惑星科学で最も有名な隕石の一つである、アエンデ隕石からは太陽系最古の物質CAIと、太陽系以前の物質プレソーラー粒子が見つかっています。これまで両者は共存しないと言われてきましたが、今年の1月の発表された論文で、プレソーラー粒子の一部が原始太陽系円盤の高温環境を生き延びたことが明らかになりました。
(目次)
0:00 1969年の大事件
0:20 アエンデ隕石
0:51 難揮発性含有物CAI
1:22 プレソーラー・グレイン
2:04 共存しないはずの組み合わせ
2:58 原始太陽系円盤の環境
(参考文献)
Pravdivtseva, O., Tissot, F.L.H., Dauphas, N. et al. Evidence of presolar SiC in the Allende Curious Marie calcium–aluminium-rich inclusion. Nat Astron 4, 617–624 (2020).
https://doi.org/10.1038/s41550-019-1000-z
Heck, P.R. et al. Lifetimes of interstellar dust from cosmic ray exposure ages of presolar silicon carbide. PNAS January 28, 2020 117 (4) 1884-1889.
https://doi.org/10.1073/pnas.1904573117
【画像素材】
NASA/GSFC, ESO, University of Copenhagen
【字幕全文】
1969年、アポロ11号の宇宙飛行士たちが、
初めて月面に降り立ったこの年、
惑星科学の歴史に刻まれる、もう一つの重大な事件が起こりました。
メキシコの小さな村 アエンデ に落下した隕石が、
原始太陽系に関する理解を大きく前進させることになったのです。
アエンデと名付けられたこの隕石は、
惑星科学において最も有名な隕石の一つとなりました。
その理由は、
1、総重量にして2トン以上と大量に回収されたことによって、
多くのサンプルを確保できたこと。
2、始原的な物質を多く含む、貴重な炭素質コンドライトであったこと、
3、落下した時期にちょうど米国の研究者らは、
アポロ試料を分析する準備を進めていた矢先であり、
当時の最新鋭の装置で重点的に分析できたこと、
の3つが挙げられます。
アエンデ隕石から見つかった物質のうち、注目すべきものは、
カルシウムとアルミニウムに富む、難揮発性含有物です。
この物質はCAIと呼ばれており、原始太陽系が高温のガスの状態だった時に、
一番最初にガスから凝縮した、太陽系最古の物質だとみられています。
CAIの形成年代は今から45.6億年前であることがわかっており、
よく太陽系の年齢が45億年や46億年と巷で言われているのは、
このCAIの形成年代に基づいています。
アエンデ隕石からは、もう一つ注目すべき物質が見つかっています。
それがプレソーラー粒子と呼ばれる、
太陽系が誕生する前の時代に形成された物質です。
プレソーラー粒子は、シリコン・カーバイドやダイヤモンド、
グラフェンといった微小な固体粒子の形で存在しています。
今年の1月に米国科学アカデミー紀要に掲載された論文で、
これまで測定された中で史上最古のプレソーラー粒子が報告されました。
アエンデ隕石と同じ年にオーストラリアに落下した、
マーチソン隕石の中から発見されたプレソーラー粒子の中に、
最も古いもので、太陽系誕生からおよそ30億年以上前、
つまり今から76億年近く前に形成されたものが含まれていたのです。
そしてこの論文とほぼ同時期に、
ネイチャー・アストロノミーで出版された論文で、
アエンデ隕石から非常に興味深い発見が報告されました。
これまで、CAIとプレソーラー粒子が共存した状態、
つまり同じ場所から同時に発見されることはありませんでした。
一般的にCAIは1500ケルビン以上に達するような、
原始太陽に近い環境で生成されたと考えられています。
そのためCAIができるような非常に高温の環境では、
プレソーラー粒子は熱で破壊されてしまい、
生き残ることができないと考えられてきました。
しかしネイチャー・アストロノミーの論文は、
この常識を覆す衝撃的な結果を報告してきました。
アエンデ隕石の”キュリアス・マリー”と名付けられた破片にある、
CAIの中から、プレソーラー粒子が初めて見つかったのです。
つまり、CAIが形成するような高温の環境を、
一部のプレソーラー粒子が生き延びていたことが判明したのです。
ではこの粒子が生成された時の原始太陽系の環境は、
どのようなものだったのでしょうか。
プレソーラー粒子が生き延びる条件は、
粒子のサイズに強く依存するため、一概に言うことはできませんが、
論文中では別の研究を引用する形で、
900℃以上の高温環境を、数千年程度生き延びたのでは、と推測しています。
私たちは星のかけらでできている、とよく言われますが、
アエンデ隕石のCAIとプレソーラー粒子は、
私たちの太陽系の中に、前の世代の星のかけらが、
いまだに残されていることを示す、
またとない例を示してくれたと言えます。
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