日本文学史マスターへの道⑨『竹取物語』
日本文学史マスターへの道
『竹取物語』
〔かぐや姫を籠に入れて育てる翁夫妻。17世紀末(江戸時代)メトロポリタン美術館蔵。)〕
eboardという面白そうなサイトも!導入はここからでも、昔話からでも!
《確認ポイント》
✔︎現存最古の物語
✔空想性・伝奇性の高い物語
✔︎冒頭「今は昔、竹取翁と云ふものありけり。」
《書名》
『竹取物語』
『竹取の翁の物語』や『かぐや姫の物語』と言われることも
《撰者》
未詳
内容面から見ると、
漢籍に精通しており、仏教・神仙思想の知識を持ち合わせており、和歌の才能もあった、というかなりの学識ある男性と推定される。
文体とモデル人物から見ると、
漢文訓読の影響が見られ、モデルに当時の政界に実在した貴族を使っているため、貴族階級に属する男性知識人と推定される。
- 源順(みなもとのしたごう)
- 僧正遍昭
- 源融(みなもとのとおる)
- 紀長谷雄(きのはせお)
など候補者はいるものの、決定打に欠ける。
《成立過程》
9世紀後半〜10世紀初め頃の成立と考えられる。
-
『万葉集』に竹取翁が9人の仙女にあって和歌を読む話や
-
『今昔物語集』に多少の異動はあれど『竹取物語』の原型に取材した話が載っている。
→古来伝承されてきた民間伝承に作者が手を加えて、『竹取物語』は成立したと見られるのではないか。
《表現》
漢文訓読調の和文体
主観を交えずに表現されており、まとまりを持つ内容の最初と最後に物語世界と読者を繋ぐための働きをする伝聞回想の助動詞「けり」が多用され、口承文芸である物語の本質が垣間見える。
《構成》
空想性かつ伝奇性の高い作り物語
→文学史上では、物語と大きく区別される場合と、伝奇物語などのように細かく区別される場合がある。
内容を大きく分けると、3つの場面に分けることができる。
①かぐや姫の生い立ち(発見)
②5人の貴公子の求婚と帝の求婚
③かぐや姫の昇天
-
①と③は羽衣伝説・致富長者譚
-
②は求婚難題譚
に基づくものである。
*②の5人のうち3人は奈良時代以前の実在人物とされており、現実性に富んでいる。
→空想かつ伝奇出来要素の強いかぐや姫の生い立ちと昇天(①と③)を大枠として、写実的な求婚譚(②)が組み込まれているという形である。
《あらすじ》
◎①かぐや姫の生い立ち(発見)
-
昔、竹取翁が根元の光った竹を見つけ、不思議がって近づいた。
-
竹の筒の中には、3寸ばかりの小さな女の子がいた。
-
その女の子を翁と嫗(翁の妻)が養育し、3ヶ月で成人した。
-
光り輝く美しさから「なよ竹のかぐや姫」と命名された。
-
翁はかぐや姫と出会って以来、黄金の入った竹を発見するなど裕福になっていった。
〔幼子を見つける竹取の翁(土佐広通、土佐広澄・画)〕
◎②5人の貴公子の求婚と帝の求婚
-
美しいかぐや姫の元に多くの男が求婚した。
-
中でも5人の貴公子は熱心であり、かぐや姫はそれぞれに難題を与えた。
①石作皇子(いしつくりのみこ)
難題:仏の御石の鉢(中国に2つとない仏の鉢)
大和国の山寺においてあった蜂を偽って持参するが、かぐや姫がよく見ると本物の輝きが見られず、偽物とばれる。
〔立教大学・竹取物語絵巻デジタルライブラリより、一人目の求婚者の難題話。石作皇子と「仏の御石の鉢」。〕
②車持皇子(くらもちのみこ)
難題:蓬莱の玉の枝(根本は銀、茎が金、実が真珠の木の枝)
工匠(たくみ)に完成度の高い偽物を作らせたが、職人が褒賞を得てないとして、工賃を求めに押しかけてしまい、偽物であるとばれる。
〔立教大学・竹取物語絵巻デジタルライブラリより、車持皇子の嘘が露顕する場面。〕
③阿倍御主人(あべのみうし)
難題:火鼠の皮(火をつけても燃えない火鼠の毛皮)
唐土の人に取り寄せてもらい、高額で購入したが、火にかけた所あっさると灰になってしまい買ったものは偽物であり、詐欺にあったとともに求婚に失敗する。
