母性因子
母性因子とは
卵細胞に含まれる母親由来の物質のこと。
母性因子の物質
母性因子は、母親の細胞で転写・翻訳されてつくられた後に、母親体内の卵細胞に移動したもので、mRNAやタンパク質の形で卵細胞内に存在する。
母性因子を作る遺伝子のことを、「母性効果遺伝子」という。
母性因子のはたらき
母性効果因子は、初期発生の体軸(前後軸、左右軸、背腹軸)の形成などに重要な役割を果たす。
高校生物では、ショウジョウバエの母性因子がよく取り上げられる。
この例で、母性因子のはたらきについて確認しておこう。
【ショウジョウバエの例】
1 未受精卵のとき
ショウジョウバエの未受精卵では、主に以下の4つの母性因子が、mRNAとして存在している。
- ビコイドmRNA
- ナノスmRNA
- コーダルmRNA
- ハンチバックmRNA
これらはすべて卵内に均等に分布するのではなく、ビコイドmRNAとナノスmRNAは、偏って分布している。
mRNAの分布は以下のようになっている。
2 ビコイドとナノスの翻訳
ショウジョウバエは、受精後まず核分裂を行う。この時、ビコイドmRNAとナノスmRNAが翻訳される。
ビコイドタンパク質の濃度の高い方が将来頭部になるので、これにより体の前後軸が決定することになる。
3 ハンチバックとコーダルの発現
ハンチバックmRNAとコーダルmRNAは、卵細胞全体に分布しているが、ハンチバックmRNAはナノスタンパク質に翻訳を阻害され、コーダルmRNAはビコイドタンパク質に翻訳を阻害される。
その結果、ハンチバックタンパク質は頭部に、コーダルタンパク質は尾部に多く翻訳される。
この後、
ハンチバック⇒頭部の形成に関連する遺伝子
コーダル⇒尾部の形成に関連する遺伝子
をそれぞれ活性化する。
このようにして、母性因子は、初期発生で体軸形成に関わっているのである。
※「母性効果遺伝子」と「母性因子」のちがい
母性効果遺伝子⋯母親が持つ遺伝子。母性効果遺伝子が発現(転写・翻訳)されることで母性因子ができる。
母性因子⋯卵細胞に含まれる母性効果遺伝子が発現されてできたmRNAやタンパク質。
ちなみに
近年、教科書が改訂されて、ナノス・ハンチバック・コーダルという表記が教科書から消えつつある。
ビコイドだけが残っていて、そのほかは「遺伝子A」などという表記に置き換えられるという、なんとも切ない展開になっているのだ。。
あくまでも、名称ではなく、どのように母性因子によって体が形成されるか、という過程が重要なのであろう。
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