何十年もの間、月の起源は巨大衝突説が最も有力と考えられてきました。しかし最近かぐや探査機によって発見された月面からの炭素放出が従来の定説に大きな疑問を投げかけています。果たしてかぐやの発見は巨大衝突説を覆すのでしょうか?
【目次】
0:00 巨大衝突説
0:33 新たなデータによる矛盾
1:00 太陽風や微小隕石による外部からの物質供給
1:25 かぐやの新発見
2:01 ポイント1:炭素の空間的な不均一性
2:30 ポイント2:炭素放出量の比較
2:53 巨大衝突説の修正
【参考文献】
S. Yokota et al. (2020) KAGUYA observation of global emissions of indigenous carbon ions from the Moon. Sci. Adv. 2020; 6 : eaba1050
https://advances.sciencemag.org/content/6/19/eaba1050
宇宙空間に流出する月の炭素を初観測(大阪大学プレスリリース)
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2020/20200507_1
【画像素材】
NASA, Goddard Space Flight Center, Space Engine, 大阪大学, Southwest Research Institute
【字幕説明】
月はどのように誕生したのか。
惑星科学において最も古典的でありながら最大の謎の一つです。
何十年ものあいだ、月の起源は
巨大衝突説が最も有力と考えられてきました。
この説の大きな根拠となってきたのが、アポロ計画で採取された
月面の石は水や炭素などの揮発性物質が著しく欠乏している、
という観測事実です。
つまり、原始の地球に巨大衝突が起きた時に、
高温になった岩石から
揮発性の高い水や炭素が蒸発して失われてしまった
と考えられてきました。
しかし近年、このシナリオと矛盾するような
観測データが報告され始めています。
分析装置の発展によって、再びアポロの月面試料を測定したところ、
微量ながら水や炭素などの揮発性物質が発見されたのです。
また、様々な月周回衛星のリモートセンシング観測から、
月面には微量の水が存在していることも確認されました。
こういった観測事実は、巨大衝突の後に、月から揮発性物質が
全て失われたとする従来の定説と矛盾するように見えます。
しかし大気のない月面には、太陽風や微小隕石の衝突などによって、
常に宇宙空間から物質が降り注いでいます。
こういった現象によって、月面には外部から常に水が供給されるため、
必ずしも巨大衝突説と矛盾するものではありません。
しかし月 内部の深いところから来たと考えられる
月隕石からも水が検出されており、
巨大衝突説に対する疑念の声が高まっているのも事実です。
このような状況で今年の5月6日にScience Advancesに掲載された
日本の月探査機「かぐや」の観測データが
大きな衝撃を巻き起こしました。
2007年から1年半にわたって、月面から放出されたイオンのデータを
大阪大学らのグループが解析したところ、
想定を上回る量の炭素イオンが放出されていたことを発見したのです。
このデータをどのように解釈すべきでしょうか。
月には揮発性物質が存在しないとする従来の
巨大衝突説と矛盾するデータと見なすのか、
あるいは太陽風や微小隕石によって
月面に供給された炭素であると解釈するのか。
この論文のポイントは二つあります。
太陽風や微小隕石は月面のあらゆる方向から概ね均等に
照射されます。
そのため、もし太陽風や微小隕石によって
炭素が供給されたのであれば、
月面のあらゆる場所から均等に炭素が放出されることが期待されます。
しかし、かぐやの観測データは、月面からの炭素放出が均等ではなく、
場所によって強いところと、弱いところがあることを示していました。
特に、月の海、地質活動によって内部からマグマが噴出した場所で、
炭素の放出量が強いことが明らかになりました。
もう一つのポイントは観測された炭素イオンの量です。
かぐやで観測された炭素イオンの放出量は、
太陽風や微小隕石から供給される炭素量の推定値よりも
2倍以上大きいことがわかったのです。
これによってかぐやで観測された月面の炭素は、
外部から供給されたものではなく、
月がもともと内部に保持していた炭素が
現在も宇宙空間に流出しているものであることを示唆しています。
それでは、この論文によって巨大衝突説は覆るのでしょうか。
残念ながら話はそんなに単純ではありません。
月に関しては様々な観測事実があり、これら全てを最も整合的に
説明できるのが巨大衝突説であり、今後も優位は揺るがないでしょう。
しかしかぐやの観測データが、
従来の定説に大きな修正を迫るものであることは事実です。
実際に最近では、巨大衝突でも、
揮発性物質があまり欠乏しないような理論モデルも報告されています。
今後かぐやの論文が、月の起源に対する考え方を一歩前進させる
重要な役割を果たすことになっていくでしょう。
それでは今回もご視聴ありがとうございました。
よかったらチャンネル登録 お願いします。
#惑星科学チャンネル #PlanetaryScienceChannel #行星科学频道