【 note : https://note.com/yaguchihappy 】
進化と自然選択(自然淘汰)について講義します。
*進化の理論に関する用語の定義には非常に揺れがあるので、高校生は、今使っている教科書の解釈で問題を解くこと(たとえば、複数の生物学者に「進化って何ですか?」と聞いても、ほとんどの場合、同じ答えが返ってくることはないであろう)。
● 現在、進化をもたらす要因として、突然変異・自然選択・遺伝的浮動の3つが重要であるということがわかっている(突然変異によって生じた新しい遺伝子の頻度は、自然選択や遺伝的浮動によって変化し得る)。しかし、これらの要因が、具体的にどう関係し合い、どう機能して進化が起きているのかについては、完全には解明されていない。
● ダーウィンは『種の起源』を書き、自然選択説を唱えた。
「有利な変異は保存され、不利な変異は排除される過程を、私は自然淘汰と呼んでいる。」ダーウィン『種の起源』より
● 進化のうち、種の形成(種分化)が起こるような大きな進化を大進化といい、種分化に至らない進化を小進化(個体群や種内で起こる遺伝的変化など)という。大進化には、小進化とは異なる何らかのプロセスが含まれているのか、それとも大進化は小進化の積み重ねなのか、完全には明らかになっていない。
● 同種個体間の形質にみられる違い(より正確には「起源を同一にする細胞あるいは個体あるいは集団間にみられる形質の相違」)を変異という。
● 変異には環境変異(かんきょうへんい。生育環境の差などによる変異)と遺伝的変異(いでんてきへんい。遺伝する変異)があり、ふつう、進化に関係するのは遺伝的変異である。
「その変異は遺伝することが、自然淘汰が作用する上では不可欠である。」ダーウィン『種の起源』より
*環境変異(環境効果ともいう)は、正確には「生育環境の差や発育の途上で起こる偶然的な要因などの影響により、遺伝的に均一な集団内の個体間に生ずる量的変異」のこと。変異の大きさはある値を中心に連続的に分布する。この変異は遺伝しない(たとえば、全く遺伝的に同一な[純系の]種子を2つ用意したとする。それらの種子を、片方は良い土壌へ、片方は悪い[栄養に乏しい]土壌にまく。良い土壌には大きな作物が、悪い土壌には小さな作物が育つ。しかし、両者がつくる種には差が出ない。この2つの作物の育ちの良さの違いは、生育環境に由来する違いであり、遺伝しない)。
● 自然選択の例
①工業暗化(こうぎょうあんか)
オオシモフリエダシャクとよばれるガの野生型は白地で明るい色をしている(『明色型』)。そのため、白色の地衣類で覆われた木の幹の上では目立ちにくい。対して、『暗色型』は暗色であり、煙で黒くなった木の幹では目立ちにくい。
イギリスの工業地帯では、樹が大気汚染によって黒ずんで明色型の個体がよく目立つようになり、明色型の個体が鳥に捕食されやすくなった。その結果、体色の黒い『暗色型』が増加した。これは単に煙に汚れて黒くなったガが増えたのではない。自然選択の結果、体色を暗くする遺伝子の遺伝子頻度が増えたのである(遺伝子頻度の変化は、すなわち小進化である)。以上のような工業暗化の話は、進化(遺伝子頻度の変化)が実際観察された稀な例として有名である。
*暗色型のガの増加は、鳥の捕食による自然選択だけでは説明できない可能性があるという指摘もあるが、高校生は知らなくてよい(もしかしたら、鳥の捕食以外による要因[たとえば紫外線に対する抵抗性など]についても、詳しく調べる必要があるかもしれない)。
②ガラパゴスフィンチにおいて、島に干ばつが起きた後、くちばしが厚くなった。