〔立教大学・竹取物語絵巻デジタルライブラリより、阿倍の右大臣の失敗。〕
④大伴御行(おおとものみゆき)
難題:龍の頸の5色の玉(龍の首にある五色に光る玉)
自ら船に乗り、玉を獲りにいくものの、龍の怒りを買い、大嵐に巻き込まれ、命からがら逃げ出し、かぐや姫には殺されかけたと言いふらすも失敗。
〔立教大学・竹取物語絵巻デジタルライブラリより、遭難する大伴の大納言。〕
⑤石上麻呂足(いそのかみのまろたり)
難題:燕の子安貝(燕が子供を産むときに出す宝貝)
燕の巣に籠をぶら下げ子安貝を奪おうとするも、落下してしまい、腰の骨を折り、死亡。
〔立教大学・竹取物語絵巻デジタルライブラリより、落下する石上の中納言。〕
→結局、誰も成功しない。
☆最終的には、帝が求婚をする
帝はかぐや姫に入内するように命じる。
かぐや姫を無理に連れて行こうとするも、かぐや姫が消えてしまうので、あきらまるしかなかった。
未練たらたらの帝は、和歌を贈り、かぐや姫は思い悩みつつも返歌した。
〔立教大学・竹取物語絵巻デジタルライブラリより、あらたな求婚者として、帝が登場する。勅使を翁の家に派遣する場面。〕
◎③かぐや姫の昇天
-
かぐや姫は月を眺めて嘆くことが増えた。
-
翁と嫗は不思議がって尋ねると、
-
かぐや姫は、「月世界のものなので中秋の名月の夜に迎えが来る」といった。
-
8月15日の夜、天人たちが迎えにやってきた。
-
帝は2000人の警護兵を送るものの、役に立たず、かぐや姫は昇天する。
-
かぐや姫は形見として不老不死の薬を残すが、帝はかぐや姫がいなければどうにもならないんだと言い、
-
天に最も近い駿河国の山で焼いた。
→今の富士山は、不死山? 武士山?
〔月へ帰って行くかぐや姫(土佐広通、土佐広澄・画)〕
《『竹取物語』の主題》
あらすじからもわかるように、『竹取物語』は、
天上世界からやってきたかぐや姫が、人間世界で育ち、
再び、天上世界へ帰っていくという伝奇的な流れが枠組みとして存在する。(①と③)
美しいかぐや姫に求婚する貴公子の失敗が間に挟まれている。(②)
→あらすじを見ると、構成がよりわかりやすくなっている
→空想部分(①と③)に現実要素(②)が組み込まれていることもわかる
②では、上流貴族の虚偽や傲慢に満ちた実態が暴かれている。
ユーモアを交えることで、生き生きと描写されており、まさに現実的要素である。
①と③では、天から来たかぐや姫が憧れの的になるが、やがて天へと帰ってしまう空想性を見ることができる。
◎『竹取物語が描きたいもの』
・人間界と天上界は相容れることができないものであること
・天上界に絶対的優位性があること
・人間界は天への憧れが永遠にあること
ただし、
・人間であるが故の情愛
→翁が悲しみにより慟哭する所
⇒これは天上界には存在しない
(天上界は人間界を「穢き所」と決めつけている)
かぐや姫は人間界に来て愛を知った=天上界のものも人間の持つ愛を感じた
→人間の愛の素晴らしさを強調する形になっている
《史的意義》
現存する最古の物語
『源氏物語』においても、「物語の出来始めの祖」と評価されている。
伝承されてきた民間説話を軸として、空想性と現実性を対照かつ融合させ、ありのままの人間像を描き、人間の本質を追求した。
→物語の出発点
*近年チベットの民間説話である『斑竹姑娘』(はんちくこじょう/パヌチウクーニャン)が『竹取物語』と非常に似ているとして注目されたが、どちらが先にできたのかは不明。
さてこの先どうなるのやら。
《冒頭》
今は昔、竹取の翁といふ者ありけり。
野山にまじりて竹をとりつつ、よろづのことに使ひけり。
名をば、さぬきの造となむいひける。 その竹の中に、もと光る竹なむ一筋ありける。
あやしがりて、寄りて見るに、筒の中光りたり。
それを見れば、三寸ばかりなる人、いとうつくしうてゐたり。