集約的稲作農業
集約的稲作農業
おそらく、最もイメージしやすい農業なのではないでしょうか。アジア式稲作とも呼ばれます。日本の稲作もこれにあてはまります。
定義
モンスーンアジアでみられる、稲作を主とする自給的かつ労働集約的な農業です。経営規模は小さく、家族労働が基本です。
特徴
- 自給的
- 土地生産性が比較的高い
- 労働集約的
- 一人あたり耕地面積が小さい
が目立つところでしょう。解説していきます。
自給的
アジア式稲作は基本的に家庭内で米を消費するために行われます。ですから、生産量に対して流通している量はそれほど多くありません。 この傾向は米の貿易統計にも現れています。詳しくは[米]()の項を参照してください。
土地生産性、労働集約性、一人あたり耕地面積
この3つの点は互いに連関している面も多いので、ひとまとめに解説してしまいます。
稲作という農業形態は非常に優れており、単位面積当たりの生産量が極めて多く(土地生産性が高い)、狭い土地でも多くの人口を支えることができます(=人口支持力が高い)。したがって、稲作が行われている地域は人口密度が高くなる傾向にあります。
こうなると、土地に対して人が多いわけですから、必然的に一人当たり耕地面積は小さくなります。
また、稲作というのはかなり手のかかる農業でもあり、非常に大量の労働力を必要とします。ですから、機械化の進んでいない地域では特に、多数の農民がせっせと働いています。つまり、労働集約的な農業でもあるわけです。
地域
稲作は主にモンスーンアジアで行われています。モンスーンアジアとは季節風の影響を大きく受ける地域、主に東・東南・南アジアを指します。この地域の中で年降水量が多い地域、具体的には年1000mm以上の降水がある地域で稲作が行われます。
この「年降水量1000mm以上」という条件で、次に解説する集約的畑作農業との境界が決まります。モンスーンアジアでは年降水量が1000mm未満であれば畑作、1000mm以上であれば稲作が行われるという図式になっています。
モンスーンアジア、特に中国・インドでの「年降水量1000mm」の線は、何も見ずに白地図に引けるようになっておきましょう。 だいたいでいいので。この線が引けるようになれば、アジアの農業地域は半分分かったと言っても過言ではありません。それくらい重要だということです。
中国では秦嶺山脈と淮河を結ぶ線が年降水量1000㎜のライン。これより北は年降水量が1000㎜より少なく、南は1000㎜より多い地域です。
インドに線を引く時に目印になるのがヒマラヤ山脈と西ガーツ山脈。それぞれ山脈の海岸沿いに線を引けばいいとお考え下さい。この線より内陸側が年降水量1000㎜未満の地域、海岸側が1000㎜超の地域です。
〜ちょい足しコラム〜 稲作ってすごい
実は、稲作というのはなかなか優れた農業なのです。主に東南アジアでは二期作が行われていますが、こんなことができるのは稲作くらいです。インドネシアなどのザ・熱帯の地域だと三期作なんかもやっていたりします。麦でこんなことをすると一瞬のうちに地力が低下し、不毛の土地になってしまうのですが、稲作なら大丈夫。ですから、温暖で降水量の多い、恵まれた地域では稲作が選択されることが多くなります。みんなできることなら稲作をしたいんです。
ではなぜ稲作なら連作が可能なのでしょうか。
答えは、田んぼに張っている水にあります。水を張っているおかげで、稲作は連作障害から逃れることができているのです。
連作障害とは、同じ土地で何度も連続で同じ作物を作り続けるとだんだんと作物が育たなくなってくる現象のことです。原因として、土中の養分が減少する、その作物を好む病原菌が増えるといったものが挙げられます。
しかし、水を張っていればこれらは解決できるのです。川から取水した水は森林の養分をたっぷり含んでいますから、養分は水から補給できます。また、水を張って土を空気に触れさせないことで病原菌を酸欠状態にして死滅させることもできます。
田んぼに水を張るというのは、こんな効果もあったのです。