の最中に、私たちは、現地のいくつかの地域コミュニティで実地調査を行い、ネパールの既存の法律と慣習を少しでも理解したいと努めました。私は、ネパールの制度改革のプロセスには非常に時間がかかると理解しています。それは、この制度改革が長い伝統をもつカースト制度のある程度の変更を含むものだからです。」
今後、松尾教授は、自らの法制度改革協力のプログラムを継続し、それを他の地域にも広げる予定です。
「政治・経済・法律の相互関係に共通のパターンはありません。そのため、法制度改革協力にも画一的なプログラムはありません。私の研究分野はアジア諸国から始まりましたが、他の地域にも広げる必要があります。そのためには、他の地域との開かれた情報交換を、絶えず継続的に維持しなければなりません。」