彗星内部には45億年前に形成された当初の姿を保存したままの、非常に始原的な氷が存在すると考えられています。2014年にチュリモフ・ゲラシメンコ彗星に着陸を試みたESAの着陸機フィラエは表面でバウンドしてしまいましたが、今年Natureで発表された論文で、2回目のタッチダウンの時に彗星内部の氷を露出させていたことがわかりました。そして画像解析と探査機の軌道解析から、彗星内部の氷は極めて柔らかいことが判明しました。
(目次)
0:00 フィラエの着陸
0:58 2回目のタッチダウン
1:22 露出した内部の氷
2:14 圧縮の痕
3:13 カプチーノより柔らかい氷
3:36 不均質な彗星核
(参考文献)
O’Rourke, L., Heinisch, P., Blum, J. et al. The Philae lander reveals low-strength primitive ice inside cometary boulders. Nature 586, 697–701 (2020).
https://doi.org/10.1038/s41586-020-2834-3
Heinisch, P. et al. Compressive strength of comet 67P/Churyumov–Gerasimenko derived from Philae surface contacts. Astron. Astrophys. 630, A2 (2019).
https://doi.org/10.1051/0004-6361/201833889
Groussin, O. et al. Gravitational slopes, geomorphology, and material strengths of the nucleus of comet 67P/Churyumov-Gerasimenko from OSIRIS observations. Astron. Astrophys. 583, A32 (2015).
https://doi.org/10.1051/0004-6361/201526379
(画像素材)
ESA/ATG medialab/Rosetta/MPS for OSIRIS Team/MPS/UPD/LAM/IAA/SSO/INTA/UPM/DASP/IDA, SpaceEngine, Pexels
(字幕全文)
2014年11月12日、欧州宇宙機関の彗星探査機ロゼッタから着陸機フィラエが放出され、チュリモフ・ゲラシメンコ彗星への着陸が試みられました。
フィラエは装備された銛を彗星表面へ突き刺して着陸する予定でしたが、銛が上手く作動せず、表面でバウンドして行方不明となりました。
その後2年間、フィラエを発見するために数千枚に及ぶ画像解析が行われ、ロゼッタ・ミッションの終了直前になって、傾斜90度以上の崖の下の隙間に着陸機が挟まっていることが発見されました。
フィラエは最初のタッチダウンの後に、彗星表面をかすめるように衝突して、さらに2回のタッチダウンを経てこの場所に落ち着いたことがわかっています。
これまでの研究では、最初と最後のタッチダウン地点周辺の観測データから、彗星核の物理的特性が報告されていましたが、2回目のタッチダウンのデータから何が言えるのかはわかっていませんでした。
今回紹介する、2020年10月28日にネイチャーで発表された論文では、2回目のタッチダウンの時のデータから、彗星内部の始原的な氷に関して貴重なデータが報告されました。
まず、ロゼッタで得られた数千枚もの画像を用いて、彗星表面の詳細な形状モデルが作られ、フィラエがどのような軌跡を辿ってバウンドしたのか解析が行われました。
この中で特に注目すべき画像が、フィラエが最終的に落ち着いた場所の近くにあった、二つのボルダーの間が白くなっている箇所です。
まるで何かがボルダーを切って、切断面が明るくなっているように見えます。
フィラエの着陸前後の画像解析から、切断面が探査機の形状と一致することがわかり、またスペクトルデータから、切断面に水氷が豊富に含まれていることも判明しました。
フィラエが姿勢のコントロールを失って彗星表面をバウンドした際に、偶然氷のボルダーを切ったようです。
測定された切断面の反射率から、このボルダーの氷の割合は30%程度と推定されました。
これまでチュリモフ・ゲラシメンコ彗星の平均的な氷の割合は、25%以下であることが報告されていますので、このボルダーには比較的氷が豊富に含まれていたようです。
また、切断面には探査機の形状による圧縮の痕が残されており、画像解析から、ボルダーの表面が深さ25cmにわたって圧縮されたこともわかりました。
この25cmという数字が重要なデータを生み出すことになります。
物質を圧縮していくと、力を加えていくにつれて物質がどんどん固くなっていきます。
この時、圧縮による形状変化と、圧縮にかかった時間を測定することで、物質の圧縮強度を求めることができます。
先ほどボルダーが25cm圧縮されたことがわかりましたが、それではもう一つのデータ、圧縮にかかった時間をどのように測定したのでしょうか。
フィラエには磁力計が搭載されており、一種のジャイロスコープのような役割を果たすことで、探査機の姿勢や速度の変化を読み取ることができます。
こちらのグラフは横軸が時間、縦軸が磁力です。
ここから、探査機が氷の圧縮に要した時間は3秒間だったことがわかりました。
これらのデータから、フィラエが圧縮した氷のボルダーの圧縮強度は12Pa以下だったことが判明しました。
これは降ったばかりの新雪やカプチーノの泡より柔らかいことを意味します。
氷がこれほど柔らかいということは、氷内部の空隙率が極めて高いことも意味しており、実際に、空隙率が75%に達するとの見積もりも得られました。
一方で興味深いことに、フィラエの最初のタッチダウンと最後のタッチダウンの時には、表面物質の圧縮強度は1kPaや2MPaと見積もられています。
このことから、彗星表面には極めて柔らかい場所と硬い場所が、不均一に分布していることが裏付けられました。
これまでチュリモフ・ゲラシメンコ彗星表面での画像解析から、彗星表面物質の圧縮強度が局所的には数十Pa程度であることが、間接的には示唆されてきましたが、それらの推定はモデルに強く依存していました。
そのため、探査機によるボルダーの圧縮という、より直接的な手法で計測した本論文は極めて重要な意義を持っており、ネイチャーに掲載されるに至った強い理由になったと考えられます。
それではご視聴いただき、ありがとうございました。
次回もお楽しみに。
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