日本文学史マスターへの道④『万葉集』
日本文学史マスターへの道
『万葉集』
〔元暦校本万葉集〕
ニュースでもよく取り上げられていた、令和言葉・奈良弁で訳した万葉集はまず触れてみたいという人におすすめ。
ちなみに、「令和」という元号も『万葉集』からきているのはみんな知っているよね。NHKのリンクはこちら。
《確認ポイント》
✔︎現存する最古の歌集(勅撰和歌集ではない)
✔三大部立による分類
✔︎主に4つに分けて区分される
《書名》
『万葉集』と言う書名は、諸説あり。
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1.万の言の葉の集(たくさんの言葉の集)
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2.葉のように歌の数が多い集
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3.万世に伝わるべき集(葉を「世」「代」の“よ”と考える説)
この3つが特によく言われる説!
《編者》
未詳
巻ごとに内容や構成が大きく異なるため、一人の編者によって成ったのではなく、
複数の編者によって編集されたと考えられている。
最終段階には大伴家持が関与したとみられている。
《成立過程》
奈良時代初期から編集は始まったとされ、
収録された歌の中で最新のものが759年に詠まれたものであるため、
奈良時代末期もしくは平安時代初期の8世紀後半に完成したと考えられている。
★天皇の命令ではなく、個人的に作られた私撰集であり、勅撰和歌集ではない。
*勅撰和歌集は『古今和歌集』がスタート
《構成》
『万葉集』には**4500首あまりの歌が20巻 **に収められている。
作者は、天皇や貴族、下級役人、漁農民など多様な階層に渡っているとされており、歌体も様々である。
◎歌体
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短歌(4170)
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長歌(27)
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旋頭歌(せどうか)(60)
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仏足石歌(ぶっそくせきか)(1)
以上の4つが主を占めており、特に短歌は9割以上を占める。(横の数字がおよその歌数)
それぞれ歌体をもう少し詳しく見ると、
- 短歌【5・7、5・7、7の和歌の代表的な形式】
- 長歌【5・7、5・7、5・7…7となっており、長さに制限はない】
- 旋頭歌【5・7・7、5・7・7と片歌(5・7・7)の形式を2首繰り返す形で問答の歌に多い】
- 仏足石歌【5・7、5・7、7・7と短歌形式に7音加えた形】
〔仏足跡歌碑(拓本)〕
◎部立
部立(ぶたて)とは、ジャンル分け・部類分けのことで、『万葉集』には三大部立と呼ばれるものがある。歌の内容によって分けられている。
- 相聞(そうもん)
→唱和・贈答の歌で、恋歌が中心である。親子や友人間での贈答もあるが、基本的に恋を中心とした贈答歌と覚えると良い。
- 挽歌(ばんか)
→人の死を哀悼する歌のこと。
- 雑歌(ぞうか)
→相聞と挽歌以外の行幸や宴会など宮廷生活の公の場での歌が多い。
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心情を直接述べる「正述心緒歌(せいじつしんちょか)」
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心情を事物・景物に託して述べる「奇物陳思歌(きぶつちんしか)」
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隠喩を用いる「譬喩歌(ひゆか)」
など表現手法による分類もある。
◎歌の配列
部立による分類→年代や作歌の場面を基準とした分類、
この2点が基本配列に関するもの。
*四季による配列も見られる。
→部立・配列共に全巻に渡って統一性があるわけではない。
◎ 表記
和歌の表記は全て漢字で表記され、
表意文字である漢字を表音文字として用いた、
つまり本来の意味とは違った日本語の音を重視して書き表した文字である万葉仮名と呼ばれる表記法である。
Wikipediaに一例を示す表があり!
