移民
簡単なまとめ
移民の正確な定義は存在しないが、現在の移民に対しては「経済的その他の理由で外国に移住する人」という意味合いが強い。
この項で解説する狭義の「移民」には、「難民」は含まれない。
大航海時代以降、世界的な人的交流の増加と共に移民も増加。17~18世紀には奴隷貿易が盛んに行われ、多くの黒人がアフリカから新大陸に移動した。
19世紀、欧米列強の世界進出に伴って、世界の一体化が急速に進み、移民も急増した。開拓や植民地経営のための労働力として、中国人やインド人が世界中に移動した。
第二次大戦後は、経済的な豊かさを求めて出稼ぎ目的の移民が増加。特に冷戦終結後、グローバル化の急速な進展により、この傾向は更に加速している。
歴史
大航海時代~18世紀
- ヨーロッパ人:ヨーロッパ→新大陸(入植者として)
- アフリカ人(黒人):アフリカ大陸→新大陸・カリブ海(黒人奴隷として)
新大陸への入植・開拓が進み、旧大陸から新大陸への大規模な人口移動が発生しました。
18~19世紀
この時期の移民は、植民地での労働力として移動し、用いられた例が多く見られます。
- 印僑:インド→英国植民地
- 華僑・華人:中国(特に華南)→東南アジア・アメリカ・オーストラリアなど
- ヨーロッパ人:ヨーロッパ→アメリカ合衆国
- 英国人:英国→オーストラリア・ニュージーランド
19世紀には英国が世界中で植民地を持ち、世界各地で鉱山開発やプランテーション経営を行いました。
さらに、アメリカやオーストラリアでのゴールドラッシュ、アメリカ合衆国の西部開拓などにより、大規模な人口移動が発生した時期でもあります。
このため世界中で労働力不足となり、人口の多かった中国・インドから世界中に移民が移動しました。
中国人は、主に華南の貧しい農民が、東南アジア(特にマレー半島)、アメリカ西海岸、オーストラリアへ移住。鉱山・プランテーションの労働力となったほか、アメリカの大陸横断鉄道建設にも大きな貢献をしました。
インド人は、インドが当時イギリス植民地だったため、世界各地のイギリス植民地へ移動しました。スリランカ(セイロン)、マレーシア、シンガポール、フィジー、ガイアナ、ケニアなど東アフリカが代表的です。
オーストラリア・ニュージーランドの開拓は、18世紀にはじまり19世紀に進行・完成しました。
戦後~
戦後の移民の特徴として、経済的豊かさを求めた出稼ぎが多いというものがあります。
そのため、戦後の人口移動は発展途上国→先進国の流れが主となっています。そして、出稼ぎ移民の故郷への送金が、途上国経済に大きな影響を与えるようになっていきます。
1960~70年代
- 北アフリカ→フランス
- トルコ→西ドイツ
- インド→中東産油国
- メキシコ→アメリカ合衆国
1960年代には、アメリカ合衆国・西ヨーロッパが高度成長を遂げ、労働力不足も発生した時期でした。そのため、西ヨーロッパ諸国は、旧植民地から多くの移民を受け入れました。
フランスは旧植民地の北アフリカから、ドイツは旧植民地がなかったためトルコからの移民が多く流入しています。
また、1970年代の石油危機以降、石油価格の高騰により中東の産油国が急速に経済発展しました。
これによって建設ラッシュが起こり、開発が盛んに行われましたが、中東の産油国はそもそも人口が少なかったため、深刻な労働力不足に陥りました、
この労働力不足を補うため、インドから大量の移民が湾岸諸国に流入しました。この傾向は現在まで継続しています。
1980年代~
1980年代後半から日本でも労働力不足が発生しました。
日本はそれまで移民をほとんど受け入れてきませんでしたが、1990年代に出入国管理法が改正され、ブラジルから日系人を大量に受け入れました。
現在
現在の移民を地域別に見ていきましょう。
アメリカ合衆国には、メキシコからの移民・不法入国者が大量に流入しています。この移民らはヒスパニックと呼ばれ、西南部・大都市部で大きな勢力になっています。特に南部・西部では、増加するメキシコからの不法移民への不満が高まっており、2020年にメキシコとの国境に壁を建設すると主張したトランプ候補が勝利するなど、大きな政治的争点になりつつあります。
ヨーロッパへは、北アフリカ・中東からの流入が主です。北アフリカからは旧宗主国のフランスへ、トルコからはドイツへの移民が多い傾向は現在でも継続しています。また、難民としても中東から大量に人が流入しています。
EU域内での移民も問題になっています。人の移動に関する制限がほどんどないため、所得水準の低い東欧から所得水準の高い西欧への移民が多くなっています。このため、西欧では移民の増加によって職が奪われるなどといった不満が高まっている面もあります。
アジアでは、移民の流出が多くなっています。特に、インドとフィリピンは大量の移民を国外に送り出しています。
インドからは、労働力不足の中東へ、建設作業員としての出稼ぎが多く見られます。
フィリピンは出稼ぎ大国と言われ、日本やヨーロッパなど、世界各地へ労働者が出稼ぎに出ています。
また、これらの国は出稼ぎ労働者からの送金が貴重な収入源となっています。昨日たまたま日経新聞を読んで驚いたのですが、インドには年間17兆円くらい送金されているそうです。インドのGDPが500兆円ないくらいですから、出稼ぎ労働者の送金はインド経済に無視できないくらい大きな影響を与えているみたいですね。