1977年の干ばつによって島の多くの植物が枯れてしまったので、ガラパゴスフィンチが食べることができるのは、大きくて堅い果実だけになってしまった。結果、多くのガラパゴスフィンチが死に絶えた。相対的によく生存したのは、『厚いくちばし』をもつガラパゴスフィンチだった(厚いくちばしにより堅くて大きい物を食べることができる)。生き残ったくちばしの厚い親から次世代にくちばしの形質が遺伝した(親と子のくちばしの厚みには相関があり、くちばしの厚みは遺伝によって子に受け継がれることがわかっている)。
● 高校生は知る必要はないが、生物集団中に遺伝子型の異なった個体が存在し、その間で生存率や繁殖率に「差」がある場合、そのような「差」を引き起こす作用や操作を「選択(淘汰)」といい、この「選択(淘汰)」の作用を物理的な圧力にたとえて「選択圧(淘汰圧)」と言うことがある。たとえば、「木の幹が黒くなったことは、黒色のガの生存率を上昇させる選択圧として働いた」などと言う。
● 同じ遺伝子がゲノム内に重複して存在する場合がある。これを遺伝子重複(いでんしじゅうふく、いでんしちょうふく)という(染色体突然変異や減数分裂時の染色体の乗換えの異常が遺伝子重複の原因になり得る)。遺伝子重複がある場合、一方の遺伝子に突然変異が生じても、他方が補うことがあるため、自然選択に不利とならない。したがって、重複している遺伝子に生じた突然変異は蓄積されやすく、その結果、似た機能をもつ別の遺伝子になっている場合も多い(遺伝子としての機能を失い偽遺伝子になる場合もある)。
例)ヒトの赤オプシン遺伝子と緑オプシン遺伝子の相同性は非常に高い。また、両者はX染色体上に隣接して配置されている。よって、この2つの遺伝子は遺伝子重複によって生じたと考えられる(祖先型のオプシン遺伝子≒赤オプシン遺伝子が重複して2つになった後、突然変異によって緑オプシン遺伝子が誕生したと考えられている。なお、原猿類のアイアイやロリスは青・赤色を認識する2色型色覚だが、ヒトとゴリラを含む狭鼻猿類は青・赤・緑を認識する3色型色覚である)。
● 分子進化においては、中立説の考え方が重要である。しかし、中立説は自然選択が起こることを否定しているわけではない。中立説の講義はこちら↓
• 中立説・遺伝的浮動【進化】 高校生物
● 成体の獲得する配偶者の数の違い(獲得する異性の数の違い[たとえばあるオスの個体が獲得するメスの数の違い])に起因する選択を、性選択(性淘汰)という。鹿の大きな角や、鳥の美しい羽などは、一見、生存に不利な形質であるように思える(邪魔そうだし、目立って敵に見つかりやすくなりそうである)。ダーウィンはこれを、通常の自然選択では説明できない考え、これらは『異性に対する魅力』、すなわち『異性が配偶者を選択するにあたって有効な形質』として発達したものであるとして、性選択の概念を提唱した(ただし、性選択は自然選択の一種とする立場もある)。派手な装飾をもった生物は、確かに外敵に狙われやすくなる。しかし、そのデメリットを上回って、異性に選ばれやすく(つまり、モテるように)なれば、その派手な装飾をつくる遺伝子は広まり得るだろう。*そもそも、どうして一見生存に不利に見えるような形質を持つ個体が異性にモテる例が多く見られるのかについては、わかっていない(多くの動物において、雄は、とても派手な体をもっている。派手であるほどモテる場合が多い。しかし、本来、派手であることは生存に不利である。敵から見つかりやすくなるからである。そんな不利な形質をもつ個体をメスが選びがちなのは、たしかに一見おかしい。現在も研究が続いている(「生存に不利な派手な形質が進化したのは、そうしたハンディキャップにもかかわらず生存できるほど、その個体の生存力が優れていることを示すのだ。だから異性は、そのようなハンディキャップを持った個体を選ぶようになったのだ。」という、ハンディキャップ説などが唱えられている)。
0:00 進化
1:01 遺伝的浮動
1:37 自然選択(自然淘汰)
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