EX.「はる」は“春”(表意文字)であるが、
”波留”(万葉仮名)のように音だけで表したもの
〔元暦校本『万葉集』、額田王の歌〕
《歌風》
『万葉集』における歌風を考える前に、伝承歌まで含めると
『万葉集』には400年近い範囲の歌が収録されていることになる。
制作年代や作者に関する信憑性が高いのは、
舒明天皇以降であり、範囲としては約130年である。
一般的にこの期間を4つに分けて歌風の展開を考える事ができる。
⚫︎第一期=初期万葉
《期間》
舒明天皇即位〜壬申の乱(629〜672)
→乙巳の変(大化の改新)を中心として、中央集権体制が確立されるまでの激動の時期
《歌風などの特徴》
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集団的な古代歌謡の面影はあるが、個的な創作和歌が詠まれる。
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個人的な感情が率直に力強く表現されており、素朴で明るく伸びやかな歌風。
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歌体は5音・7音の提携に落ち着き始める。
《代表歌人》
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舒明天皇
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斉明天皇
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天智天皇
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天武天皇
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額田王(ぬかたのおおきみ)
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有間皇子
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鏡王女(かがみのひめみこ)
→皇室関係の人物が多い
⚫︎第二期
《期間》
壬申の乱平定〜平城京遷都(672〜710)
→律令制が整備され、宮廷が安定と繁栄の時期で藤原京の最盛期
《歌風などの特徴》
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宮廷の公的な場で歌を詠む専門宮廷歌人が登場し、和歌が公私両面で発達していく。
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宮廷歌人の第一人者は、柿本人麻呂で、皇室讃歌・皇族挽歌を雄大かつ荘重に歌い上げた。また、長歌の様式を完成させた。
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枕詞や序詞、対句などの修辞法も発達し、力強さに重厚さが加わった歌風。
《代表歌人》
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柿本人麻呂
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高市黒人(たけちのくろひと)
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持統天皇
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大津皇子(おおつのみこ)
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大伯皇女(おおくのひめみこ)
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志貴皇子(しきのみこ)
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長意吉麻呂(ながのおきまろ)
⚫︎第三期
《期間》
平城京遷都〜山上憶良没年(710〜733)
→国家が安定する一方、律令制の矛盾が深刻化してきた時期
《歌風などの特徴》
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大陸から、仏教・儒教・老荘思想が流入し、和歌は知的に洗練され、個の自覚が深められていく。
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個性的な詠みぶりの、繊細かつ複雑な歌風。
《代表歌人》
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山部赤人(やまべのあかひと)
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山上憶良(やまのうえのおくら)
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大伴旅人(おおとものたびと)
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髙橋虫麻呂(たかはしむしまろ)
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笠金村(かさのかねむら)
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大伴坂上郎女(おおとものさかのうえのいらつめ)
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湯原王(ゆはらのおおきみ)
⚫︎第四期
《期間》
天平6年〜天平宝字3年(734〜759)
→天平文化の華やかさに反して政治は行き詰まっており、宮廷貴族間での政争が激化した時期
《歌風などの特徴》
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貴族の社交の道具として、短歌が多くつくられた。
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力強さは消えてしまい、恋歌や古を回顧する歌など繊細で感傷的かつ理知的・技巧的な歌風。
《代表歌人》
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大伴家持(おおとものやかもち)
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笠女郎(かさのいらつめ)
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狭野弟上娘子(さののおとがみのおとめ)
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中臣宅守(なかとみのやかもり)
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田辺福麻呂(たなべのさきまろ)
⚫︎**『万葉集』にある特異な歌**
◎東歌(あずまうた)
遠江国や信濃国以東の地方民謡歌のこと。
方言が多用され、素朴で率直な歌風。
巻14に収録されている。
◎防人歌(さきもりうた)
筑紫や対馬などの北九州の防備にあたるため、東国から徴集された防人が歌った歌のこと。
家族と離別する悲しみや望郷の念が込められている。
巻14や巻20に収録されている
◎そのほか
巻15には「遣新羅使人等の歌」があり、
巻16には「有由縁併雑歌」というものが存在しており、
不明な点も多い。
筆者は巻16「有由縁併雑歌」について調査している途中。
何かあれば追記します(笑)
《史的意義》
現存する最古の歌集であることは前述しているが、
最古の勅撰和歌集である『古今和歌集』に与えた影響は大きい。
賀茂真淵をはじめとする江戸時代中期の国学者や
明治時代の正岡子規などに素朴で力強い歌風=「ますらをぶり」(感情を率直かつおおらかに歌うもの)が評価された。
〔弟子による肖像画(『國文学名家肖像集』)〕
〔正岡子規〕